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手乗りクロゴキブリ(成虫♂)10/20
「ダメだ。こんなの全然ゴキブリじゃない!」
私はゴキブリの絵を3DS(ゲーム機)で描きながら、心の中で叫びました。
そして3DSの充電が切れかけたため、3DSを充電してタブレットをいじり始めました。
「……私にはないんだろうか。ゴキブリを描く才能が……」
決めつけるには早すぎる。そう思いつつも、自分の限界を感じ、絶望しかけていました。
ゴキブリが……なぜか上手く描けないのです。
そんなとき。
ふと横を見ると。1mほど向こうの床に、ぽつんと一粒落ちている、黒い塊が目に入りました。
「ゴキブリだぁ!!」
クロゴキブリ・オス・少々小ブリ。
私はすかさずクロゴキブリのそばの戸を閉め、退路をふさぐと、床に這いつくばって、穴があくほどゴキブリを見つめました。
「これが……本物の……ゴキブリ……!!」
天から使わされたモデルかと疑うような、神タイミングのゴキブリ。
しかし本物を前にスケッチを始めるには至りませんでした。
少しでも目を離すと、どこかに行ってしまいそうだったからです。
「ふふっ、ゴキブリさん、そんなところで黒光りしていると、アーモンドチョコレートと間違えてしまいますよ」
私はゴキブリの姿が気持ち悪いとは思いません。
急に天井から襲撃されたりしたらトラウマになると思いますが、クサギカメムシも天井から落ちてきて「パーンッ!」と音を立てたことがあるし、イラガの幼虫が木から落ちてきて頭に乗ったこともあるし、でかい蜘蛛が木から落ちてきて肩に乗ったこともあるし、ムカデが部屋の天井から落ちてくる可能性もあるし、空から隕石や雷やUFOが落ちてくる可能性もあるので、怖いのはゴキブリに限ったことではありません。
私がゴキブリに対して気になっていることは主に2つ。
衛生面と、「ゴキブリは人を噛むらしい」という情報です。
ゴキブリは不衛生だと言いますが、実際どのくらいなのでしょう。
スマホ画面は実は汚い、なんて話もありますが、ゴキブリを退治してもスマホ画面を触ったら意味がないくらいのレベルなのでしょうか? それとも、ゴキブリはスマホ画面とは比べ物にならないほど汚いのでしょうか。
家を大掃除したあとの手なんかもあちこち触って汚いと思いますが、手を洗えば問題ないはず。ゴキブリは大掃除した手より危ないのでしょうか。
また、「生き物に触った後は手を洗いましょう」と聞きますが、触れ合える他の生き物よりゴキブリは百倍危ないのでしょうか。
ゴキブリを殺した後に、ゴキブリが歩いた場所に消毒液をかける人は見たことがないのですが、消毒しなくても大丈夫なのでしょうか。
ちなみに叩き潰すのは菌が舞い散って逆効果らしいです。
うーん、危険レベルが未知数すぎて分かりません。
蚊なんかは、綺麗とか汚いとかいうより、伝染病を媒介する恐れがある……でしたっけ。でもゴキブリも様々な菌を持っているようです。
詳しくはWebで。
で、2番目の疑問。ゴキブリに噛まれるってどのくらい痛いのでしょう?
数ヶ月くらい前からずっと気になっていました。
私はゴキブリに向かって手を出してみました。
……ダメです、検証する勇気がありません。
緊張に耐えかねて手を引っ込めてしまいました。
噛まれたときに刺すような痛みとかあったらどうしましょう。
私は苦痛というものを1ミリも我慢できない、苦痛大嫌い人間なのです。噛んだり刺したりしてくる虫は基本、無理です。
私がまごまごしているうちに、ゴキブリはこちらの動きに驚き、閉まっているドアの隙間から向こうに行ってしまいました。ドアを閉めたくらいではゴキブリの退路はふさげないんですね。
「待って! もう一度チャンスをちょうだい!」
私はドアを開けてゴキブリを追いかけ、彼の前に立ちふさがりました。
ゴキブリの目の前に手を差し出すと、彼は触角で手を確認し、寄ってこようとします。
私は緊張に耐えかねて手を引っ込めました。
手を引っ込めるとゴキブリは去ろうとするので、再び手を出して行く手を阻みます。
そんな意味不明のやりとりがしばし続きました。
そして……。
「今なら噛まれても、いいかな……」
ようやく、少しだけ覚悟を決めて、ゴキブリ・オン・ザ・ハンドしました。
ゴキブリは私の手汗をなめています。
皮膚も少しかじっている気がしますが、全然痛くありません。
お……
案外いける……か?
