見出し画像

■行政組織の大不振の理由(4)行政のマネジメントは「付焼刃的」で課題を悪化させている。


0.はじめに

♦行政の成果不足で危機間近、時間がない

 行政はまったくの成果不足です。その象徴は顧客である住民・国民の減少です。日本の人口は現在約1億2435万です。26年後の2050年代には1億人を割ると予測されています。それは東京23区(985万人)、大阪府(870万人)、名古屋市(233万人)、札幌市(195万人)、福岡市(164万人)の人口(計2447万人)がなくなることを意味します。時間がありません、即座の行動が必要です。成果を出せる組織に変わらなければなりません。

♦本稿の概要

  前稿(1)(2)(3)でも述べたように、マネジメント(経営)の実践に必要な、社会的な観点からのマネジメント(経営)の考え方の流れは、下記のようになります。マネジメント(経営)は社会的な仕組みです。

  ①社会における人の幸せ実現を実現する↓
  ②そのためには健在な社会が必要になる↓
  ③その実現に貢献する組織機能を発揮する↓
  ④機能発揮の方法論としての体系的なマネジメント(経営)の活用

 マネジメント(経営)を担う人は、この考え方の流れを活用して、マネジメント(経営)意義を、社会的な観点から関係者に語り、浸透させ、共有し、社会における「人の幸せ実現」を目指します。ここでは上記の①②③は前の別稿で確認したことから、④を確認し、「体系的なマネジメントの視点」からマネジメントを理解し、実践の場で「マネジメント(経営)への体系的な取組」を実行します。

♦本稿内容に参考になる動画

 本稿内容の理解に参考になる動画を紹介します。これは「成功する行政経営改革講座」の8回目で、タイトル「改革に必要な基本的な考え方や体系が不足している」としてYouTubeに掲載した動画です。別回の動画で下記の(1)(2)を紹介し、本動画では(3)についてまとめてあります。ご活用下さい。
 -行政経営改革の失敗要因-
(1)行政経営改革の内容が手段の導入になる。
(2)改革を借り物の経営(マネジメント)の仕組みですます。
(3)改革に経営の基本的な考え方と体系が不足している

1.ドラッカーはマネジメント(経営)を知識体系として発明する 

♦マネジメント(経営)以前の状況

 ドラッカーの偉大な業績の一つは、「マネジメント」を知識の体系として著したことです。ドラッカーが着目する知識とは「実践」のための知識です。この体系化により、意欲があれば誰もがマネジメント(経営)の全体像が把握でき、学べて効果的に実践できるものになりました。

 ドラッカーは、1946(昭和21)年に、フォードの債権の教科書であり、GE社の組織改革の手本にな、世界の組織改革ブームの火つけ役となった体系としての「マネジメント」の原点である『企業とは何か』を著します。

 ドラッカーは、『企業とは何か』の執筆時とその後コンサルティングの現場で、マネジメント関係の文献を総ざらいします。その結果は、企業に関する取組は、工学、会計学、労使関係といった特定の分野で整理化されている段階で、組織全体の成果を問うマネジメントは、その概念も一つの知識体系としても、まとめられていない状態でした。

 現場では、明示された組織を動かす全体像がないことから、各個人が経験による独自の方法で「マネジメントらしき取組」を実行している状態でした。■現在でもこのような「らしき取組」を行っている段階の行政組織がかなり見られます。即座の是正が必要です。

♦マネジメント(経営)の発明 

 ドラッカーはこの現状から、コンサルティング先の幹部に仕事をする上で必要なこと、経営トップにはその責任を果たす上で知るべきことを「すべて」伝えたいと思い、マネジメント(経営)の発明に本格的に取りかかります(『マネジメントを発明した男ドラッカー』)。■コンサルティングでも行政の関係者にドラッカーと同じように「マネジメントの本質を伝えたい」と感じます。

 ドラッカーは、各組織のコンサルティングで得た経営に関する「断片的な知識」を分析し、「他の断片的な知識」との関連を考えて結合します。次にそれをプロセスとして統合し、さらにプロセス同士を関連させることで、一つの「知識の体系」として組み上げ、成果のあがる学べるものにしていきました。この取組の背景には人の幸せ実現があります。この方法は『マネジメント:上』に記載の「仕事を生産的なものにする」とほぼ同じ取組です。

2.マネジメント(経営)の体系化の重要性

♦『現代の経営』での体系の必要性

 こうして1954(昭和29)年に、マネジメントの最初の教科書になる『現代の経営』を刊行します。この著作によって、ドラッカーは「マネジメントの父(発明者)」と呼ばれるようになります。

