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■行政組織の大不振の理由(1)公務員はマネジメントの「本当の目的(幸せ実現)」を知らないで大失敗している。


1.行政組織の大不振とマネジメント(経営)の必要性

◆国家経営と地方経営を担う行政組織の大不振(下図参照)

 世界での日本の深刻な低迷が続いています。国民の豊かさの基準とされる国民一人当たりの国内総生産(GDP:IMF統計)の世界ランキングでは、2000年に世界で2位を記録した後、年々低下し、2010年18位、2020年24位、2022年33位、2024年では38位です。
  国際比較では、2000年が日本経済のピークでそれ以降、どの政権も国民の豊かさの下落を止めることができていません。このままでは、下位の国々に次々と追い抜かれてしまう可能性が大です。

 企業で例えると、他企業との国際競争での惨敗です。経営トップの更迭であり、経営力の強化に向けた企業経営の大幅な刷新(イノベーション)です。各政権は国家経営者としては失格です。

 さらに国内でも、これまでのあまりにも長すぎる「失われた30年」と「失われる40年」の足音、2024年に約1311兆円になった「国の借金」。そしてこれから予測されている、2050年での、①人口2千万減の1億人と、②744自治体の消滅開始など、国家経営と地方経営を担う行政組織の成果不足は深刻です。地方と国全体の衰退につながる「大不振」と言えます。

◆「大不振」に対するドラッカーの指摘

 ドラッカーは、この公的組織の「大不振」に関して、1969年に刊行したロングセラー『断絶の時代』で以下のように「政府(行政)の病」として既に指摘しています。

 「政府は太って巨大になっただけであり、費用はかかっても成果はさしてあげていない。不振に対する対策は常に予算の倍増であり、経営者としてはお粗末である。
 しかしわれわれは、習慣からか、依然として社会的な課題の解決は政府に任せている。よって現在の選択肢は活力のある政府の誕生しかない。それは、それぞれの領域において、それぞれの組織が、自らのマネジメント(経営)のもとに、自らの仕事に献身することによって、行動と成果の主体として活躍する社会の実現」とします。

◆行政にはマネジメント(経営)が必要

 行政と企業には、社会で行動と成果の主体として活躍するに必要なマネジメント(経営)が不可欠です。特に行政は「組織社会における中核の組織として、共通の意思とビジョンを体現し、組織をして、共通の信念と価値観のもとに、社会と市民に対し最高の貢献を行わせるための機関(行政組織)」としての役割発揮が必要です。(『断絶の時代』)

2.行政組織の大不振の4要因とは

◆行うべきマネジメント(経営)を実行していない

 しかし残念ながら、ドラッカーが「経営者としてはお粗末である」と指摘するように、現在の行政は、マネジメント(経営)の必要性にようやく気がついた段階で、その内容は「行うべきマネジメント(経営)を実行していないことに気がついた」といった実行前の段階です。
 その実行していないことの一つに、マネジメント(経営)を担うリーダーが最初に行うべき、『マネジメント(経営)の「本当の目的と意義」の理解と、その理解内容の関係者への浸透、そして共有化』の不足があります。

◆圧倒的に不足するマネジメント(経営)の目的に関する説明

 現場でマネジメント(経営)を実践するには、「マネジメント(経営)を徹底する」と宣言し「経営の仕組み」を構築するだけでは、その効果は半分に留まります。
 マネジメント(経営)で、組織目標の達成に向けて働く人に活躍してもらうには、上記のマネジメント(経営)の仕組み作りと平行して、マネジメント(経営)の「目的と意義」の理解とその内容の浸透、そして共有化が不可欠になります。マネジメント(経営)の「㋐目的と意義の共有」と「㋑経営の仕組み構築」はセットです。
 しかし、行政リーダー層のマネジメント(経営)に関する理解不足から、前者㋐に関する取組が圧倒的に不足しています。目的が十分に語れていません。意義の説明が少なすぎます。熱意が感じられません。「仏造って魂入れず」の状態です。 

