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FISHMANのビールを通して伝えたい、「基礎を貫く美しさ」
以前受けた雑誌のインタビューで、「僕は飲食業界のタイガーマスクになりたい」と力説し、プロレスに詳しくない人たちを置いてきぼりにした森です。
「初代タイガーマスク」は1980年代、子供から大人までを虜にしたプロレス界のヒーロー。もちろん僕もその一人で、当時はその「強さ」と活躍ぶりに熱狂したものです。
一見、自由に暴れ回っているようで、彼があれほどまでに人気者になれた理由。
それは一つひとつの所作や蹴りの“美しさ”から垣間見える「基本への忠実さ」と「品性」にあると僕は思っています。
そして飲食業界に限らずあらゆる仕事においても、この「基本」を大事にしている人は本当にかっこいいんです。
広島のビール注ぎのプロから感じた「美しさ」
いまFISHMANで提供しているビールは、広島県にいる「ビール注ぎのプロ」、重富さんに教わった手法で提供しています。
彼は、ビールを注いだときの「泡」で味を変化させ、1種類のビールから何通りもの味わい方を教えてくれるプロ。
重富さんがサーブするビールを飲みに“100人”の行列ができるほどの人気ぶりです。
僕は以前、彼のことを知ってどうしても直接話が聞きたくなり、FISHMANのスタッフたちを連れて広島の彼の店を訪れました。
複数で押しかけたにもかかわらず、「最高の状態のビールの注ぎ手を増やしたい」と、なんと7時間もその技術とビールへの思いを語ってくれました。
名だたるメディアから「ビール注ぎのプロ」として紹介させてほしいと声もかかったそうですが、重富さんはお断りしているそうです。
美味しいビールの注ぎ手を増やし、「最高のビールで幸せになってほしい」という思いをもつ彼が、なぜ影響力のあるメディアのオファーを受けなかったのか?
彼の答えはシンプルでした。
「僕は『酒屋』だから」。
そう、100人の行列ができる彼のお店は居酒屋でもバーでもなく、「酒屋の角打ち」なんです。
自分の仕事は「酒を売ること」。クラフトビールを売っているわけでもない。
あらゆる場所でつくられた、それぞれのビールの美味しさと可能性を知ってもらうため、一番美味しくなる注ぎ方を学んで提供している。
「酒屋」としての自身の在り方と信念は見失わず、ビールについて語り続ける重富さんから感じたのは、初代タイガーマスクと重なる「品性」と「美しさ」でした。
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緊急事態宣言中、FISHMANでもアルコールの提供はストップしています。
飲食店での酒の提供についても風向きは変わってきているようですが、安心してお酒を楽しめるようになるのはもう少し先みたいです。
ただ、いま僕たちが提供しているビールは、ビールを愛し、最上級に美味しい状態の可能性を追求し続ける「本物」から学んだ、最高のビールです。
広島から受け継いできた、「最初のひとくちの幸せ」を体感してもらえる日まで、教えていただいた「基本」の技術を磨き続けます。