台鉄は昭和、高鉄は現代、捷運は近未来の電車
< もくじ >
はじめに
【概要】台湾の鉄道
1.国営鉄道「台鉄」
2.公営地下鉄「捷運」
3.民営地下鉄、民営新幹線「高鉄」
【比較】3種の電車を比較
【事故】台湾鉄道界における事故履歴
1.台鉄
2.捷運
3.高鉄
はじめに
2018年10月21日プユマ号脱線事故にて亡くなられた方にご冥福をお祈りします。また、ご遺族の方や心身に傷を負った方々の早期回復をお祈りしています。
本稿は、日本のみなさんに、今回重大事故を起こした交通部台湾鉄路管理局(台鉄)の電車がどんな乗り物であるか、および他にはどんな電車があるのかという台湾鉄道界の全体像を、筆者の主観ではありますが、少しでもお伝えできればという趣旨で投稿しております。
なお、プユマ号脱線事故については、10月25日現在も事故調査等が進行中ですので、随時各メディアによる報道を追っていただければと思います。推奨メディア:中央フォーカス台湾
【概要】台湾の鉄道
1.国営鉄道「台鉄」
台湾島内で鉄道建設が始まったのは、清朝統治時代末期だが、本格的な鉄道事業開始は日本統治時代になってからだった。日本統治時代における鉄道事業は軍事面での戦略的要素が強かったと思われるが、台湾の近代化に大きな役割を果たしたとも言われている。
第二次世界大戦後、国民党(中華民国)の統治下に入った台湾では、鉄道も当局によって接収された。国営鉄道としての鉄道は現在に至るまで続いており、それが交通部台湾鉄路管理局が運営する鉄道「台湾鉄路」である(以下「台鉄」という)。台鉄は、日本でいうところの、かつての「国鉄」と捉えると分かりやすい。1980年代以降、世界の国営事業民営化の流れもあり、台鉄も民営化への動きはあるものの、未だ民営化に至っていない。債務長期化や組織体質等、民営化を阻む頑強な壁を複数内在しているようである。
また、国営鉄道には、日本統治時代は林業用に建設され、現在は主に観光用となっている行政院農業委員会林務局管轄の阿里山森林鉄路という森林鉄道もある。
2.公営地下鉄「捷運」
1996年開業の公営地下鉄、台北捷運(しょううん)は、都市の慢性的な交通渋滞を緩和する為に建設された、台北市の地下鉄である。公営地下鉄には、他に桃園市の桃園捷運、建設中の新北市・新北捷運および台中市・台中捷運、計画中の台南市・台南捷運がある。桃園捷運には桃園機場捷運の路線網も含まれている。桃園機場捷運は桃園国際空港と台北市内・桃園新幹線駅をダイレクトにつないでいる地下鉄路線であり、国内の桃園国際空港へのアクセス向上に貢献している。
3.民営地下鉄、民営新幹線「高鉄」
高雄市・高雄捷運は他市の地下鉄と異なり36年間のBOT*¹方式で運営されている地下鉄である。民営地下鉄であるため、運営方法にも独自性や柔軟性が見られる。二次元萌系マスコットキャラクターの導入、美麗島駅のパブリックアート「光之穹頂」など、話題性が多い。台湾で初めて日本語による車内アナウンスが導入されたのも高雄捷運である。
2007年に開業した台北と高雄を結ぶ高速鉄道である台湾高速鉄道(以下、「高鉄」という)は、地震多発国であることから、安全性を重視し建設された民間経営の新幹線である。高鉄は、日本が新幹線の車両技術を輸出・現地導入した初めての事例でもある。導入後10年が経過し、近年は外国製の部品が高額であることから、国内生産品への切替えの動きが見られる。
【比較】3種の電車を比較
あくまでも筆者の主観ではあるが、台鉄、捷運、高鉄を比較すると、台鉄は昭和、高鉄は現代、捷運は近未来の電車という感覚がある。
台鉄で使用されている車両は様々なものがあるが、ときに、まるで「骨董品」のような車両を見かけることもある。そんな車両に乗ると、昭和時代かのようなレトロ感を味わう旅になる。また、田舎を走る路線は客が少なく、万年赤字状態ということからも台鉄の行く末は懸念される。台鉄の雇用体制についても、昔から軍人の転職先として人気があると聞いているだけあり、運転手等は総じて年配男性が多い印象である。
高鉄は日本人が思うTHE新幹線である。日本と同様の車両技術であることから、高鉄に乗っていると日本にいるような感覚に陥ることもある。車内ワゴン販売サービスもある。ただし、地方都市に行くと、新幹線駅周辺が畑や空き地だらけであることに驚くこともある。そのような地域では、新幹線駅周辺の開発計画が進行中である。また、高鉄の指定席切符は台北から高雄(左營駅)までの値段が1,490元(日本円で約5,513円*2018年10月現在)であるが、他の交通機関と比べて高価であるため、市民感覚としては非常にリッチな乗り物でもある。
捷運は日本の地下鉄と比べても、乗り心地の良さや洗練されたデザインから、近未来の乗り物だと感じる。近年日本で増設が叫ばれるホームドアは標準設置されており、優先座席は色によって分かりやすく判別でき、正しい利用方法も市民に普及している。何よりも、車椅子生活者や視覚障害者の利用率が高いことが素晴らしい。駅構内では障害者を導くアテンドさんたちが活躍しており、ユニバーサルデザインのトイレも多くみられる。
【事故】台湾鉄道界における事故履歴 ※事故・事件内容を適切に表現するため、一部残虐な表現が含まれていますのでご注意ください。
1.台鉄
1910年代以降、「死者3人以上、死傷者10人以上、あるいは受傷者15人以上」を定義とする重大事故は何度も発生している。以下、特筆すべき大事故を列記する。
1981年台鉄頭前溪橋事故…特急(自強号)がダンプカーに衝突し脱線・転覆。30人死亡、130人重軽傷。
1991年台鉄造橋列車衝突事故…特急(自強号)と南下する急行(莒光号)が衝突した事故。30人死亡、112人重軽傷。
2018年10月21日プユマ号脱線事故…18人死亡、215人重軽傷。
2.捷運
運行による重大事故は発生していないが、台北捷運の車内にて、2014年5月21日「台北地下鉄通り魔事件」が発生した。新北市出身の東海大学男子学生が車内で突然ナイフを取り出し、他の乗客に襲い掛かった。この事件で4人が死亡、24人が負傷した。龍山寺駅から江子翠駅の間で事件が起こったことについて、犯人は当区画間の距離が長いことを利用したともいわれている。この事件は、台湾社会に大きな影響を与えた。
3.高鉄
2007年の開業以来、重大事故は2018年10月現在まで起きていない。
【注釈】*¹BOT(Build Operate Transfer)とは、民間事業者が、庁舎や公営住宅、小学校などの公共施設の建設を行い、維持・管理・運営し、事業終了後に施設所有権を国や地方自治体に譲渡する事業方式である。BOTという用語は、Build(建て)、Operate(管理し)、Transfer(譲渡する)の頭文字に由来している。https://plant.ten-navi.com/dictionary/cat06/3778/より
【参考文献】
Core Ethics Vol. 6(2010)
論文『台湾鉄道における「民営化改革」をめぐる歴史とその政治
―戦後から 1989 年「民営化改革」まで―』
蔡正倫