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8/17 石巻レポ〜人間のものづくりの原点を垣間見る〜

やっとコロナが明けて、3年ぶりに東北に帰省した。
太平洋にひらける壮大な海と切り立った山々に囲まれた三陸はいつ行ってもときめく場所だ。同時に、津波で全てを拭い去る大自然の怖さと人間の小ささを幼い頃の私に感じさせた場所でもある。
13年の月日が経ち、震災の被害の跡形はほとんどないように感じた。
祖父母の家に行った帰りに、今回初めて宮城県石巻市を訪れた。

全体の印象

だいぶ復興してきていて、津波の痕跡にも気づかなかった。ところどころにある広大な空き地にかつての更地や瓦礫の跡が重なったが、初めて来れば分からないだろう。
沿岸の建物はほとんど新築で、どこまで浸水したかはなんとなく分かる。沿岸は、また津波が来れば建物は残らないということが人々の感覚に染み込んでいるのだろうか、とても仮設的で簡素な造りの建物が多かった。
石巻は宮城県でも有数の漁港。大きな平野で、見通しがよく山に囲まれていて海にもひらけている、のどかで心地よさを感じる町だ。

港の様子。

石巻工房

石巻工房入口

オランダにいる時からずっとお邪魔したかった、「石巻工房」を見学した。
震災当時、壊れた家を修理する人がおらず、みんなそのまま使っていたのを見て、町工場の人が市民工房を開いたことが始まりの「石巻工房」。今はデザイナーとタッグを組んで、世界的に展開している。

元々は、限られた資源とツールしかない状況下で、いかに生活に必要なものを作るかという部分から始まった。市民の人たちが作り、使用するため「つくりやすく、つかいやすい」ものづくりが起点となっている。

例えば、現在販売しているベンチの原型は、震災の時の屋外上映会のために作ったものだそう。映画館のあった建物が流されてしまったため、建物の白い壁にフィルムを投影して、屋外上映会をやろうということになったそうだ。投影できる壁はあるが、座る椅子がないということで、市民の人たちで50台ほどのベンチを作ったそうだ。
当時使用したベンチが一つ残してあったが、13年経ってもだいぶしっかりしていた。

作りやすい、という点では、材料のサイズや接合の角度がとても重要な役割を果たしていた。

石巻工房の家具は、できるだけシンプルに2×2, 2×4, 2×6のスギ材を使って加工している。震災当時、支援物資として送られてきた材木で作ったことからきているそうだ。

他にも、椅子の足の角度もとても興味深かった。角度は、67.5度。正方形の紙を半分に折ると、45度、さらに半分に折ると、22.5度
45+22.5=67.5 
ということで、正方形の一つの角を半分に、もう一つの角を1/4に折ると、残りの角が67.5度になる。分度器もなかった震災直後に、紙を折って角度の目安を作って椅子を作ったことから来ているそうだ。

工場の方が、紙で67.5度を折って作って説明してくれた。

当時は、ノコギリ、電動ドライバー、紙、そして木材だけで必要な椅子やテーブルを作っていった。今も、工房では複雑な道具などは使わずに日曜大工で使うようなシンプルな工具だけで製品を仕上げていた。

限られたツールと資源を使って、使いやすいものを作る。
経済合理性ではなく、必要性と使いやすさから逆算する。
災害時、何も無くなった時にものを作るということは「生きること」に直結している。

人間のものづくりの原点とも言えるような姿勢と、そこから生まれる創意工夫に感動してしまった。

現在は家具をブランディングして売っている石巻工房。
デザイナーと地元の工場のコラボレーションで実現しているそうだ。
このようなブランディングに成功したからこそ、それを手段として、震災の時に図らずも生み出された「つくりやすさ、つかいやすさ」という価値を大切に伝え続けていくことができる。
人間の原点に立ち返ったものづくりが、今も共感を呼んでいるのではないだろうか。

石巻Homebase 

石巻Homebaseは、石巻工房で作った家具のショールーム兼カフェ。
光の抜け具合が良い、可愛らしい建物だった。
石巻を訪れることがあれば是非立ち寄ってほしい。

まきあーとテラス

外から見ると工場のようで、まるで抽象画の中から立体として出てきたような建物。いかにも復興のシンボルの一つとして建てられたような雰囲気がした。
中に入ると、いろいろな立体が壁から迫り出していたり、鏡がところどころにあったりと、積み木で作ったちょっとした異世界のような感じがした。

まきアートテラスの外観


中の窓はこんな感じ。


「民具のデザイン図鑑」という展覧会を開催していたのでふらっと立ち寄った。これまで、伝統的な観点から取り上げられてきた「民具」を、デザインの観点から捉え直す試みの展覧会だった。

実用性や必要性から生まれるデザインはとても洗練されていて、かつ年季の入った手触り感があった。

民具には、ものを運ぶ、保存する、着るなど人間の基本的な暮らしの要素を持っているものと、人々が願いや祈りを込めた異世界との繋がりの窓口としての要素を持つものの二つがあった。

民具が使われていた時代は、ほぼ全ての人が自分でモノを作れる時代。
それだからこそ合理的で使いやすいものが作られ、人々の世界観や信じるものが色濃く日常生活の道具に反映され、そうして暮らしが豊かになっていったのだろうと思う。

民具が使われていた当時は、限られた資源を使って創意工夫をしながら生きる術を見つけていった時代。

全体的な気づき

「つくりやすい、つかいやすいもの」は、人間のものづくりの原点であり、それは古代から変わらないものであること。
日常で使うものに、価値観や身体的な感覚が反映されて土地の文化が作られていくこと。

今私たちが日常で使っているものは、安く大量生産されたものが殆どなのではないか。それこそ「良いモノ」は高い値段でしか買えない。

これから、みんながモノを作れる時代になっていく中、人間のものづくりの原点に立ち戻っていくことが豊かな暮らしを取り戻す鍵なのかもしれない。
DIYをするにも、工業的なデザインを真似るのではなく、自分にとってしっくりくる手触り、使い心地を自分なりに探求し、ユーモアを取り入れることで「新しい民具」が生まれてくるのではないだろうか。

時間の流れを超えて息づく、ものづくりの源流と未来を垣間見た、石巻。
これからの民具2.0の時代に期待したい。

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