クリエイターや研究者が実践する「おうちでできるSTEAM教育」後編
クリエイターや研究者の方々に、「自宅でできるSTEAMな学び」をお聞きした前編に引き続き、今回もさまざまなヒントが寄せられました。
※CASE1~3は前編からご覧ください。
CASE4:
子どもは好きなことなら、どんどん学ぶ
(武蔵大学 社会学部教授の庄司昌彦さんの場合)
幼い頃からYouTubeなどに慣れ親しんでいる子どもたちにとって、動画作りはやはり人気な模様。武蔵大学 社会学部教授の庄司昌彦さんのご家庭では、子どもたちにタブレットを渡したところ、知らぬ間にプログラミングアプリを学び、さらに使わなくなったビデオカメラを使って兄妹で動画編集を始めるようになったそう。
「簡単な編集アプリの使い方を少しだけ教えた結果、分からないことは自分たちで調べ、試行錯誤し、姉と弟で助け合って作品を作れるようになりました。その過程で、物語をつくることや、場面ごとに背景や小道具を工夫して撮影することなどを学んだようです」
さらに「好きなことは自分たちで調べてでも学ぶもの、と本人たちが気づいた」と庄司さんは言います。
そんな庄司家では、マンガ『はたらく細胞』が大人気。人体の細胞を擬人化した科学マンガで、TVアニメにもなった人気シリーズです。このキャラ設定が見事で、筆者も一度ドハマリしました。見えないウイルスを闇雲にこわがるよりも、まずは細胞への正しい知識を持って向き合ってみる。マンガからも、学びや新しい世界の発見を得る機会は十分にあると言えそうです。
CASE5:
自ら「世界」をつくって遊ぶ
(リアルテックファンド 成田さんの場合)
子どもの頃につくりだす世界はどこまでも広がっていく。日々そんな光景が広がっているのは、成田真弥さんのご家庭。地球や人類の課題を解決するテクノロジーベンチャーのキャピタルファンド「リアルテックファンド」で働く成田さんは、科学や歴史、古代の神話などへも並々ならぬ情熱を捧ぐ人物。2人のお子さん(3人目は産まれたばかり!)と、色々な世界を想像して遊んでいるようです。
ある日は、科学雑誌『ニュートン』に掲載されていた「2億5千万年後の地球の姿」をテーマに、子どもたちと未来の世界地図を制作。今とは異なる形になった大陸プレートをまず描き、それぞれの土地の景色や生き物への想像を膨らませていきます。時にはタロットカードの「戦車」や「賢者」などからイメージを与えていくこともあるそう。
▲それぞれの大陸には「さばくのくに」や「木のくに」、ドラゴンがいる海などが登場する成田家流「未来の世界地図」
またその地図は3次元のリアル世界にも飛び出していくそう。地図で描いた世界観を家の中で見立てていくと、階段で新たな星へワープしたり、洗面所にエレベーターがあったりと、その想像力は縦横無尽。家の中にいても異次元ワールドを行き来して遊んでいるそうです。
また成田家が力を入れているのはレゴブロック遊び。一度つくりはじめると、まるでどこかの都市の縮図のような世界が生まれます。「Minecraft」に夢中だという長男は、ゲーム内でつくった世界をレゴで表現したり、その逆もしかりと、リアルとフィジカルを自由に交差させ遊んでいるとのこと。
▲神話や歴史上の人物がモチーフになることもあるという成田家のレゴ世界
「我が家では、“つくって終わり”というのはありえない。絵やレゴが完成して片付けようとすると、『まだ遊んでないじゃん!』と息子2人から総ツッコミが入ります(笑)。途中からおもちゃも関係なくなってくるので、紙と鉛筆だけでも相当の創造性を発揮するんだろうなと思います。それすらなくても、想像だけでずっと遊んでいられる。子どもってそれくらい柔軟だと日々実感します」
と成田さん。
CASE6:
LINEスタンプで社会とつながる
(Takram Design 緒方壽人さんの場合)
デザインとエンジニアリングの両分野に精通し、領域を横断するプロジェクトに取り組む「Takram Design」の緒方壽人さんのお宅では、子どもたちに小さな頃からデザインを社会に伝える体験をさせています。
それは、子どもの描いたイラストを「LINEスタンプ」にして実際に販売するというもの。「ねむい」「おなかすいた」など、普段のコミュニケーションからスタンプとして使えそうなイラストを描き、緒方さんがLINEに申請して販売。すると各所からさまざまな反響があったそう。
▲緒方さんの周囲の大人にも人気だというLINEスタンプ。こちらから購入可能です。筆者も愛用しています!
もちろん販売しただけでは終わりません。「どんなスタンプがよく使われるかをリサーチし、次はどんなスタンプが喜ばれるかを考えたり、近くのカフェにカードを置かせてもらったりといった、フィードバックや改善も経験させています」と語る緒方さん。「子どもが作ったものを『おままごと』で終わらせずに、本当に社会に実装して、実際に買ってくれる人・使ってくれる人がいる、という体験ができるところがおすすめです」
さすがはデザインの社会実装に日々取り組んでいる緒方さんだけあって、子どもたちもそのプロセスを共に歩んでいるようです。
自宅にいても、社会とつながり、世界を旅していくことはできる。たくさんの学びのカタチが寄せられました。皆さんのご家庭でもぜひ実践してみてくださいね。
塚田有那(ARINA TSUKADA)
編集者、キュレーター。世界のアートサイエンスを伝えるメディア「Bound Baw」編集長。一般社団法人Whole Universe代表理事。2010年、サイエンスと異分野をつなぐプロジェクト「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。16年より、JST/RISTEX「人と情報のエコシステム」のメディア戦略を担当。近著に『ART SCIENCE is. アートサイエンスが導く世界の変容』(ビー・エヌ・エヌ新社)、共著に『情報環世界 - 身体とAIの間であそぶガイドブック』(NTT出版)がある。大阪芸術大学アートサイエンス学科非常勤講師。
http://boundbaw.com/