◆目的・意義・役割を語り関係者のモチベーションを高める

 マネジメント(経営)の実践では、リーダーはマネジメント(経営)の目的と意義と役割を、下記の4つの観点(要因)から、情熱を込めて明確に語り、関係者(特に職員)のマネジメント(経営)に取り組むモチベーションを高める必要があります。
 これなしでは、マネジメント(経営)の活用が表面的、形式的になり、「行財政改革」の一環として実施はしているが、マネジメント(経営)の成果を十分に得ることができません。
 リーダーは下記の4要因を理解し、リーダーとしての考えを語り、それを行動で示して、関係者に働きかける取組が不可欠です。
 
 本稿では、下記の4要因から「(1)目的である人の幸せとマネジメント(経営)に関する要因」を取り上げて内容を明記します。残りは次稿以降で取り上げます。

 (1)目的である人の幸せとマネジメント(経営)に関する要因
 (2)社会的な観点とマネジメント(経営)に関する要因
 (3)組織のあり方とマネジメント(経営)に関する要因
 (4)体系化とマネジメント(経営)に関する要因

3.マネジメント(経営)を担う人は、本当の目的である「(1)人の幸せ実現」の観点からマネジメントを理解しその内容を関係者に語る

 マネジメント(経営)の現場での実践に必要な4要因の流れは、下記のようになります。マネジメント(経営)を担うリーダーは、マネジメント(経営)の実践では、この考え方の流れを活用します。

 (1)社会における人の幸せを実現したい⇒(2)そのためには健在な社会が必要⇒(3)健全な社会の実現には組織の機能発揮が求められる⇒(4)組織の機能発揮の方法論としての体系的なマネジメント(経営)が必要になる。

 そのスタートは、本稿の以下に明記する、「マネジメント(経営)の目的:(1)社会における人の幸せを実現したい」の共有です。ドラッカーがマネジメント(経営)を発明した意図を確認し、その意図を、機会ある毎に関係者に語り、浸透させ、共有し、組織全体のモチベーションを高めて、マネジメント(経営)の実践を通じて、マネジメント(経営)の目的である「社会における人の幸せ実現」を目指します。 

(1)人の幸せ実現に向けた社会のあり方

◆マネジメント(経営)に発明に至るドラッカーの問題意識の流れ

 ドラッカーは、自らを経営学者ではなく社会生態学者と紹介します。そのドラッカーの関心は、常に「(1)社会における人の幸せ」にあります。 人が幸せであるには、「(2)社会の健全な発展」が必要である。
 現代社会では、社会の健全化に向けた課題の多くが組織によって遂行される。よって社会の健全化の担い手は組織である。ではその組織は立派に機能するのか、といった問題意識からマネジメントの研究、模索、発明に至ります。

◆人の幸せを実現する社会を考える

 ドラッカーは5歳の時(1914年)に第一次世界大戦、20歳の時(1929年)に大恐慌で失業、24歳の時(1933年)にナチスの弾圧を受けて英国に移住、28歳の時(1937)に自らの仕事に疑問を感じて米国に移住、30歳の時(1939年)に第2次世界大戦を経験し、自らも含めて戦争と不況から破壊と分断される社会で翻弄される人々のありさまから、社会生態学者として「(1)社会における人の幸せ」のあり方を、深く考えるようになります。

◆社会をよくするには組織が必要

 産業革命以来、多くの人が組織で働くようになります。組織が社会に必要な財とサービスの多くを提供し、社会で大きな役割を果たすようになります。1人では意義ある仕事ができない時代になり、組織的な働きが必要とされる「組織社会の到来」です。

 ドラッカーは、この時代変化から、人と社会にそれぞれアプローチするよりも、社会と人との間にある組織に焦点を当て、その組織をよくすることが、組織の集まりである社会をよくし、そこで働いている人の仕事や生活にもよい影響を与えると考えます。そこで、組織のあり方や動かし方の調査・研究を本格的に行います。

 しかし当時は、組織の動かし方に関する有効な資料はありませんでした。ドラッカー自身も当時は組織について何も知らなかったとします。残された方法は実際の組織を見ることでした。

(2)組織を機能させるマネジメント(経営)の発明

◆GMからの調査依頼

 この課題を解消したのが、ドラッカーの2冊目の書籍『産業人の未来』を読んだ、世界最大のメーカーである米国の自動車会社GMからの、「当社の経営方針と構造を見て報告書を書いて欲しい」とする依頼でした(1942年)。

