■行政組織の大不振の理由(完)/行政のマネジメントの①目的無知、②機能軽視、③付焼刃的での大失敗を阻止する方法。
1.ドラッカーの助言を「軽視」した公的組織
♦ドラッカーのマネジメント(経営)は総合的な体系である
ドラッカーは、マネジメントに関する知識を機能として捉えることからスタートします。①知識の機能の有効性、②その機能を発揮するに必要な他の機能との関連、③全体との関連を考えることでの結合、その結合の連続からプロセス化し、④さらにプロセス同士を結合して一つの体系として組み上げ、全体と個別機能との相互調整が可能な総合的な知識体系として、「マネジメントの体系」を構築しました。
ドラッカーは、そのマネジメント体系の対象を企業からスタートし、行政や企業を問わずあらゆる組織、そして個人(セルフマネジメント)にまで拡大させ、多くの経営手法がドラッカーに行き着く(『ドラッカー入門』)と称される、組織と人に成果をもたらす総合的な体系に仕上げました。
♦マネジメント(経営)は非営利組織に大きな実りをもたらす
マネジメントは、社会を善くし、社会と働く場での人の幸せを実現する仕組みです。組織を機能させ、人の、ⓐ社会での位置づけと、ⓑ組織での役割を確実にする社会的なものです。そして、組織に、全体と個々のバランスを取りながら、社会に貢献できる成果をもたらす仕組みです。
ドラッカーは、さらに公的組織への適用に関しては、「マネジメントについて当然とする最初の前提は、マネジメントはあらゆる組織のための体系であり機関であり、非営利組織こそ、今日、マネジメントが最も必要とされ、かつ体系的な理論が直ちに大きな実りをもたらしうる分野である」(『明日を支配するもの』)と明言しています。
しかし公的組織は、思慮不足からこの助言を「軽視」し、1991年のバブル崩壊後、下記のように激しい劣化に陥ります(動画参照)。
2.地方自治法の第2条を実現する改革が必要
♦社会的マネジメント(経営)を、民間の手法と曲解して劣化し、大敗する
こうして公務員と行政組織は、この社会的なマネジメントを軽んじ、組織に成果をもたらすマネジメントを本格的に学び実践しようとせず、民間の手法といった「付け焼き刃的」取組に終始し、結果、組織劣化を引き起こし、自己と組織の機能発揮を不十分なものにしてきました。
このマネジメントへの「付け焼き刃的」な取組では、課題とした問題が解決されずに先送りされ、「失われた10年、20年、そして30年の大不振」が続き、結局は人口減と成果不足、そして自らの消滅といった「744消滅可能性自治体」の発生とする「大失敗」を招くことになります(下図参照)。
♦これ以上の大失敗は続けられない
その解決には、住民・国民の大きな負担、莫大な税金、長い苦難の時間が必要になります。それはまさに公的組織とそこで働く人の「大失敗」です。この公的組織失敗の負担の大部分は、過去の約30年間も実質所得が増えない国民が必死に背負ってきました。行政はもうこれ以上の大失敗を続けることはできません。
♦地方自治法の第2条を実現する改革が必要
公務員と行政は、もう一度、地方自治法の第2条の「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果をあげるようにしなければならない」を下記のように確認しなければなりません。
最小の経費で最大の効果をあげるとは「経営体系のあり方」の問題です。行政の仕事を下記のように展開し、行政組織に成果をもたらす必要があります(下図参照)。
①組織を住民起点の意義ある成果を創造できる仕組みにする。
②それを生産的に行える仕組みにする。
③部課長と職員がそれぞれの職務で能力を発揮できる仕組みにする。
部課長は経営力を、職員は事業立案力を高める。
そしてその結果、「最大の効果」である
④住む人が増えているか、健康な人が増えているかである。
♦必要なのは経営に関する考え方と経営の仕組みの改革
現時点での「最大の効果」は、成果不足と人口減、そして行政組織の肥大です。効果ではなく「マイナス」です。これまでの取組は大失敗です。「経営の体系のあり方」を見直さなければなりません。それは経営に関する考え方と経営の仕組みの抜本的な改革です。
改革の開始は「廃棄」からです。庁内で有効としている方法、優れた制度と自慢しているもの、式次第のような失敗を嫌う運営的な行政の仕組みは、すべてを改善と改革、そして変革の対象にしなければなりません。
3.行政は失敗を嫌い隠して大失敗に
♦毎年、改革を宣言するが、結局は腰砕けに
行政は「改革」という用語をよく使用しますが、結果からするとほとんど成功していません。改革は重要だと広言しても、いざ具体的になると、手慣れた仕事が変わること、新しい仕事の習得に手間暇がかかるなどから、現状維持の雰囲気が再燃します。
最初は改革に積極的であった所管部署も、抵抗勢力の反発からの失敗を恐れて、改革が小手先になり、結局は改革に値しない、多少の縮減を記載した、形式的で「付け焼き刃」的なもので終わります。行政の改革は、この「縮減」の繰り返しで、組織がますます非力になっています。
