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『百人一首ノート』(今日マチ子)

忙しい先生のための作品紹介。第22弾は……

今日マチ子『百人一首ノート』(KADOKAWA、2016)
対応する教材    『百人一首』
ページ数      109ページ
原作・史実の忠実度 ★☆☆☆☆
読みやすさ     ★★★★☆
図・絵の多さ    ★★★★★
レベル       ★★★☆☆

作品内容

 オールカラーで、淡い色合いの柔らかい空気感をまとった画風で描かれる『百人一首』。一首1ページに収まる短い漫画には台詞や音はなく、もとの歌以外の言葉に邪魔されることはありません。一首1ページの漫画にその簡単な訳が一行添えられています。

 それぞれのエピソードは、この本の作者が歌から膨らむイメージを絵にしたものです。恋愛の歌とされる歌が友情を想起させる漫画になっているなど、一般的な解釈とは異なるものもありますが、別の新たな作品として愉しんでいただければと思います。

おすすめポイント「さわやかに彩られる”わたしの”百人一首」

 もとの歌に込められた意味を知ってこそ、新しく解釈された情景が沁み入るな、と感じた歌を紹介します。

30番 有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし(壬生忠岑)

  ピーターパンが夜空に去っていく背中を、名残惜しげに一人見送るウェンディの姿が描かれています。ピーターパンと共に過ごせるのはまさに夜の間だけ。ファンタジーでも、暁はお別れの時間と決まっているのです。

77番 瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ(崇徳院)

 元の歌では、別れたり合流したりする水流を自分と想い人にたとえていますが、漫画では上着のファスナーの左右を、男女が一緒になったり離れたりする様子に見立てています。さらに、そのファスナーのついた上着の持ち主のストーリーにつながっていきます。物語が入れ子になった構造は、漫画だからできる描き方で面白いと思いました。

 他には、漫画自体にはあまりストーリー性がなく、何かの一場面を切り取った絵画に近いものもあります。どの作品も、読む人の感性に委ねられているような、余白のある表現が印象的です。

授業で使うとしたら

 本書では、『百人一首』の世界を現代の価値観に置き換えるとどうなるか、というのがかなり丁寧に描かれています。そのため、生徒にとって縁遠いと思われがちな古文もこれがあれば共感しやすくなるのではないでしょうか。

 また、歌によって、歌の意味をそのまま漫画にしたもの(「わがいほは~」「ほととぎす~」など)、前後の文脈を付け加えたもの(「なげきつつ~」「よもすがら~」)、歌の一部を取り出したもの(「はるすぎて~」「はなのいろは~」)、そして元の歌と別の文脈で解釈し直したもの(「ちぎりきな~」「たかさごの~」)などさまざまです。そのため、内容の把握の補助にしたり、解釈する助けや議論の素材にしたり、さまざまな学習段階で用いることができるのも魅力です。

 一首一枚で台詞や音のないイラストだからこそのよさを、さまざまな場面で活かせそうな一冊です。

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