■行政組織の大不振の理由(2)マネジメントを「金儲けの手法」と曲解し、社会的な意義を語らないで大失敗している。
1.行政組織の大不振の4要因とは
◆行政の大不振に対するドラッカーの指摘
前回の行政組織の大不振の理由(1)で述べたように、国家経営と地方経営を担う行政組織の成果不足は深刻です。地方と国全体の衰退につながる「大不振」と言えます。
ドラッカーは、この行政組織の「大不振」に関して、1969年に刊行した『断絶の時代』で、その解決策として「それぞれの領域において、各組織が、自らのマネジメント(経営)のもとに、自らの仕事に献身することによって、行動と成果の主体として活躍する社会の実現」であるとします。
行政と企業(※企業のマネジメント(経営)にも多くの課題があります)には、社会で行動と成果の主体として活躍するに必要なマネジメント(経営)が不可欠です。
◆行政は行うべきマネジメント(経営)を実行していない
行政のマネジメント(経営)に対してドラッカーは「行政組織は経営者としてはお粗末である」と指摘し、現在の行政は、マネジメント(経営)の必要性にようやく気がついた程度で、その内容は「行うべきマネジメント(経営)を実行していないことに気がついた段階」とします。
現場でマネジメント(経営)を実践するには、リーダーはマネジメント(経営)の仕組み作りと平行して、マネジメント(経営)の目的と意義と役割を、下記の4つの観点(要因)から、情熱を込めて明確に語り、関係者(特に職員)のマネジメント(経営)に取り組むモチベーションを高める必要があります。
マネジメント(経営)の目的に関する説明と経営の仕組み構築はセットです。
これなしでは、マネジメント(経営)の活用が表面的、形式的になり、実施はしているが、「空回り」になり、マネジメント(経営)の成果を十分に得ることができません。
(1)目的である人の幸せとマネジメント(経営)に関する要因
(2)社会的な観点とマネジメント(経営)に関する要因
(3)組織のあり方とマネジメント(経営)に関する要因
(4)体系化とマネジメント(経営)に関する要因
マネジメント(経営)の実践では、この考え方の流れを活用して、マネジメント(経営)の目的と意義・役割を関係者に語り、浸透させ、共有し、社会における「人の幸せ実現」を目指します。
◆今回は(2)社会的な観点とマネジメント(経営)に関する要因
前回で(1)の内容を確認したことから、ここでは(2)社会的な観点とマネジメント(経営)に関する要因の内容を確認します。そして、社会における人の幸せ実現には、「健在な社会の実現が必要」とする社会的な観点からマネジメントを理解し、経営の仕組みの構築と平行して、機会ある毎にマネジメント(経営)の社会的な意義を現場で語る取組に結びつけます。
組織は社会の一つの機関です。組織の外の成果で社会に貢献することで、その存在を可能とします。マネジメント(経営)の実践で必要なのは、常に社会的観点から考え判断し考動することです。所管する組織の活動をそのような状態にすることがリーダーの役割です。社会的な観点からマネジメント(経営)を語れるようにします。
2.実現すべき「社会成立の3要件」
◆「人の幸せ実現」のための社会のあり方とは
「人間は社会的動物である(諸説もあり)」と言われるように、人は幸せに生きることを目指して、他の人と良質な社会の形成に取り組み、その形成した良質な社会に影響されて、さらに幸せに生きることを目指します。
このような個人と社会の前向きの関係が連綿と繰り返されることで、「社会の健全さ」と「人と幸福の実現」が可能になります。
経営学者ではなく、「社会生態学者(社会で未だ認識されていないものを知覚し分析し伝える)」と自らを任じたドラッカーは、上記の人の幸せ実現と、それに深く関連する人びとが集う社会のあり方を研究します。そして、人の幸せ実現には「社会」が有効に機能することが必要とし、「社会のあり方」に関心を向けます。
◆ドラッカーが唱える社会が成立する一般理論
ドラッカーは、人が幸せであるためには、まず社会が成立していなければならない。その社会成立の条件は、下記の3つがあるとします。これがドラッカーの社会についての一般理論、つまり社会が機能し、かつ正統性をもつための条件です。その社会に貢献するのが組織で、その貢献を可能にするのがマネジメント(経営)の働きになります。
この社会的な観点からマネジメント(経営)の意義を考えることが大切です。マネジメント(経営)は、一つの組織の成功だけの話しではないのです。
ドラッカーは、人の集まりが単なる群衆ではなく、社会として機能するには、以下の3条件が必要とします。
第一に、そこにいる1人ひとりの人に、社会に貢献できる「位置づけ(存在)」が必要です。それは、社会とのつながりが自覚でき、社会的な存在であることを認識できる「働く場」があるということです。現在の組織社会では、働く場はほとんどが組織になります。この位置づけに課題のある人が多い社会は、無気力で流動的で不安定な社会になり、特定の方向に動くことになりがちです。⇒マネジメント(経営)で社会における組織の存在を確実なものにします。
第二に、同時に働く場での「役割」が必要になります。それは人が位置づけられた働く場で活き活きと働き、自己実現が可能な役割があるということです。役割のない、又は曖昧な人の集まりだけの組織は、ただ動いているだけの、ムダ・ムリ・ムラの多い、生産性の低い、よって成果の少ない組織になります。組織成果の減少は社会の活力消失になります。働く人の確固とした役割が必要です。⇒マネジメント(経営)で各自の役割を明確にし活躍できる組織を創造します。
第三に、社会や組織といった集団の活動を方向づけるパワー(権力)は、関係者が納得できるものでなければなりません。人の考動に影響を与える権力は、成果をあげるだけでは不十分です。「1人ひとりの人の強みを生産的なものとし、社会に貢献できる成果をあげさせる責任」(『マネジメント:下』)があります。リーダーがもつ人を動かすパワー(権力)には、このような社会的な観点からみた正統性があることでその役割を果たせます。⇒マネジメント(経営)で真摯なリーダーシップを実現します。
