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36 フー友と赤坂に通った日々

 ぼくが『桃太郎電鉄』の開発チームで仕事をしていた2010年、日本にあの「HOOTERS(フーターズ)」が上陸した。
 フーターズとは、簡単に言うと「バストの大きな女の子ばかりをウェイトレスに揃え、白いタンクトップとオレンジのホットパンツという露出の多めなコスチュームで、彼女たちの健康的なお色気を積極的にアピールした、アメリカ発のレストランバー」である。以前から「日本にも支店ができるらしい」との話はあり、おっぱい星人のぼくもまだかまだかとその日が来るのを待ち侘びていた。そして、2010年の10月に、いよいよ赤坂で1号店がオープンするという。
 その日、ぼくは六本木のミッドタウンにあるハドソンで『桃鉄』の会議を済ませ、さらに次の仕事が赤坂なので、そちらへ移動していた。六本木駅から大江戸線で青山一丁目駅へ出て、銀座線に乗り換える。たったひと駅でもう赤坂見附駅だ。
 地上へ出ると、外堀通りの向こう側にフーターズ赤坂が入居する予定の東急キャピタル赤坂が見える。グランドオープンはまだ先のはずだけど、もしかしたら開店準備中の様子が見られるかもしれないと、ぼくは好奇心いっぱいで店のある場所へ向かった。
 すると、背広姿の関係者らしき人物が何人か店を出入りしている。そして、ガラス越しに中を覗いてみたところ……。えっ! 数人のお客さんがビール飲みながらフーターズガールとお話ししてる!
 ぼくが恐る恐る近づいていくと、背広の一人が声をかけてきた。
「無料なので、よかったらビール飲んで行かれませんか?」
 マジか!
 詳しく話を聞いてみると、今日はテストランをやっているのだという。テストランとはオープン前の試験営業で、実際にお客さんを入れて接客のシステムや店内の動線に不具合がないかを試すことだ。正式に告知すると大量の人間が集まってきてしまうので、たまたま通りかかった人にだけ声をかけていたというわけ。
 たまたま通りかかったぼくは、幸運にもその恩恵に与ることができた。たまたま、ね。

 カウンターに通され、メニューを渡される。このあとも仕事があるので、ハードリカーを飲むわけには行かない。なのでバドワイザーをもらう。瓶からダイレクトに飲むアメリカン・スタイルが好もしい。
 接客についてくれたのは、ドイツ系のEmiriaちゃん。ショートカットに青い目がきらりと光る美人で、上半身がけっこう筋肉質。かっこいい女性が好きなぼくは一発で気に入ってしまった。
 こっちも緊張しているが、向こうも初の接客で緊張している。お互い自分のことなどを少しずつ話す。Emiriaはポールダンスをやっているそうで、なるほど肩のあたりの筋肉はそのためだったか。
 ビールをそろそろ飲み終えるかという頃合いに、Emiriaが「この後はどうされるんですか?」と聞いてきた。えっ!? となるよね。アフターの誘いかと。もちろんフーターズがそういう店でないのは知っている。ってことは、営業じゃなくてマジで誘ってる???
 と思ったら、単にもう1本飲むの? 飲まないで帰るの? と尋ねているだけだった。アルコールで緩んでいるぼくの脳は、自分に都合のいいオヤジモードに入っていたわけだ。
 まあ仕事があるので、その日は素直に帰った。それから後日、正式にグランドオープンしたときには、友達を誘って繰り出した。そのときは別の女の子(Marieちゃん)がテーブルについたけど、通りかかったEmiriaともアイコンタクトで挨拶をした。もう「俺の女」気分。バカだね。
 以後、赤坂店にちょいちょい通うようになり、追っかけで開店した銀座店や渋谷店にも足を運んだ。いちばん一緒に行った回数が多いのは同業者の柴尾英令くん。彼は日本上陸前にアメリカで何度か訪れているらしく、店のシステムにも詳しかった。ぼくのいちばんの“フー友”だ。2018年に彼が亡くなったときも、共通の仲間達でお別れ会の打ち合わせをフーターズでやった。
 柴尾くんがいなくなって、ぼくがフーターズに行く機会もめっきり減ったけど、たまにはまた誰かを誘って行ってみようかと思う。

※向かって右から二番目がEmiria。美しいなー!

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