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15 たこ焼きたっちゃんと明大前の鉄板の穴

 この世にたこ焼きが嫌いな人間なんているんだろうか?
 まあ、食べ物に関してはかなり偏見に満ちた奴の言うことなんで、あんまり本気で受け止めないでほしいのだが、実際のところ、たこ焼きはうまい。
 表面はカリッと焼けて、中は小麦粉の生地がとろりとして熱々。その上には鰹節が踊り、青海苔なんかも振りかけてある。そしてソース。ちょっと甘めのどろりとしたやつ。お好みでマヨネーズもいい。

 TBSラジオ「伊集院光とらじおと」に「俺の5つ星」というコーナーがあった。リスナーたちの想い出の店、想い出の味について語るという企画だが、その中で「たこ焼きたっちゃん」が紹介されたことがある。
 番組にリスナーから寄せられたメールによると、その人が松戸市に住んでいた小学生時代、緑色の小さなバンでたこ焼きを売りに来る「たっちゃん」という店があった。そのクルマは移動しながらテーマソングを流していて、それが「♪ホンワカね~、フンワカね~、ホンワカ、フンワカ、ホンワカ、ホイホイ! ぼく、たこ焼きのたっちゃんで~す。でっか~い蛸が入った、たこ焼きだよ。よろしくね~」というものだ。
 このたこ焼き、ぼくもよく覚えている。というか、近所に来るたびに買って食べていた。なにしろ、100メートルくらいまで接近してくると、例の歌声が聴こえてくるから、すぐわかるのだ。ラジオでは「女性の声で」と言っていたが、あれは女性が少年の声色を使っていたように思う。声優界ではよくある手法。
 それと、セリフの「でっか~い蛸が入った、たこ焼きだよ。よろしくね~」のところだけ、「たこ焼き↑だよ?」と「き」にアクセントがある疑問系で、どうにもムズムズしたことまで覚えている。
 我が家が松戸にいまの家を建て、両国から転居してきたのは1977年の5月。ぼくが高校1年のときだった。親父も自分の城を持ち、気持ちが浮かれていたのだろう。あの歌声が聴こえてくると、誰よりも先に「たっちゃん来たぞ、昭仁、買ってこい!」と、いそいそ財布を開いていた。
 たっちゃんのたこ焼きは、他のどの店のものとも似ておらず、まん丸ではなかった。金型は、ちょっと深めの円形の穴が10個くらいずつ2列に並んだもので、そこに生地を流し込み、蛸、ネギ、紅生姜などを入れて焼く。金串で回転させたりはしない。
 金型の隣には平面の鉄板が蝶番でつながっていて、程よく火が通ってきたらバタンとその鉄板で蓋をしてひっくり返す。そうやって上面部分も焼いてやれば出来上がり。回転させないので完成形は球体ではなく、ポケモンのディグダに似てると言えば伝わるだろうか。
 あとは、通常のたこ焼きと同様にソース、鰹節、青海苔をふりかける。関東で、なおかつ昭和時代のたこ焼きなので、マヨネーズをかけたりはしない。形状の関係で普通のたこ焼きより大きく、そのぶん中は異常に熱々でうまかったなあ。これもまた、ぼくを熱い物好きにさせた要因のひとつだ。

 フリーライターになり、明大前に事務所をかまえていたときは、すぐそばの甲州街道沿いにお好み焼き屋があった。そこはテーブルの鉄板の脇にたこ焼き用の穴が設けられていて、自分で焼いて食べることができた。もう店名も覚えていないが、この店にもよく通って、たこ焼きばかり食べていた。
 お好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼きが三大粉もん料理だとするなら、この中では断然たこ焼きが熱いと思うので、どうしたってそれを選んでしまうのである。
 のちに妻となる彼女と出会ったのも明大前時代で、付き合い始めてからは、よくこのお好み焼き屋にも連れて行った。当然食べるのはたこ焼きだ。鉄板を挟んで向かい合わせに座る。ぼくは得意げにたこ焼きを作ってみせる。それをじっと見つめる彼女。
 たこ焼きたっちゃんはぼくにとっても俺の5つ星だが、明大前のお好み焼き屋のたこ焼きは、俺の7つ星と言っていい。

※写真は、先日大阪に行ったときに食べた会津屋のたこ焼き。こちらはソースをかけないスタイルだそうだが、ちょっと物足りない気がした。

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とみさわ昭仁
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