◆常に社会的観点からマネジメント(経営)が機能しているかを確認する
以上、人の幸せを実現する社会が機能するには、一人ひとりの人間が、社会的な「位置」と「役割」を与えられ、権力が「正統」なものとして受容されていることが条件になります。
その「位置」には組織の存在が必要で、その組織の存在維持には、マネジメント(経営)の機能発揮が不可欠です。さらに「役割とパワー」にも、マネジメント(経営)の関与が求められます。
ここにマネジメント(経営)の社会的な意義があります。リーダーの役割を担う人は、上記の社会におけるマネジメント(経営)の役割を理解し、常に社会的観点からマネジメント(経営)の意義を語り、現場でそのように機能しているかを確認する必要があります。
◆ドラッカーマネジメントの特徴とマネジメントの意義
組織を社会における1つの機関として位置づけ、その組織をマネジメント(経営)で機能させることで、社会での立場を確固としたものにし、一人ひとりの社会的位置づけを確保します。
次に、組織での役割をマネジメント(経営)で明確にすることで、組織で働く人の組織と社会での活躍を促し、そこからの成果で、下記の①②の実現を図る社会的な観点は、ドラッカー・マネジメントの大きな特徴であり、マネジメント(経営)の意義を示すものです。
①組織からの成果で「社会における人の幸せ」を実現する。
②社会に貢献することから生じる働く人の自己実現で
「働く人の幸せ」を実現する。
3.マネジメント(経営)改革を先延ばし成果不足と消滅可能性自治体に
◆行政のマネジメント(経営)への「曲解と軽視」の是正を
上記のようにマネジメント(経営)は、組織を社会で機能させる方法論ですが、同時に「社会で生活する人の幸せ」と「組織で働く人の幸せ」を実現する方法論でもあります。
ところがこれまでの行政の多くは、このマネジメント(経営)を「利益獲得(金儲け)の手法」として曲解して軽視し、自己改革が伴うマネジメント(経営)の導入と活用を先延ばしにしてきました。
その結果が下記の「強み」を持ちながら、それを有効に活用できないでいます。特に比較的まじめで、努力する、協働意識もある、教育レベルが一定水準の職員は有力な資源です。
①首長のリーダーシップ
②職員の潜在能力
③住民との協働の可能性
上記の「強み」を活用したマネジメント(経営)改革を進めれば、行政は見違えるようになります。それは人口減の是正と「消滅可能性自治体発生」の回避にもつながります。
◆自己改革を避けた結果が、成果不足と人口減、そして消滅可能性自治体の発生に
しかし、現実は自己改革を避けることから、上記の「民間を超える強み」を住民価値に転換できないまま、逆に下記の内部志向を深め引き籠もり、組織劣化の方向に歩みを進めています。この結果が成果不足と人口減、そして744の消滅可能性自治体の発生です。一部の自治体を除いた、改革を怠る1718自治体の猛省が必要です。
ー内向き引き籠もり現象例ー
【住民】住民ではなく内部都合を優先して仕事をするようになる。
【決定】形式的な手続きにこだわり意思決定が遅く後手になる。
【計画】前例主義がはびこり、組織全体が新しい挑戦を
避けるようになる。
【協働】縦割りが解消せず人と組織の協働が欠落し力不足になる。
【改革】改革や改善といった自己改革が伴う取組をしなくなる。
4.マネジメント(経営)を習得し社会的な観点から観て語り実践する
◆難度を増す課題への対応は成果をあげる方法の習得と実践
成果不足から、止まらない人口減少と少子高齢化、深刻化する都市への人口集中と地方の過疎化、生産年齢人口の減少による労働力不足、気候変動による自然災害の増加、積み上げる巨額の政府債務など、公的組織が取り組むべき課題は、行政の改革先送りから年々難度を増しています。
さらに、これらの課題解決には、莫大な借金から経営資源が限られてる現在、現有する人材と資源で対応しなければなりません。経営資源の調達を増やすことができなければ、成果をあげる方法の習得と実践が、能力や知識という資源から、より多くの優れた成果を生み出す唯一の手段になります。それがマネジメント(経営)です。
◆社会的観点からマネジメント(経営)を語る
マネジメント(経営)の実践では、リーダーは、行政経営の仕組み構築と並行して、社会における所管組織の重要性を理解し、それを機能させるマネジメント(経営)の社会的な意義を組織内の関係者に語り、全員のマネジメント(経営)の習得と実行、受容と活用を図ります(下図参照)。
リーダーの役割を担う人が、組織を的確にマネジメント(経営)し、そこで働く人が、そのマネジメント(経営)を理解して受容し、成果を産出することで、社会のあり方が決まります。このようにマネジメントは社会で重要な役割を果たします。「利益獲得(金儲けの手法」や一つの組織の成功だけのことではありません(再言)。
◆実践と展開の先に社会の未来と行政の意義かある
企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関です。組織が存在できるのは、組織の外の社会の安定と発展に成果を通じて貢献することです。マネジメント(経営)を担うリーダーは、①ドラッカーの考え方などを参考にして「経営の仕組み」を構築します。
次に現場でのその実践では、②考動のすべてを、社会の観点から観て語り、組織のモチベーションを高め、全力でマネジメント(経営)の展開に取り組みます。その先に社会の未来と行政の存在意義があります。(完)
次回は、(3)組織のあり方とマネジメント(経営)に関する要因についての内容を予定しています。
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