見出し画像

伝説の映画シリーズ マッドマックスの旧三部作を解説(前史)

 MAD MAXは子供の頃よくTVでやっていて(ほとんどMAD  MAX2)、漫画「北斗の拳」の世界観の元ネタとしてよく知られている。シリーズ4作目が30年ぶりの新作として5年前に公開され、以来、「七人の侍」と並ぶ私の大好きアクション映画の1位となっている。非常に評判が高く、多くの解説がネットに上がっている。まずは前史を解説したい。(小野堅太郎)

 まずは、MAD MAXを知らない読者もおられるので説明しよう。今から40年ほど前、1979年に公開されたオーストラリア映画である。直訳すると「狂気のマックスくん」という意味なのだが、MAXは「最大」の意味もかけており、イメージとして「とんでもなくやばい」ということになる。マッドマックス、という韻を踏んだごろの良さ、上下にアルファベット3文字ずつというバランスのいいタイトルビジュアルなど一作目からかなり完成されている。内容はシリーズ各作品においてほぼ独立しており、共通しているのはマックスという男を中心にクライマックスで一本道を走りながら凶悪軍団たちと戦いを繰り広げるということである。

 MAD MAX一作目は暴走族に妻子を殺された警官マックスが復讐するというストーリーで、俳優メル・ギブソンの輝かしいデビュー作である。英語がオーストラリア訛りであるため、アメリカではアメリカ英語に吹き替えられ、ヒットもしていない(世界的にはヒットした)。撮影中に何人か死んだという噂があるが、どうやら噂だけのよう。小野のスリラー映画No.2は「ソウ」という映画で(No.1は「羊たちの沈黙」)、その後シリーズ化されているが、監督ジェームズ・ワンと脚本・主演リー・ワネルによるオーストラリアコンビである。ソウとはsawでノコギリという意味で、話の重要なアイテムであるが、元ネタはMAD MAX一作目のあるシーンである(両作品のネタバレになるので、言いません)。sawは「見られる」のダブルミーニングで、本作品のMAD MAXリスペクトが各所に見受けられる。

 MAD MAX二作目は、2年後の1981年にMAD MAX2として日本公開された。アメリカでは1作目がヒットしていないため、副題のThe Road Warriorというタイトルで公開されたらしい(そんな名のプロレスラーコンビがいたのを知っていますか?)。この時期の映画界は、スターウォーズブームの真っ最中。そして、米ソ冷戦下。世紀末思想を取り入れ、核戦争後の世界における英雄譚のストーリーへと変貌する。メル・ギブソンはナイーブな演技から三船敏郎の男くさい演技に切り替えます。話や演出があまりにも七人の侍に似ているが、ビジュアルが衝撃的だった。革ジャンに肩当てという前作のイメージは踏襲しつつも、モヒカン、タトゥー、改造車、ホッケーマスクなど子供ながらに未来の地獄を感じた。ちなみに、このホッケーマスクが受けて、「13日の金曜日」シリーズのジェイソン君は3作目よりこのマスクをかぶり、キャラクターが定着します。そして日本では1983年に少年ジャンプにて「北斗の拳」が始まる。ビジュアルイメージは完全にMAD MAX2。当時、小学校3年生の私はジャンプ黄金期を過ごした。書くときりがないが「キン肉マン」「キャプテン翼」「Dr. スランプ」「ウイングマン」「キャッツアイ」「コブラ」「ハイスクール奇面組」が連載されていた時代。他にも「こち亀」をはじめとする名作群が連載されていた。現在はJoJoで有名な荒木飛呂彦氏による「魔少年ビーティー」も連載されていた(残念ながらビーディーにはまったのはクラスで私だけでしたが)。

 MAD MAX3サンダードームは、さらにセットや衣装などのビジュアルに凝る。4年後の1985年に公開され、英雄譚をより分かりやすくし、子供たちへのメッセージなどを盛り込んでいる。同じくメル・ギブソンを主人公マックスにして、相手役に歌手のティナ・ターナーが出演。カットが荒くストーリーを追いにくいうえに、音楽のミスマッチ、変なギャグ(バスターキートンやったり)など同じシリーズとは思えないひどさ。ただ、ウォーボーイズの元ネタがあり、町のエネルギー源をメタンガスで供給するなど第4作怒りのデスロードに繋がる伏線と考えれば、MAD MAXファンなら必見の作品。

 最新の4作目も含めて、監督を務めるのはジョージ・ミラー。3作目だけ他の監督と共同でやっている。意外に知られていないが、ジョージ・ミラーは医者でもあり、MAD MAX一作目の撮影中も救急で働きながら資金を集めていたらしい。メル・ギブソンが「リーサル・ウェポン」シリーズの主演でヒットする中、ジョージ・ミラーは1992年「ロレンツィオのオイル」という医療系映画を作製する。不治の病をある脂肪酸組成のオイルを摂らせることで改善させるという話で、熱狂的な話題とその後の治療効果に対する疑念など、難しい評価をたどることになる。研究への打ち込みの描写などは胸に来る。メル・ギブソンは監督に転身し、1995年「ブレイブハート」でアカデミー作品・監督賞を受賞。そんな中、なんと、ジョージ・ミラーは1998年「ベイブ」という平和な豚のCG映画を世に出してくる。MAD MAXの監督が!MAD MAX3サンダードームでは、これをやりたかったのではないかと勘繰るほど。そして、ペンギンCG映画「ハッピーフィート」(2006年)で長編アニメ部門アカデミー賞を受賞。MAD MAXファンとしては、時の流れが人を変えてしまうという、過去何度となく繰り返された人の歴史を見させられた気分でした。

 時は過ぎ、MAD MAXの4作目はアメリカ同時多発テロによる資金難、撮影地オーストラリアで大雨で砂漠が緑化してしまうなどの問題が相次ぎ、延期が繰り返された。MAXを務めたメル・ギブソンは高齢となり、問題発言等で主演候補から外れる。そして、若手No.1俳優トム・ハーディ、そして相手役にシャーリーズ・セロンが決定。撮影地がアフリカのナミビアに変更され、大量の改造車が持ち込まれたとのニュースが報道される。ようやく2015年に公開され、翌年アカデミー賞を総なめすることになる。

 ようやくマナビ研究室らしい記事にいきたいと思います。大好きというより、愛に近い感情を抱く映画なので、これでもかなり端折っています。すいません。本題は、その2となる「悪役イモータン・ジョー」から。

つづく


全記事を無料で公開しています。面白いと思っていただけた方は、サポートしていただけると嬉しいです。マナビ研究室の活動に使用させていただきます。