♦失敗の意義
ドラッカーは、「成果とは、つねに成功することではない。そこには、間違いや失敗を許す余地がなければならない」とし、「間違いや失敗をしない者を信用してはならない。それは、横並びを成果とし、無難なこと、安全なこと、つまらないことにしか手をつけない者である」(『マネジメント:中』)とします。現在の行政組織の成果からすると、この「横並びを成果とし~ 者である」の指摘の多くが当てはまります。猛省が必要です。
さらに、「間違いをしなければ学ぶことはできない。しかも優れた者ほど間違いは多い。それだけ新しいことを試みるからである。さらに、人は失敗しても再びチャンスを与えられればやり遂げる(『非営利組織の経営』)」とします。ドラッカーは、マネジメント改革における失敗を、改革前進の糧としています。
♦行政組織の悲劇は日本の衰退
ところが、現在の行政は、大義を担う行政は間違わないとする無謬性にこだわり、失敗を恐れて無難を選択し、それでも失敗があれば黒塗りして隠します。ここからドラッカーが「無難であることの危機」(『現代の経営:下』参照)とする考動が頻発します。下記のように行政組織の劣化がさらに深まります。
【目標】挑戦的な目標を回避して低い目標を設定する。
【政策】リスクのある政策より経験した前例の政策を重視する。
【展開】マネジメントの実行で、部課長のマネジメントに関する理解が浅
いと改革の意図が伝わらず、構築した経営の仕組みの展開が不十
分になり成果の産出が大幅に遅れる。
【評価】評価は定量的数値より定性的な曖昧基準で行う。
【改善】改善は自己改革ではなく流行の手法の導入で済ます。
変化の時代、下記のような
㋐挑戦よりもできることだけを行う。
㋑新事業のリスクを嫌い現状事業の継続を強調する。
㋒挑戦して失敗した人を降格し追従と立ち回りのうまい者を昇進させ
る。
㋓大義がすべてだとして散財を軽視する。
といった行政の考動では、健全な成果の多くを失い、浪費・肥大・借金増を加速させ、人口減と消滅可能性自治体の発生を確実なものにし、地方と日本の衰退を早めます。現在の行政のままでは、下記のような絶望的な未来が待ち構えています。
♦主権者である国民も悲痛な叫び
事実、厚労省が2024/11/05日に公表した人口動態統計(概数)によると、2024年上半期(1~6月)に生まれた赤ちゃんの数は、前年同期比6.3%減の32万9998人にとどまり、今年1年間の出生数が初めて70万人を割る公算が大きくなったと報道されます。
企業では顧客の減少は倒産につながる大失敗です。これは行政組織も同様です。行政の顧客である国民を失うことは、行政組織の存続意義が問われる大失敗です。
♦コメント欄の悲痛な叫び
上記の記事のコメント欄には、以下のような、主権者であるハズの国民の悲痛な反応が、驚くほど数多く投稿されています。これらのニーズに応えられない組織には、存在価値はありません。
㋐「多分、少子化対策として行われているものが殆ど的外れなんだと思
う」
㋑「若者世代が不安を持たず安心して家庭を持てる、子供を産み育てる事
が出来る経済的恩恵、社会制度が不十分なのだと思います」
㋒「不安定な雇用は、雇用主の都合でいつ解雇されるか分からない雇用で
もある。若い人がいつ解雇されるか分からない状態で働いていたのでは
子どもは産めない」
:
4.時間がない、今日から即座の改革を
(1)改革に関するドラッカーの主張
抜本的な改革が必要ですが、これまでの30年以上も国民のニーズに対応できない不作為を続けて成果を失い、不祥事の多さから真摯さも忘れつつある公務員と行政組織が、成果を産出できる人と組織に変われるかです。『断絶の時代』から、ドラッカーの公的組織の改革に関する主張を確認します。
♦行政の現状
ドラッカーは、現代社会において企業は組織の一つにすぎない。マネジメント(経営)は企業だけのものではない。組織のいずれもがマネジメントを必要とするとします。しかし、行政部門の成果たるや、立派どころか、なるほどと思わせるレベルにも達していないとも語ります。
そして、「行政は強力ではなく、太って身動きができなくなっただけであり、費用はかかっても、成果はさしてあげていないことを示す証拠は山ほどある。行政に対する信頼が薄れ、幻減が深まっていることを示す証拠も多い。
まったくのところ、行政は病んでいる。それも、強力で健全、かつ生気にあふれた行政が必要とされているこのときに病んでいる」と、これまでの改革不足を指摘します。
♦改革(再建)の必要性
しかし、今日の社会には、行政機関を廃止する可能性も廃上できる可能性もないと語り、「今日のこの危機な時代ほど、強力で成果をあげることのできる行政が必要とされているときはないとし、公的組織は成果をあげる能力を、少しでも取り戻さなければならない。再建されなければならない」とします。
続けて、ようやく今日、公的サービス機関自身が、マネジメント志向になってきたと評価します。しかし、それはまだ、自分たちが行うべきマネジメントを行っていないということに、ようやく気づいたという段階にすぎないとします。