♦組織とは社会や人間のために働く社会的存在

 ドラッカーはこれを快諾し1年半GMの調査に没頭します。幹部や社員の話を聞き、各現場でそれを確認し、会議にも参加し、組織のあり方やその活用の仕方を徹底的に調べます。
 1946(昭和21:37才)年にGMの報告書をもとに「企業とは何か(Concept of the Corporation)」を出版します。「組織とは社会や人間のために働く社会的存在である」ことを明らかにし、GMでのマネジメント(経営)的なよい取組の紹介といくつかの提案を行います。

 この本は多くの世界の企業、政府組織、NPOの経営者に読まれ、経営者は、自分たちが行っていることは、マネジメント(経営)であることを認識するようになります。

◆マネジメント(経営)の発明を決意し「マネジメントの父」になる

 この書籍を契機としてドラッカーのコンサルティング活動は広がります。そこでも企業の現場では、まだマネジメント(経営)的な取組が少ないこと、マネジメント(経営)に関する資料や文献不足に遭遇します。そこでドラッカーは、この暗黒の大陸の地図を描く、[マネジメント(経営)の発明」を決意します。

 そして、その後のGE、フォード、シアーズなどの様々なコンサルティングの経験を踏まえて、1954(昭和29)年に、世界初のマネジメント書である「現代の経営」を出版します。
 この本で、①組織とそのマネジメントが社会に大きく影響すること、②組織の目的は「顧客の創造」であること、③そのために必要な機能はマーケティングとイノベーションにあることを明らかにします。
 そして上記を含めたマネジメントを、「それは、資源を組織化することによって人類の生活を向上させることができるとの信念、経済の発展が、福祉と正義を実現するための強力な原動力になりうるとの信念の具現である」とし、「社会での人の幸せ」に貢献するマネジメント(経営)の目的を明らかにします。こうしてドラッカーは「マネジメントの父」になります。

◆マネジメント(経営)の決定版『マネジメント:上中下』の刊行

 さらに1974(昭和49:65歳)年にドラッカー・マネジメントの決定版である、まえがきに「マネジメントが知るべきことはすべて入れた」と明記する、世界的名著「マネジメント」を出版します。
 それは「社会と経済の発展をもたらすものはマネジメントである」と明記した内容で、マネジメントは「社会の発展と働く人の幸せに貢献する組織の機関(仕組み)」として、企業だけではなく組織すべてに必要なものになりました。

◆結論:マネジメントは経営の体系と幸せを実現する体系

 このようにドラッカーは、「人を幸せにする社会とは何か」といった問題意識から、組織に成果をもたらす「マネジメント」という方法論を発明します。ドラッカーのマネジメントは、経営の体系でもあり、人の幸せに貢献する体系でもあるといわれるゆえんです(下図参照)。

 この考え方から経営の仕組みの構築は、組織の使命を明らかにし、住民ニーズの把握を徹底し、それを価値に変換する組織と仕事を生産的なものにし、そこに人の強みが最大限に発揮できるようにします。
 これにより、仕事で人の強みを活かして「組織で働く人を幸せ」にし、組織成果の達成を通じて「社会で生活する人々を幸せ」にする仕組みと手段の構築になります。  

3.公務員にとってのマネジメント(経営)の重要性

◆マネジメントは「人の幸せ」に貢献する

 以上のように、ドラッカーが発明したマネジメントは、民間の手法でも金儲けの手段でもありませんでした。人は社会で幸せになれるか、組織は社会を善くすることができるか、その組織を機能させるには、何が必要なのかを追求した結果、たどり着いたものでした。

 人を幸せにする社会の実現は、社会で働く人すべての目的です。特に首長も含めた公務員、行政組織にとっては特有の目的、つまり使命です。首長・公務員と行政組織は、使命に基づいた組織活動を通じた成果で、「人を幸せにする社会」を実現しなければなりません。
 それにはマネジメント(経営)の修得が不可欠になります。マネジメント(経営)の「㋐目的と意義の共有」と「㋑経営の仕組み構築」はセットです。

◆マネジメント(経営)は公的組織のもの

 マネジメントは、まさに公僕としての首長と公務員、行政組織のためのものです。企業の体系であるとする意見もありますが、それは企業がマネジメントを活用し成功し注目されただけのことです。

