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3日目の扉〜美しい看取り

 人は、その人生に終止符を打つことを無意識の中で意識したとき、痛みや苦悩を道連れにしないよう、自らを楽園に導く、とっておきの魔法の扉が開くようにできているらしい。
 昨夜12月23日、96年の人生を閉じたおばあさんがいる。私が働く高齢者介護施設で約3年、ともに暮らした。
 ここひと月、緩やかに枯れていった。
 食事を受け付けなくなり、排尿も徐々に少なくなり、ふくよかだったおばあさんの身体は、細く小さくなった。
 人は綺麗に死ぬ準備の整えとして、体内に何も入れず、体内にあるものを少しずつ排出していく。これも魔法なんだろうか、おそらく空腹や喉の乾きも、周りが心配するほど、感じてはいないのかもしれない。
 おばあさんは、不要な点滴をすることもなく、吸引することもなく、酸素も流すこともなく、娘さんと我々施設のスタッフに囲まれる中で、最後の息を静かに吐き、穏やかな表情で整えを完了した。
 美しいと思った。
 美しい最期だと思った。
 余計なしがらみのない、ごく普通の死だった。何もせず、ただその奇跡の瞬間に寄り添い見守るだけの看取り。
 スタッフと入居者に見送られて、小さなおばあさんは、楽園を後にしながら、きっと、僕達に向かってこんなことを言ったに違いない。
「あんたたちはもっとしっかりやんなきゃだめよ。」
 おばあさんの甲高い声が施設のフロアに響いた気がした。

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