「いやな感じがするんや……」
ある大晦日の夜。親父とオカン、僕と弟の4人で紅白歌合戦を見ていると、映画「NANA」で大ブレイクした伊藤由奈ちゃんが登場した。
親父は「この子ええ目してるなー」とほめだした。言われてみれば、確かに大きくてきれいな目をしている。僕もオカンも「ほんまやなー」と声をそろえた。すると親父は、その子の目を見て何か思い出したらしく、自分の会社の話をし始めた。
「そう言えばこのあいだ、うちのバイトにな、背のちっちゃい女の子が入ってきたんや。ほんま子どもみたいな感じの子でな。この子の目がまたなぁ。良くないんや……」
「良くないんかい!!」
僕と弟はハモりながら突っ込んだ。流れ的に、てっきりその子も「いい目をしている」という「いい話」かと思ったのに……。
僕たちは一瞬で崖から突き落とされた気分になった。
「なんかな、いやな感じがするんや」
親父はそうつぶやいて、お茶をすすった。
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