月と六文銭・第十六章(21)
武田は根本的な失陥を抱えていた。"好奇心が旺盛過ぎて"自分を危険な状況に陥れる関係にも平気で突入してしまうのだった。
武田が銀座のホステス・喜美香と会うのは彼女の日本人離れした超弩級ボディが好きだったからだろう。レースクィーンのようにある意味決まった型にはまっているスタイルではなく、胸や尻の大きさだけでなく、全身の脂肪の層が適度にあったからだとも言えた。
~充満激情~
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武田は若い頃の苦い経験から、パソコンの表計算ソフトの計算結果を信用していなかった。特に債券投資において、桁が大きい、最低でも1ミリオン米ドル、感覚的には1億円から始まる取引単位で小数点以下8桁まで使う彼にとって、表計算ソフトの誤差はかなり大きいものに感じられた。
武田がいまだに金融電卓を使う理由が二つあった。
一つ目は、若い頃に金利計算の結果をひたすら並べた『イールド・ブック』を使って金利の計算をすることを叩きこまれた結果、当時の主流だった2で割り算をしていく英米式の1/2、1/4、1/8、1/16、1/32、1/64、1/128に慣れていたことがある。途中から小数方式に変わったため、両方式で計算結果を確認する習慣が抜けていなかった。今の若手などは『イールド・ブック』と言っても、自分たちの分野のバイブルだったことなど知る由もないのだ。
二つ目は、これまた若い頃の話だが、今は主流となっているパソコンの表計算ソフトで金利計算をしていたところ、想定していたよりも早い段階で計算の誤差が発生してしまって、上司に激怒されたことがあったからだ。
当時の表計算ソフトではまだ、科学計算や金融計算では一定の桁以降の計算結果が間違っている現象が存在した。イールド・ブックで確認していればそんなことにはならなかったのだろうが、最先端を行っているつもりで計算結果をプリントアウトして提出したのが、失敗だった。
その後、いわゆる外資系投資会社に転職をしたのだが、その時の上司は金融電卓をポケットから出して、必ず検算をそれでやっているのを見て、真似るところから始めた。
この上司、米国から日本に駐在していた人物だが、元々はシカゴ大学の経済学部出身で大学院ではノーベル経済学賞をもらった人物から直接指導を受けた弟子だというのが誇りだった。
この人が使う金融電卓は、もちろんHP社の12cという横長にして使うのが特徴のポケット電卓で、ビジネススクールなどでは必須のアイテムだった。
武田も外資にいた時は米国から取り寄せて使っていたし、米国勤務時にはもう一台予備として購入していた。今はスイスのベンチャーが作っている金融電卓SM12を使っていた。「世界で最も正確な電卓」という触れ込みで、12cと比べると小数点以下12桁目が若干違う計算結果を表示することがある。ここまでのレベルになると武田でもどちらが正確かは分からないので、パソコンの表計算ソフトには12cの結果を記入し、備考欄にSM12の結果を入力しておくことにしていた。
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「変わった電卓を使っているんですね」
武田が目を上げると、ホテルのバスローブに包まれた喜美香が自分の手元を見ていたのが分かった。
「あぁ、金融電卓、金利とかを計算するために使っている」
「一応、こう見えても大学では経済学を勉強したのですが、既にパソコンで計算していましたから、電卓なんてスマホに入っているのしか使ったことがないわ」
「そうだね、今時」
「それだけ専門的な計算が必要なお仕事ってことですよね?」
「まぁ、それと、表計算ソフトの誤差が気になる時があるから」
「え、そんなことがあるんですか?」
「僕が使うのは小数点以下8桁くらいまでだから、ほとんど違いはないけど、時々大きな金額になると確認のために12桁必要になることがあって」
「12桁って、1兆円?」
「凄いね、喜美香は単位がすぐに分かるんだ」
「え、万、億、兆で12桁ですから、そんなにすごいことでも。
尤も、その上の京くらいまでしか分かりませんけど」
喜美香は「うふ」と軽く微笑んで、ベッドの縁に腰を掛けて、武田にキスをしてきた。
武田はそれに応じながら、念の為、ショートカットキーで画面を真っ黒にして、ノートPCを膝からベッドの空きスペースに移した。
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武田は目の前のバスローブの前を広げ、豊かな胸の先にある突起に口をつけた。片方は丁寧に下から舐め上げるようにして堅くし、もう一方は親指で撫でながら硬くした。喜美香がうっとりするまでそれを続けた。
喜美香が唇を少し噛んで快感が高まっているのを表していた。
武田は右手を静かに股間に移した。左手は引き続き胸の突起を撫でているが、右手の中指は股間の真珠を転がして、噛んだ唇の間から吐息が漏れるまで待った。
「窓辺に座ってごらん」
喜美香はコクンと頷いて静かに立ち上がり、バスローブが落ちるに任せ、武田の手を引いて窓辺に向かった。部屋は寒くなくても、ガラスが冷たいことがあるので、武田は喜美香のバスローブを拾って、彼女が座る前に窓辺の段の所にサッと敷いた。
その行動を目の端で確認した喜美香は武田の顔を両手で寄せながら、キスをする前に耳元で囁いた。
「さすがですよね!
