七夕のこと。〜夕暮れとクローゼット〜
江國香織さんの作品が大好きだってことは、ここでもたくさん書いているんですが、いちばん最初に読んだのは「きらきらひかる」です。
ひとことで言ってしまえば、アル中の笑子と、その旦那さんの睦月と、睦月の恋人の紺くん、その3人のお話。
笑子が、七夕の短冊に願いごとを書くときに、「いちばん大切な願いごとは、こっそり願った方がかなうような気が」して、最後の短冊にはなにも書かずに結ぶ。
睦月も書いてって言うと睦月は、「僕はいいよ。これといって願いごともないんだ。このままで十分だから」って言う。
笑子が、「連名にしよう」って言って、なにも書いていない短冊にふたりの名前を書く。なぜなら、笑子のいちばん大切な願いごとは、このままでいたい。だから。
ここがね、大好きなんです。短冊を結んでいるのは紺くんが結婚祝いにくれたユッカエレファンティペス(紺くんの木と呼んでる)ってとこも含めて、大好きです。
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わたしの好きなものは、なぜかいつも、なくなってしまう。終わってしまう。消えてしまう。って、思っていた。このままでいて。って強く願っているのに、なんでだろう。
だけどそれは、逆だった。
わたしが、消えそうなもの。危ういもの。安定してないもの。そういうものが好きらしい。
安定すること。落ち着くこと。じっとそこにいること。が、怖いのかもしれない。
なのに、それ以上に、好きなものがなくなってしまうことが怖いなんて。
幸せになれないじゃん。
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4年前の七夕の前日に、大好きなアーティストが活動の形を変えるみたいな発表があった。もしかしたら、歌を聴けなくなるかもしれない。
また、なくしちゃうのかもしれない。こんなに大事なのに。
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翌日の七夕に、わたしは初めて、なにも書かない短冊を吊るした。笹の葉はなかったから、1枚だけ洗濯ばさみにとめて、空に願った。
白紙の短冊の効果なのか、形をいろいろ変えながらも、その人は歌い続けている。そしてわたしは、聴きに行けている。
きのうの七夕も、その歌を聴くために、時速300キロで駆けつけて、時速300キロで帰ってきた。
そして気づいたのは、その刹那の、それこそが、わたしの幸せだってこと。一瞬一瞬で完結してるもの。8年前も4年前もきのうも、ひとつひとつ終わってて、ひとつひとつ始まってる。
そういうことだった。
偶然なのかおんなじなのか、そのひとも、「本当に大事にしているものは誰にも言わなくていい」って歌っている。
せめて、フローリングの床があったかくなるくらいの、「ずっと」でいいから、ここに座ってたいな。