 この『現代の経営』に関してドラッカーは、「鋸や金槌しかもたず、ペンチを知らなければ大工はできない。道具を一揃えにしたとき、はじめて大工道具を考え出したということができる。それが、私が『現代の経営』で行なったことだった。私はマネジメントを体系としてまとめ、それで読者はマネジメント(経営)の仕方を学んだ」と語ります(『マネジメント・フロンィア』)。『現代の経営』は、マネジメントに必要な物事を体系化した書籍です。

 ドラッカーによれば、体系とは、様々な知識を学べる形式に統合し、理解し実践できるようにした、目的のある全体を表す概念です。体系化することで全体を常に鳥瞰しながら学べ、バランスよく実践できるようになります。

♦『マネジメント:上』での体系の必要性

 さらに、1973(昭和48)年に刊行した、ドラッカーマネジメントの集大成である名著『マネジメント:上』でも、「体系としてのマネジメント」の中で、下記のように体系の必要性を語ります。「一流のマネジメントとして成果をあげることができる」と明記するなど、ドラッカーが「体系」を重視していたことがわかります。

ところが公務員と行政には、このマネジメント(経営)の体系が不足、またはありません。あるのは前例的なそれも体系ではなく手続きです。これでは成果不足と人口減は止まりません。
 事実、厚生労働省が2024/11/5日公表した人口動態統計(概数)によると、2024年上半期(1〜6月)に生まれた赤ちゃんの数は、前年同期比6.3%減の32万9998人にとどまり、今年1年間の出生数が初めて70万人を割る公算が大きくなりました。現状の行政のままでは、このような危機的な状況が加速して出現します。公的組織はまったくの成果不足です。重い「病」にかかっています。

3.マネジメント(経営)における体系の効果性

♦体系化とは知識を結合し意義ある全体を創造すること

 上記のように「知識の体系化」とは、得た知識を「一つの断片」として理解し、それを「他の断片的な知識」との関係性を分析して有意性から結びつけます。この有意性による知識結合の連続から、既存の知識群がブラッシュアップされ(ドラッカーは爆発と表現)、それをひとつの論理的な秩序や統一された原理や原則で関連させることで、意義ある知識の全体である体系が創造されます。

 体系は、個々別々の要素を一定の原理に従って論理的に結合した要素の全体です。それは、個々の要素が互いに連携して全体としてまとまった機能を果たすものです。全体としてまとまるには目的が必要です。
 個々の要素は、その目的に基づいて、一定の論理に従って関連しながら個々の機能を果たすことで、全体として目的を達成する機能にまとめられます。よって、ドラッカーが語るマネジメント体系とは、「人の幸せ実現」といった目的で、マネジメントに関する原理原則を、過不足なくまとめた知識体系委です。

 さらに重要なことは、必要なことの全体が、一つの体系にまとめられることで、それを活用する人は、全体の内容と個別の要素の関連を適切に理解でき、全体と各要素のバランスがとれた有効なマネジメントの実践が可能になります。これもドラッカーの功績です。

♦体系の効果

 ドラッカーはこの全体と個別の関連を重視し、全体を観ることで、個々の要素がどのように連携して経営全体の成果に貢献するかが分かり、必要な要素、無理にまとめた要素、過不足な要素が判明できるとします。ここにマネジメント体系の威力があります。体系化には下記の効果があります。

4.マネジメント(経営)の体系が不足する場合

 しかし、マネジメントを、民間の手法は効果がありそうといった程度の、その場しのぎの「付け焼き刃的」な理解で、体系化されたマネジメント全体への認識と知識に欠ける場合、マネジメントの実践では、下記の不都合が発生します。

 それは、組織の役割が薄れること、複雑な課題解決が先送りされること、成果が少ない改革がだらだらと続くことです。これでは組織は成果を失います。3つの不都合を確認します。

(1)組織の役割が薄れる

 マネジメント(経営)の現場では、経営企画、人事、財務、情報、複数の現業部署が、それぞれの目標達成に向けて各組織業務を遂行しています。さらに各部署には使命、ニーズ把握、経営計画、政策形成、人材育成といった機能別の個々の取組があります。

 この各組織と各機能をある目的の達成に向けて機能させるには、個々の部と機能要素の互いの関連を、調整し統合する体系的な見方と実践が求められます。ここに全体と個を調整し統合するマネジメント体系が必須になります。

 しかしマネジメントを担う人にマネジメントの体系が不足すると、専門性と明瞭な指揮命令系統を特徴とする「縦割り(サイロ)組織」のデメリットが強調され、下記の組織成立の3要素(バーナードの組織3要素)が損なわれることになります。これでは、一人ではできないことを成し遂げることで、社会に貢献する組織の役割が薄れます。

