ピアノを見に行く
1月から、息子がピアノに通い始めた。たどたどしいが、嬉しそうにピアノを弾いていく息子を見ながら、この間まで赤ちゃんだったのにと一人でしんみりする。「この間まで赤ちゃんだった」しんみりは週に数回はやる。
「ピアノを買われる予定はありますか」
先生が尋ねてくれた。
「あるっちゃあるがないっちゃない」
という煮え切らない返答をしてしまった人間にも、懇切丁寧に楽器屋の紹介をしてくれた。
「この楽器屋さんのこの方が、私のピアノ教室の担当なので、相談に乗っていただけるはずです」
ピアノ教室の担当なんてあるのか。マージンでもあるのだろうか。Amazonを見ると数万円からピアノがある時代、やたらと楽器屋を見かけるのってそういうことなんだろうか。品の良い先生から聞かされたことに、やたらと俗っぽい考えを持ってしまう。
ピアノ教室は午前中だったので、午後から楽器屋に向かった。冬なのに、日向であればコートが要らないくらいの陽気である。昼寝のことを考えながら電車に乗った。
数駅隣の大きな駅の、駅の真ん前に楽器屋があった。銀座の日本一地価の高いところを思い浮かべて、そことは違う系列の楽器屋でも地価にこだわるのだろうかと思う。
入るとずらりとピアノが並んでいた。「試弾はお声がけください」と書いてあり、すでにそわそわしている息子に、触らないでねと声をかける。触っちゃダメと言われると余計に気になるのか、目が鍵盤に釘付けになっている。電車ピアノでも10万くらいはするのかと一人で少し落胆する。
店員さんに聞くと、ピアノ教室の担当者の方が出てきた。まずは電子ピアノの説明を受け、息子に少し触らせてもらった。いつもピアノ教室では嬉しくてたまらないような顔をしているのに、電子ピアノではつまらなそうに触った。隣で聞く私も、音の違いからして息子の反応の違いに納得した。しかし我が家はアパートなので電子ピアノ一択である。続けるかどうかもわからないのでできるだけ安く済ませたいし。
まずは一通りピアノの説明を、ということで2階に上がる。アップライトピアノとグランドピアノが並んでいた。お値段のマルも増えた。降りたくなった。
アップライトピアノがコンパクトだしおすすめ、と店員さんは言う。そりゃそうだろと私は思う。息子が触り始め、顔がにこにこしていく。弦が震える、楽器の音がする。
電子ピアノを触りに行こうと息子にちょくちょく言っても、息子は2階のピアノに齧り付いたままだった。買えないよと言っても。そりゃそうである、こんなに音が違うのである。小さい子ならなおさら聞き分けるだろう。
何度か声をかけるとさすがに諦め、3人で電子ピアノを見たが、やっぱりもう電子ピアノには触りもしなかった。
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