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あなたの商品が解決しているものは何か?~顧客提供価値を見つけるフレームワーク~

 「人はなぜあなたの商品(モノやサービス)を買うのですか?」と聞かれたら即答できるでしょうか?

 アルベルト・アインシュタインは「6歳の子供に説明できなければ、理解したとは言えない」という言葉を残しています。もし、冒頭の質問を分かりやすく説明できなければ、あなたは自分の商品についてちゃんと理解していないのかもしれません。

 私の経験上、この質問に即答できる人の方が少ない質問なのですが、ビジネスをする上では「人はなぜ商品を買うのか?」ということを理解しているかどうかで得られる成果が大きく違ってくるというのが私の考えです。

人が商品を買う理由を一言で表現するなら

 「人はなぜ商品を買うのか?」
 この問いの結論を先にお話しすると、人が商品を買う理由は、「課題解決」と私は理解しています。(下の図をご覧ください。)

理想と非理想

 私たちが商品を買うとき、多くの場合でその背景に「不安、不満、不便、不快」といった非理想的な状態(解決すべき課題がある状態)があり、商品を購入することで「安心、満足、便利、快適」といった理想的な状態(課題が解決された状態)を実現しようとします。

 例えば、枕が欲しい人であれば、本当に求めているのは枕そのものではなく、新しい枕によって得られる安眠や肩こりのない生活であり、枕はその解決手段として買われているという考え方です。(下図参照)

キャプチャ

 iPodの場合でも考えてみましょう。スティーブ・ジョブズはソニーのウォークマンに対する不満や不便さに気づいていたのかどうかはわかりませんが、結果的にウォークマンよりもコンパクトで圧倒的に多くの曲を持ち運べる商品を世に出し、あっという間に世界のスタンダードになりました。その後、携帯電話+iPod=iPhoneの普及は皆さんがご承知のとおりです。

 iPodを売り出した時の「1000曲をポケットに」というキャッチコピーは、商品がもたらす結果、すなわち、私たちの生活がどのように変化するのかを容易に想像させてくれました。アップル社が提供したものはiPodでもiPhoneでもなく、それにより得られる「便利で豊かな時間」だったのではないでしょうか。

 Appleのティム・クックは「重要なのは競争に勝つことではありません。重要なのは、Appleのユーザーにとって、どんな製品が生活の改善につながるかを考え抜くことなんです」と述べています。

 さらに、身近な例にも目を向けてみましょう。誰でもコンビニでおにぎりを買ったことがあると思いますが、それを買った真の理由は何だったでしょうか?

 人は普通、日常的に買う商品については深く考えずに経験則をベースに直感的に買い物をします。細かいことまで深く考えて買い物すると脳がエネルギーをたくさん消費して疲れてしまうからです。

 しかし、今はおにぎりを買った理由について深く掘り下げてみましょう。「おにぎりを買いたかったから」で終わりにせず、もう一段深く掘り下げてみましょう。

 そうすると、「お腹が空いた状態を改善したかった」や「お腹が空いてストレスを感じる状態を避けたかった」、「安く済ませられるものが欲しかった」といった理由(課題)が浮かび上がってくるかもしれません。おにぎりは、それらの課題を解決しようと考えたときに選択できる最善の方法だったのです。

 ちにみに、競合はカップラーメンや肉まんだったかもしれません。しかし、お湯を入れる手間が必要なくすぐ食べられる上にカップラーメンよりもヘルシーだし、肉まんよりも腹持ちが良さそうといった理由でおにぎりが選ばれているかもしれません。

 スーパーで豆腐を買った場合はどうでしょうか。この場合も「豆腐が買いたかったから買った」のではなく、例えば「メインのおかず以外にヘルシーでコスパの良い食材がほしかった」だったり、「味噌汁には豆腐を入れるのが習慣であり、今回も豆腐を買うことでいつもの味噌汁を食べたかった」といった課題があるはずです。

 私たちは商品を買うときにいちいち「買う理由(課題)は何?」なんて考えませんが、掘り下げると課題は必ず存在しています。それは、家や車、スマホのアプリ、服、保険、マッサージ・・・基本的にどんなものでも当てはまります。そして、商品は課題解決のための手段であり、一定の条件(予算や時間、情報等)の中で最善策となる商品が選ばれるわけです。

 ちなみに、「課題」の定義ですが、私は以下のように理解しています。
  問題・・・理想やあるべき姿と現状とのギャップ
  課題・・・問題を解決するために取り組むべき事項 (下図参照)

理想と現状

私たちが売るべき本当の商品は?