 マネジメント(経営)の理論や原則をはじめて体系的に適用したのは企業ぱなく陸軍、市のシティ・マネジャー、連邦政府といった公的組織です(『マネジメント・フロンティア』)。

 現在の激動と困窮する社会で中心的な役割を果たす首長と公務員にとって、「人を幸せにする使命」と、そのための成果産出を柱とするマネジメントの知識と仕組み構築は最優先すべき責務です。これを忘れてはなりません。

4.現在の公的組織の大不振の解消は 

◆中央政府と地方政府の猛省と改革が不可欠 

 しかし、冒頭で明記したように、現在の中央政府と地方政府の成果は惨憺たるものがあります。
 中央政府は、毎日約270億円(9.7兆円÷365日)の利息を支払う、莫大な借金も組み込んだ予算で政策を提案しても、顧客である国民減を引き起こしています。あり得ない状態です。
 政策の多くが、責任者(内閣と713名の国会議員)のマネジメント(経営)力不足から、後手、前例、先送りから歪み、「法人税を引き下げ、消費税を引き上げ、低賃金の非正規雇用者を増やし、高齢者1人当たりの老齢年金を削減する」といった稚拙な政策ミックスで、国民の幸せを奪いさる「失われた30年」を招きました。中央政府の失政は明白です。

 1718の地方政府も人口減と消滅可能性自治体の744の発生からすれば、これも明らかな失政です。それは、ここ10年間の地方創生に関する「大きな流れは変えられなかった」とする「地方創生10年の総括(内閣府)」でも確認できます。

♦民間以上のマネジメント(経営)が必要

 中央政府の省庁組織、地方政府の役所などの行政組織には、社会の安定と発展に貢献できる成果をもたらす、基本的な考え方とそれを具体化する体系が必要です。その方法論が、これまで述べてきたドラッカーが発明した「人の幸せを実現するマネジメント(経営)」です。

 その内容は、民間組織で働く社員と同等か、現在の人口減と消滅可能性自治体の発生、悪化する財政といった克服すべき課題の大きさからすると、民間を超えるレベルのマネジメント(経営)でなければなりません(下図参照)。

5.『断絶の時代』が指摘する改革方向

行政は危機に際して病んでいる
 ドラッカーは、前記の『断絶の時代』で、現在の消滅可能性自治体の発生を、「政府は病んでいる。それも強力で健全、かつ生気にあふれた政府が必要とされているこのときに病んでいる」と指摘しています。驚くべき卓見です。
 その処方箋も示し、目指すべきことは、「われわれは国家の消滅に直面しているのではない。それどころか、活力のある政府を必要としている。それは、それぞれの領域において、それぞれの組織が、自らのマ不ジメントのもとに、自らの仕事に献身することによって、行動と成果の主体として活躍する社会である(『断絶の時代』)」とします。

公的組織の「使命(人を幸せにする)」をかけた、マネジメント(経営)の実践が必要

 さらに患者(行政)の怠慢も推測し「もはや政府は、これまでたどってきた道をさらに進むことはできない。税率をあげることはできるかもしれないが、その道の先にあるものは、政府の病の悪化であり、政府への幻滅の増大だけである」とします。まさに㋐現在の政府と自治体の病と、㋑その治療方向、そして㋒改革不備の場合の危機を推計しています。

 この中央と地方の二つの組織が、これからも、マネジメント(経営)を「民間の手法」として軽視し習得を怠るとしたら、それは住民・国民の幸せを奪ってきた「失われた30年」が、2030年に「失われた40年」になり、26年後の2050年に744の自治体が消滅に踏み出すことは確実です。日本の衰退が進み、その再生は不可能になります。

 マネジメント(経営)を担うリーダーは、猛省後、「人の幸せ」を実現するマネジメントの意図の理解とその浸透に全力で取り組み、平行して経営の仕組み構築を進め、公的組織の使命をかけたマネジメント(経営)の実践が必要です。

6.動画による『マネジメント(経営)の「本当の目的と意義」の理解とその浸透、そして共有化』を確認する。

 以上の内容の重要部分を動画にまとめました。重要ポイントの確認としてご活用下さい。


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