―「縦割り(サイロ化)組織」のデメリットの影響―
 ①目的:組織全体より自部署の目標達成を優先する。
 ②協働:他部署との協働がなくなる。
 ③コミュニケーション:情報の共有が少なくなる。

 多様・複雑・高度化した社会では、縦割り組織の広がりに欠けた取組では、課題解決の可能性は遠のき、場合により悪化します。■この縦割り組織のデメリットの顕在化は、マネジメントの活用や導入に本格的に取り組まない多くの行政に見られます。よって多くが成果不足です。でも首長は自分は精一杯努力しているとし、自己を改革することはありません。自慢話を写真付きでインターネットに投稿します。

(2)「トレードオフ」の課題への対応ができない

 またマネジメント(経営)の実践では、理想と現実、福祉と経済、戦略と組織、短期と長期、効果と効率、創造と管理、変化と安定、増税と減税といった、何かを達成するためには何かを犠牲にしなければならない、「トレードオフ」の課題がたくさんあります。
 「トレードオフ」の解決策は、①代替案を考える→②バランスを取る→③優先順位をつける→コミュニケーションを高めるがあります。どの解決策もその課題のマネジメント全体の中での位置づけと重要性、他部分との関連と全体への影響を把握して検討する必要があります。

 これには、ドラッカーの意思決定原則である「意思決定は決定によって影響を受ける活動全体を見通せるだけの高いレベルで行う必要がある」(『マネジメント:中』)が必要になります。つまりマネジメント(経営)体系で全体を鳥瞰しての判断の必要性です。
 しかし組織の全体を示すマネジメント(経営)の体系がなければ「トレードオフ」の課題は、エビデンスのない、恣意的な決定になります。

 マネジメントの学習と実践での経験を深めない、体系の理解と仕組みの構築までには届かない、一夜漬けの「付け焼き刃的」な取組で終始する行政では、マネジメントに関する「トレードオフ」の課題への対応は難しくなります。多くの課題が先送りされて悪化します。各地で衰退の足音が大きくなっています。

(3)危機に備えた改革が遅れる

 環境は変化することから、組織には常に改良・改善・改革が求められます。しかしそれは発生した課題の解決を続けていけば組織は善くなるとする、後手で断続的な改革方法ではありません。
 この発生した部分への改革では、改革した部分と他部分との関連不調が生じ易く、改革した部分の成果を引き下げ、さらに新たな課題が発生するといった、「成果少なき時間のかかる永遠の改革」といった悪循環が伴います。さらに必ず後手になることから、解決すべき課題は悪化しています。よって改革が難しくなり長い時間もかかります。

 ドラッカーがマネジメントを担う人に求める改革は下記のような内容です。これがマネジメントを担う人が取り組むべき改革です。

5.行政に必要な危機に備えたマネジメント(経営)モデルの構築

♦行政には「前例」という手続きしかない

 以上のように、マネジメントは、体系として学び、それを訪れる危機に備えて、マネジメントモデルとして構築し実践する必要があります。行政組織のこれまでの成果不足は、このマネジメント体系を活用したマネジメントモデルの欠落と後手後手の取組にあります。

 残念ながら、行政の多くには、組織全体を鳥瞰できるマネジメントモデルが不足しています。あるのは前例といった手続きです。型どおり行うことが尊重されます。よって前記したように、①縦割り組織の弱点が解消されずに社会への貢献が薄れます。②頻繁に発生するトレードオフの課題には、決断できずに先送りし問題を拡大させます。③組織の改革構想の不足から発生する課題のモグラ叩きに終始し、解決してもまた問題が発生するといった、成果不足の改革を職員が困窮するまで続けます。

♦マネジメントモデルの仕組み構築

 もはや、前例と他自治体の成功例、そして流行の民間の手法を適当につなぎ合わせて、課題解決に適用することは厳禁です。その手法使用のための事務量が増えるだげで、これが「忙しい」とする改革を拒む理由にもなります。

 必要なのは、解決すべき課題に対して、対象の目的を確認し、次に全体を俯瞰(ふかん)し、そこから有効と思われるマネジメントの取組を、組織の目的、関連した部分の状態、全体への影響を考えて住民起点で活用できるマネジメントモデルの仕組みです。

 ドラッカーは、先進国における最大の問題が、いかにして公共サービス組織に成果をあげさせるかとし、マネジメントは組織に成果をもたらす手段、機能、そして仕組み(体系)とします。さらに公的組織に必要なのは偉大な人物ではなく「仕組み」とします(『マネジメント:エッセンシャル版』)。 (完)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?