これに気が付く人、皆無!」
武田はニコッとして、喜美香とキスをしながら舌を絡めた。
口をはずした瞬間、喜美香が脚を広げ、武田を見つめ、誘った。
「来て💛」
武田はコクンと頷き、避妊の準備をしようと、ベッドの方に向かおうとしたが、喜美香にグイッと手を引っ張られた。
武田が振り向くと、三日月のように笑っている喜美香の目と、唇に挟まった銀と黒の四角い包みが目に飛び込んできた。
「君はいつも準備万端なんだね」
喜美香は頷き、口に挟まった包み紙を突き出す感じで、武田に早く取ってと訴えた。
武田が包み紙を喜美香の口から取って、縁をちぎり始めた時、喜美香は武田のバスローブの前を広げ、天に向かっている男根に両手を添えた。
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その晩、喜美香は窓辺に座って正面から武田を受け入れた後、窓の外を眺めながら後ろから彼を受け入れて、2度達した。
最後はベッドで交わり、正常位でFカップの胸を大きく揺らしながら果てた。武田は胸の大きい女性とは必ず正常位で交わり、胸が揺れるのを眺めるのが好きだった。
喜美香は武田を抱き枕代わりにして抱き着いて眠った。結局、喜美香は化粧を落とすことなく、そのまま眠った。
泊まる日でも化粧を落とさない喜美香に驚くというか、感心するというか、ここまでくるとスゴイ拘りなのだと認識するしかないと思ったまま、武田も眠ってしまった。
次の日の朝、遮光カーテンの隙間から差し込む陽と、少し先で微妙に揺れている喜美香の尻が見えた。股間から上ってくる快感は「お目覚」と呼ばれる朝立ちした男根を口で愛撫する行為から生じていた。頭を上下させている喜美香の髪が揺れているのと、それにつられて尻が揺れているのが淫靡だった。硬く、元気になった武田に喜美香が跨り、ゆっくり腰を下ろして、喜美香は元気な男根を飲み込んでいった。
「うふ、かったーい!」
「君のお目覚のお陰だよ」
「今日一日、いいスタートが切れますように」
そう言って喜美香は鍛えられた腹筋を使って前後に腰を振り、武田の手を取って、自分の胸を掴ませた。喜美香のFカップバストはやはり大きかった。武田の手に余る大きさだった。
テレビにも出ているレースクィーンの松田萌華もFカップだったが、それよりも大きく感じた。女性の胸のカップ数はアンダーとトップの差で計算されるもので、質量ではないことを武田は分かっていた。喜美香の胸はドーンと体積というか質量があり、萌香のは"ロケットおっぱい"でバーンと前に突き出ていたため、バストの高低差が大きかったのだと理解するしかなかった。
結局は朝食前にしっかりと一回分を武田から搾り取った喜美香は、ご機嫌になって出かける準備をした。