……
……か……
かわいい……
orz
ゴキブリの意外なソフトタッチ。
痛くない噛まれ心地に、萌えてしまいました。
ゴキブリがひっくり返ってもがいている姿や、全速力で走っている姿は見たことあるけど……
生きて自然に存在しているゴキブリってこんな感じなんだなと思いました。
恐怖心が徐々に和らいでいきました。
しかしこれではゴキブリが手にちょっと寄りかかっているだけで、手乗りゴキブリとは言えません。
……あと、噛む力が若干強くなってきたような。
ということで大技いきましょう。
手乗りゴキブリ~!
(組体操の技完成、みたいな)
高々と持ち上げられたことで居心地が悪くなったのか、クロゴキブリはぶーんと滑空して床にぺちょっと落ちました。
そこからはゴキブリがビビりモードに入ってしまい、走ってベッドの下に潜り込んでいきました。
クイックルワイパーで手繰り寄せようとしましたが、残念ながらゴキブリは壁と床の隙間に潜り込んでいきました。
ゴキブリに噛まれた手には、傷一つ付いていませんでした。
今回は秋も深まり涼しかったので、ゴキブリの動きは鈍かったはず。また、こちらが緊張で手汗をかきまくっていたので、ゴキブリは水分だけ舐めたのかも。
ゴキブリの噛む力は非常に強いとの情報もあり、今回痛くなかったからといって、「ゴキブリが噛んでも痛くない」とは結論付けられません。
しかし、今回の手乗りでゴキブリへの恐怖心がちょっと薄れた気がしました。
ゴキブリが衛生面に何の問題もなければ、退治どころか人間に歓迎され、暇なときに手に乗せたり愛でたりされ、癒しの趣味No.1に輝き、書店にゴキブリコーナーができたり、町がゴキブリグッズで溢れたりしたかもしれません。
せっかく家で定期的に見られる大きめの昆虫なのに、堂々と遊べない禁断の昆虫……。出会いがアンラッキーの象徴となってしまう残念な虫……。なんだか唐突に悔しくなりました。
わざわざトラップで呼び寄せたり、虫除けスプレーをして虫捕りに行ったりせずとも、家に勝手に訪れてくれて、手を出せば寄ってくる。手間要らずで存在感バツグン。神出鬼没でミステリアス。臆病と図々しさが混在する神秘。単為生殖可能。
衛生害虫じゃなければファンクラブができたはずです。非常に魅力的な昆虫だったはずです。ああ残念。
温かくて暗くて湿っているからといって、耳に入られるのはマジ勘弁、ですが。
ゴキブリを手に乗せてみて、ゴキブリの可愛さを少し知ってしまった……。
それからしばらく、なぜだか安らぎや幸せのような気持ちで満たされました。世界が変わった気がしました。
絵のことは忘れかけていました。
ゴキブリが魅力的な昆虫であることは確かです。
しかし、もしも手乗りゴキブリをされる際は、ゴキブリの危険性についてよく調べ、考え得るすべてのリスク(食中毒・友達がいなくなる・自分やまわりへの被害・会社にバレてクビになる・家族に絶縁される・小さなお子様への危険・フォロワー様が減る)と、ゴキブリへの好奇心を天秤にかけて考えてから、自己責任でお願いします!
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