♦ドラッカーの結論と例外の意義
そして、われわれに与えられた選択は、「行政機関が成果をあげるための正しい方法を学ぶこと」にほかならない。確かに、行政で成果をあげているものは例外に属する。しかしたとえ例外であっても、それらのものは、やり方によっては、行政機関にとって成果をあげることが可能であることを示していると、マネジメント改革の必要性を語ります。
(2)日本での成功実例の存在
現時点までの国内では、行政のマネジメントに関する誤解や、流行の民間手法の導入をマネジメント改革と曲解して取り組み、結果、マネジメントで成果をあげている行政組織が少ないことは事実です。
♦行財政審議会での「行政経営」の検討では
例えば、行政へのマネジメント(経営)導入では、「行財政改革」がその中心を担います。その審議会には、首長、幹部、住民、議員、そして有識者が参加して、いわば総力をあげて改革に取り組みます。
審議会では様々な分野の検討が行われますが、「行政経営分野」の検討では、委員には民間団体と企業の関係者も参加していますが、多くは体系的な経営を学んでいるわけではありません。事務局もPDCAは知っていてもそれを含めた経営(マネジメント)に関する知識が少なすぎます。よって多くが、行政改革を行政経営の表現に変えた程度の、「縮減」中心の事項の羅列で終わります。
よって総合計画の展開を担う行政経営力の向上にはなりません。5年後の前期基本計画は未達になります。
♦コンサルティングの現場では
但しドラッカーが指摘したように例外もあります。コンサルティングの現場では、マネジメントは、部課長と職員の一般教養であるとの見識から、マネジメント(経営)改革を続けている首長も、数は少ないものの下記のように存在します。
岩手、千葉、東京、三重、兵庫、福岡などの市町村に見られる、マネジメント&マーケティングを活用した成功実例の存在は、公務員と行政組織が、正しい認識と決定でマネジメント(経営)に取り組むことで、地域社会に貢献できる成果をあげることが、可能であることを示します(Kindle版『ドラッカーに学ぶ公務員のためのマネジメント実践書1』参照)。
ドラッカーも、この病んでいる公的組織の再建に必要なものは、「偉大な人物ではない。仕組みである」、「より優れた人材ではなく、マネジメントを体系的にこなし、自らと組織を意図的に成果に集中させる人材である」とします(『マネジメント:上』)。
5.成功実例としての流山市
♦自立持続可能性自治体:流山市の人口増戦略
その再建に関する良いニュースは、これを実現した自治体があることです。それは、100年後も若い女性が5割近く残る「65の自立持続可能性自治体」の存在です。基幹産業がある、企業の進出がある、良好な子育て環境があるなどが、自立につながる主な要因ですが、その中に「そのやり方は無名の他自治体でも活用できる」といった観点から、注目すべき自治体があります。それが流山市です。20年間で市民を約15万人から約22万(2024年)に増やしています。
♦流山市は20年前には「消滅可能性自治体:関東圏の陸の孤島」であった
その流山市は、実は2000年に入ると、現市長井崎氏が就任前に推計した、「このままでは2006年頃には財政破綻になる」とする危機が訪れていました。それは、人口減、少子高齢化の進展、その対応の遅れからの危機でした。
そこで、当時はまったく無名で「関東圏の陸の孤島」と称された流山市は、この内外の現実を真正面から捉え、過去のしがらみを断ち切り、経営とマーケティングを考え方と仕組みを駆使し、地元の資源を掘り起こし耕し育て、約20年間で見事に現在の人口増と市のブランド化を実現します。
この前半の10年間は「消滅可能性自治体からの脱却劇」、後半は10年間は「自立持続可能性自治体への挑戦劇」のような流山市の取組には、他の自治体が活用できる下記の重要なヒントがあります(『マイナスから出発した流山市の人口増戦略』参照)。
①【自己改革】市役所の自己改革を優先している。
②【方法活用】経営とマーケティングといった普遍的でエビデンスのある
方法論を活用している。
②【地元発掘】地元の資源(強み)を掘り起こし耕し育てる姿勢を徹底し
ている。
③【構想明示】街ビジョンを描き、市の発展に応じたストーリーのある街
づくりをしている(「母になるなら流山市」→「学ぶ子に応える流山
市」→「子どものそばで働ける流山市」)。
⑤【仕組構築】組織の状況に応じた改革の手順で経営仕組みを構築してい
る。
詳しくは、下記の、①流山市の人口増戦略の動画、②Kindle版『マイナスから出発した流山市の人口増戦略」、③『こうして流山市は人口増を実現している』(同友館)をご参照下さい。そこに公務員と行政の「大失敗を阻止」し、地域再生を可能にする具体例があります。(完)
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