『地獄変』(芥川龍之介)
忙しい先生のための作品紹介。第34弾は……
芥川龍之介『地獄変』
対応する教材 「絵仏師良秀」
ページ数 54ページ
原作・史実の忠実度 ★★☆☆☆
読みやすさ ★★★☆☆
図・絵の多さ ☆☆☆☆☆
レベル ★★★☆☆
作品内容
吝嗇で、慳貪で、恥知らずで、怠け者で、強欲で、横柄で、高慢な絵師・良秀が主人公です。絵を描くためであれば、弟子を裸にして鎖で縛ったり、ミミズクに弟子を襲わせたりすることも厭いません。ある日大殿様に地獄変(勧善懲悪のため地獄の苦しみを表した絵、地獄変相図)の絵を描くように言われた良秀は、牛車の中で炎にもだえる女の姿が見たいと言います。それをうけて大殿様は牛車を燃やす計画を立てますが、牛車の中にいたのは……?
おすすめポイント 冷酷な良秀の意外な一面!?
本作品は、『宇治拾遺物語』「絵仏師良秀」に着想を得た話です。作中に「私は先年大火事がございました時に、炎熱地獄の猛火にもまがう火の手を、眼のあたりに眺めました。『よじり不動』の火焔を描きましたのも、実はあの火事に遇ったからでございまする」という台詞があり、実際に絵仏師良秀の後日談として描かれていることがわかります。
本作の注目ポイントは、良秀の親としての一面です。「このなんとも言いようのない、横道者の良秀にさえ、たった一つ人間らしい、情愛のあるところがございました」と娘への愛が語られています。「絵仏師良秀」では、家族を一切省みない人物として描かれていた良秀が、『地獄変』では娘を溺愛する親の一面を持ちます。それ故「絵仏師良秀」とはまた違った人物像が浮かび上がるのではないでしょうか。
また、良秀以上の悪人が描かれているのもポイントです。良秀よりも無慈悲な人が出てくることで、より良秀への共感を集めやすくなっています。
授業で使うとしたら
先にも紹介したように、本作は「絵仏師良秀」の話そのものは描かれていません。そのため、授業で直接用いることは難しいでしょう。しかし、「絵仏師良秀」の読解後、良秀の人物像を考えるなどの発展課題の資料としては使えるのではないでしょうか。
あくまで芥川龍之介の創作した話である、という点は注意が必要です。しかし、「芸術のためならすべてを犠牲にする、極悪非道な人」として片付けられてしまいがちな良秀の人物像を考える上で、良いスパイスとなるのではないでしょうか。