 私たちがモノやサービスを買う背景には、必ず不満や不安、不便等といった非理想的な状態があり、それを理想的な状態にするための解決手段として商品を買っていると述べてきました。

 このような捉え方をすると、自分たちの本当の売り物はモノやサービスといった商品ではなく、商品を買って得られる理想的な状態を提供することと考えることが出来ます。むしろ、そう捉えた方が顧客の満足度を高めたり、競合と差別化しやすくなったりします。

 なぜなら、自社の商品が物理的なモノや現場で提供されるサービスだと思い込んで商売している場合は、モノやサービス自体に手を加えることだけで勝負しがちだからです。

 もちろん、商品自体に競争力があり、結果的に誰かの課題を解決しているならばそれで十分かもしれません。しかし、買い手の目が肥え、商品の評判がネット上で簡単に得られ、競合もたくさんいる現代の経営環境においては、どのような理由で商品が買われているのかを知らずに商品を売ることは価値のないものを世に送り出していることになるかもしれませんし、伝えるべき価値が伝わっていないかもしれません。

 また、顧客がまだ気づいていないが確実にある不満を見つけ出し、それを誰よりも早く解決できれば、高い競争優位性を得ることが出来るでしょう。アップルのiPhoneは顧客にニーズ調査を行って生まれた商品ではありません。iPhoneが登場する前にiPhoneのような商品が欲しいと思っていた人はほとんどいなかったと思います。しかし、iPhoneが登場し使ったら「これこそが私が欲しかった商品だ!」と思ったのではないでしょうか。
 「世の中にこんな商品があれば自分は絶対に使う」と思える商品を生み出せるかどうかは、企業競争力に大きな影響を与えるのです。

 ここである有名な事例を紹介したいと思います。ハーバード・ビジネス・スクールの教授であった故クライトン・クリステンセンの著書「ジョブ理論」に書かれている事例(実話)で、その概要は以下のとおりです。

・アメリカのファストフード・チェーンが「どうすればミルクシェイクがもっと売れるか」自分たちで調査した。
・客に値段や量、味など、「どんな点を改善すればもっと買いたくなるか」を聞き取りした。
・回答を基にいろいろ試したが、ミルクシェイクの売上に変化はなかった。

・著者を含めた調査チームは、「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを“雇用”させたのか」を調査した。
・すると、早朝(午前9時前)にひとりで店にやってきてミルクシェイクを買い、店内では飲まず、車で走り去っていく通勤客が驚くほど多いことが分かった。
・その客の誰もが、仕事先までの長い通勤時間に気を紛らわせるものがほしいというジョブを抱えていた。
・バナナだとすぐに食べ終えてしまうし、ドーナツは手が汚れてしまう。競争相手のどれよりもミルクシェイクは長時間楽しめて、手も汚れず、昼まで腹がもつので最適だった。
・ミルクシェイクを買う通勤客に、人口統計学的な共通要素はなかった。

・ミルクシェイクは早朝だけでなく、午後や夜にも大量に買われており、例えば、やさしい父親の気分を味わうために子どもへミルクシェイクを買ってあげるジョブもある。
・その場合の競合相手は、玩具店に立ち寄ることや、キャッチボールやバスケットボールをして遊ぶことなど。

・ミルクシェイクの売上を増やすためにすべきは、
→退屈な通勤時間をなるべく長く埋められるように、より濃厚にする。
→小さなチョコレートなどを足して触感による驚きを与える。
→接客カウンターの奥に置いてあるミルクシェイクマシンを手前に移し、通勤客が自分でシェイクを入れ、すぐに店を出られるようにする。
→夕方のミルクシェイクは、子供用に半分サイズも用意する。

・ミルクシェイクが最高の解決策と判断された結果は同じでも、そこに至る基準、解決策は全く違う。
・ひとつですべてを満たす万能の解決策は結果的に何一つ満たさない。

 いかがでしょうか。様々な調査を行って商品を改良したけど売上に貢献しなかったという経験は、ビジネスパーソンであれば多くの方がお持ちかと思います。

 私もこれまで様々な手法を使って調査を行ってきましたが、すっきりとする解決の糸口が一向につかめませんでした。調査をして様々なニーズが出てくるのですが、どの意見を採用すればよいのか整理できませんし、一番多い意見に合わせたところでそれが何なの?といった感じでした。これは、ニーズの裏に隠れている顧客の課題が見えていないから起きるのです。

