私という介護士

私の職業は介護福祉士という資格を持って介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)で働いているいわゆる介護士だ。高校卒業後、介護福祉学科のある専門学校を卒業し現在働いている法人に就職し12年目になる。介護業界というのはご存知の通り兎にも角にも離職率が高い業界なので、同一法人同一施設で10年以上勤続しているのは結構珍しい方ではないかと思う。10年も務めていると必然的に役職もついてくるわけで、ユニットリーダー、フロア主任、を経て現在の介護主任という役についた。出産前までは業界で言う『フルシフト』24時間全ての勤務を担当していたが出産直前で介護主任になり一度フルシフトからは離脱した。妊婦期間は体調を崩すことも少なく出産1ヶ月前まで出勤して働かせてもらい、出産後2ヶ月で時短勤務を開始した。Jくんの紹介でも書いたが我が家の地域は保育園激戦区。加えて特養介護職という仕事は「急な欠員が出たので本日は閉店します!」と出来ないタイプの職業である。24時間365日必ず誰かがそこに居なければならない。さらには相手は人間。お食事の途中、お手洗いの途中で「定時なんで、失礼します☆」ともできない。ましてや元気ピンピン!(そんな人はそもそも特養にほぼ居ないが)な方ならともかく、大抵体調を崩していたり、いつお見送りをすることになるか分からない状態の方なので相手のペースが最優先。帰りたくても定刻カッチンで帰れない状況になってしまうこともある。『そんな働きを見てきたし、女が結婚出産で仕事を諦める世の中なんて許さん!うちで、できる限りのことをするから仕事は続けなさい』という自身もバリンバリン(←バリバリどころではない)のキャリアウーマンだった母と、娘大好き!(笑)な父の全面協力のもと、産休明けから実家に息子を預けつつ職場復帰をすることができたのだった。

介護業界に足りないものは人ではない

一般職やユニットリーダーの頃は毎日のシフト、介護業務で頭がいっぱいで気づかなかったが採用や人材あかも自身の役割となった今、痛感するのは介護業界(もしかしてウチの施設だけ?)の『育成力の無さ』である。リーダーに人が足りないから補充してほしいと言われ、入職が決まって時期の相談をすると忙しいから教える暇がないと言う。さては君、なかなかのアホだな?と思うことはちょいちょいある。いつまで同じところをグルぐるグルぐるまわっているのだ、どこかで誰かが踏ん張らなければ(ここで言う踏ん張るとはやり方を変えるという意味合いが強い)永遠にループが終わらない、今私たちが未来の介護士と入居者のために面倒に思えることも踏ん張ろうと話してもパッと見、手のかかることは嫌がる傾向にある。前述のリーダーではなく私のことを頼りにしてくれるような『あなたのもとだから頑張れる』と言ってくれるリーダーたちでさえも、である。そうして人を育てることから目を背け、なんとなく教えればなんとなくできるようになる経験者優遇の仕組みで出来上がるのは後輩を育てることを自分の仕事だと思わない10年20年選手の一般職員。そこにいくら新しい人材を補充したところで教え方が分かっていないのでトラブルが起きたり「新人さん、全然仕事出来ないんです」となってしまう。それはつまり君が"教える"という仕事出来ないということだが(さらにそれは私が君に"教える"という仕事を教えられていないということだな…)とちょっとしょんぼりする。組織として人材育成について取り組むことこそが介護現場に不足しているところだろうと思う。

介護という仕事

そもそも、介護という仕事は結構特殊なのではないかと考えている。世の中には様々な仕事があり、人と関わらない仕事はないだろう。相手が動物や機械であったとしても依頼先には人間がいるし、一緒に働く側も人間の場合が多いだろう。私が介護という仕事は特殊だと思うのは人との関わりの深さと長さにある。介護士は入居者(仕事相手)の既往歴、家族構成(と、その関係性)、経済状況から趣味、どんな人生を歩んできたか、食べ物の好き嫌い、お風呂はどこから洗うのかまで知っている(しかも裸で行うそれをそばで見守ったり代わりにやったりする)。そして個人差はあれど年単位で入居してから心臓が止まるその日まで支えていく。私の働く施設でオープン当初から現在まで居られる方は11年のお付き合いになる(素晴らしいことに意外と結構人数いる)。こういう特殊さと、the 感情労働という面と、フルシフトによる身体的負担が介護士の離職率に影響する…というのは仕組みとしては理解できる。ただ私は同時に介護士がこれらを理由に手を抜いたり甘えて文句ばかり言っているように思えることも多々ある。自分で選んだ生業、自分で選んだ職場、自分で選んだポジションのはずなのに、何で文句たらたらなのだろう?介護士にならないと命を狙われるとか、そういう事情がお有りでしたか?と思わず聞きたくなる人は結構いるのだ(介護士じゃなくても一定数居そうだが)。世の中、熱意溢れる職業人ばかりで無いのは分かっている。やる気があろうとなかろうと、センスがあろうとなかろうと、求められているレベルの結果を出せるように仕組みとルールを作るのが今の私の仕事だと思っている。人の人生に土足で片足突っ込む仕事なのだから、せめてその足は美しく、その人生を片足分だけ支える力を持っていたい。

ちなみに私自身は介護大好き!とか、人のためになるのが生きがい!とかいう気持ちはほとんどない。もちろん元気のなかった人が笑っているところを見られたら良かったなぁと思うが、元々人と話すのもあまり得意じゃないし、他人にもあまり興味がないので介護向いてないのでは?と思うことは今でもある。もちろん辞めたいと思ったことも数え切れないほどあるが、会社や上司のせいにして辞めるくらいなら自分が変えればいいと思って続けてきた(もちろん周りに助けてくれる人、心配してくれる人が居たから続けてこられた)。ルールに文句があるなら、ルールを決める会議に出るしかない。その努力もしないで不満ばかりを語る介護士には、どんなに意見されても詰め寄られても陰口を言われてもニコニコしながら内心『貴様には負けん』(何の勝負?)と思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?