提供する価値を検討するツール

 商品を手段として、非理想的な状態を理想的な状態に変換するという捉え方をしたところ、モヤモヤが解消されていきました。この考え方を活用するために作ったツールが次の図(提供価値検討シート)です。

提供価値検討シート

 このツールは、4つの箱で構成しており、以下の順番・内容で記入していきます。

1 Product/Service(商品):あなたが提供する商品は何か?

2 After(理想的な状態)
:あなたの商品は顧客にどんな結果をもたらすか?​

3 Before(非理想的な状態):あなたの商品が解決しようとしている顧客の課題(不満等)は何か?​

4 Competitor(競合):
あなたの商品、サービスと競合するものは何か?

5 Advantage(競争優位性)
:顧客が他のどんな商品(競合)よりもあなたの商品を選ぶべき理由は何か?

 まず、この箱に、あなたが販売している商品、もしくはこれから販売していきたい商品について記入してみてください。
 次に、Afterの箱を記入しますが、これを記入しようとすると顧客が抱えている課題(Before)が見えていないと書けないことに気づくでしょう。 
 Competitor(競合)の箱は他者の同じような商品とは限りません。ミルクシェイクの例で書いたようにキャッチボールをして遊ぶことが競合になるなど、売り物とは限りません。
 特に重要なのはAdvantage(競争優位性)の箱です。これを簡潔に説明できないとすれば、あなたが自分の商品の強みを理解していないか、本当に強みがない(他と同じ)ということになり、競争に勝つことが困難になります。また、競合の特徴が分からなければ、自社独自の強みが何かということも不明確となります。

 あなたが業界の展示会に出展しているところを想像してみてください。あなたの商品に興味を持ったバイヤーがブースに近づいてきて商品の説明を求められたときに、バイヤーにあなたの商品を仕入れるべき理由を説明できないのです。
 他人に価値を説明できなければ、他人もその価値を誰かに伝えることができませんし、商品パッケージも的外れなデザインになっているかもしれません。

 書き終わったら商品(Product/Service)の箱に戻って、BeforeとAfterを始めとした全体との関係を確認してみてください。あなたの商品はBeforeからAfterへ移行するための論理的な橋渡しを行えているでしょうか。
 もしそうでなければ、商品を改良するか新たに開発する必要があります。商品そのものだけでなく、商品に付随するサービスも含めて検討する必要も出てきます。これはとても面倒なことと思うかもしれませんが、自分たちが顧客に提供できる価値を高め、他社との差別化を図っていくための重要な要素となります。

 言語化という作業は地味ですが非常に重要です。頭では分かったつもりでいても、実際に書いてみると言葉にできないことは多々ありますが、逆にそれは改善のチャンスです。何を理解していないのかが分かるのです。
 このシートに十分に書けないとすれば、自分たちが提供できる価値について十分に理解していないということになります。是非このシートを活用して自分たちが提供できる価値磨きをしてみてください。

 参考としてスターバックスを例に記入例を作成してみました。これは、私がスターバックスに行きたくなった時の心理や簡単な分析により書き表したものです。様々なご意見があるかもしれませんが参考としてご覧ください。

スターバックス

 なお、このシートは、「カスタマー・ジャーニー・マップ」と組み合わせることで、より効果を発揮します。「カスタマー・ジャーニー・マップ」は、顧客の購買行動を旅に見立てて、その購買プロセスの中で生じる様々な感情や購買行動を見える化し、購買の障害になっていることを改善したり、満足度を増幅させたりするためのツールです。

 顧客を理想的な状態に導くためには、商品が良いだけではなく、商品の存在を認知してもらうことが必要ですし、購買行動の途中で離脱につながる障害を取り払う必要があります。それらを考慮した顧客のスムースな購買行動を設計するにはカスタマー・ジャーニー・マップを活用することがたいへん適していますので、以下の記事も後で是非ご覧ください。

まとめ

・顧客は課題を解決するために商品を買っている。
・商品は顧客の課題解決の「手段」である。
・商品とするべきは「商品を買って得られる理想的な状態」を提供すること
・顧客の課題と課題が解決された状態を明確にすることで、商品の提供内容や提供方法が変わる。
・競争優位性がないと他人に自分たちの商品を買うべき理由を説明できない。

 なお、この記事で紹介した「ジョブ理論」は、マーケッターのみならず営業に関わる方にとっては必読の一冊だと思います。ミルクシェイクの事例も載っていますので、興味のある方は読んでみてください。
 また、クリステンセン氏の「イノベーション・オブ・ライフ」には、ミルクシェイクの事例の他にもIKEAや野菜ジュースなどの事例があり、おすすめです。


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