2分で読める超短編小説16 『グリーフと灯火のあいだ』
はじめに
この短編小説は僕の書いた原文を元にChatGTPに加筆修正してもらい、さらに僕自身が加筆修正をして完成したものです。文体と作風は村上春樹というプロンプトを入れました。「僕 x ChatGPT x 村上春樹の文体・作風」を楽しんでいただけると嬉しいです。
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『グリーフと灯火のあいだ』
彼女の存在を最初に知ったのは、ある心理学の本を読んでいたときだった。 ポスト・トラウマティック・グロウス、つまり深い喪失や困難を乗り越えた後に得られる内面的な成長についての章に、彼女の事例が紹介されていたのだ。そのとき初めて、PTGという概念にも、そして彼女という存在にも触れた。
名前といくつかのエピソードだけが記されたそのページを閉じた後も、彼女のことが頭から離れなかった。何か目に見えない磁場のようなものが、僕の中で彼女を引き寄せていた。それは地下深くで眠っていた記憶が目覚めるような、あるいは誰かが遠くで僕の名前を呼んでいるような感覚だった。
その夜、僕は夢を見た。夢の中で僕は、どこまでも続く白い廊下を歩いていた。廊下の突き当たりに一枚の扉があって、その向こうから柔らかな光が漏れていた。扉に手をかけた瞬間、目が覚めた。
朝食のトーストを噛みながら、僕はFacebookを開いた。彼女の名前を検索バーに打ち込む。指が勝手に動いているようだった。彼女の顔写真と投稿がすぐに見つかった。それは驚くほど明るく、温かく、生命力に満ちたもので、暗い部屋に差し込む一筋の光のように、確かな存在感を放っていた。
僕は衝動的にメッセージを送った。彼女に話しかけるという行為が、自分にとってどんな意味を持つのかよく分からないままに。「はじめまして」という決まり文句にいくつかの言葉を添えて送信ボタンを押すと、まるでコインを空の井戸に落とすような感じがした。有名な人のようだから返事をもらえる可能性はとても低いだろうし、もし返事が来てもそれがどんな形をとるのかも想像できなかった。
驚いたのは、その返信がほとんど瞬きをする間もなく届いたことだ。短く、無駄のない言葉が並ぶメッセージだったけれど、そこには彼女らしい何かが確かに息づいていた。それは、冷たい風が通り過ぎる瞬間にふと感じる、微かなぬくもりのようなものだった。僕たちはそれから何度かやり取りを続けた。静かで、どこか控えめで、それでいて妙に心に残るやり取りだった。
ある日、突然、彼女からメッセージが届いた。「教育系のオンラインセミナーがあるんです。一緒に参加しませんか?」と。その誘いは、僕を不意打ちのように襲った。
その頃の僕は深いグリーフの中にいて、日々の生活をただやり過ごすことで精一杯だった。心に大きな穴が空いたような状態で、何をする気力も湧かず、特に仕事以外のことにはほとんど関心を向けられなかった。それでも、彼女からの誘いを無下にするのはどこか違う気がした。
セミナー開始まであと一時間というタイミングでの誘いだった。こんな直前に言われても困るな、という思いがないわけではなかったが、予定もなかったし、それ以上に彼女のメッセージに何か特別なものを感じた。結局、思い切って参加することにした。
セミナーは想像以上に賑やかで、講師が教育について熱心に語る場面が続いた。その後のブレイクアウトセッションで少人数のグループに分かれたとき、彼女と同じグループにはならなかったことを知って、僕は少しほっとしたような、肩透かしを食らったような気持ちになった。セッションが終わると、僕はそのまま退出した。
すると間もなく、彼女からメッセージが届いた。「私も抜けました」と。
「せっかくだから少しおしゃべりしませんか?」と、彼女は続けた。
思いがけない展開だった。僕は彼女と直接話をしたことは一度もなかったが、その誘いに抵抗感はなかった。むしろ、何か見えない糸に引かれるように「ぜひ」と返信していた。
それから僕たちは定期的にオンラインで話すようになった。彼女との会話はいつも自然体で、グリーフについて直接話題にすることはほとんどなかったが、彼女との会話には、不思議な特徴があった。言葉の向こう側に、もうひとつの会話が流れているような感覚。僕の抱える痛みをそっと包み込むような優しさがあった。
その時間は、僕にとって特別なものになっていった。言葉が、時には沈黙が、見えない橋を架けるように僕たちの間を行き交った。そしてその橋の上で、僕は少しずつ自分自身を取り戻していったのだ。
そしてある日、ふと気づいた。彼女との会話を通して、僕はもうひとりではなくなっていた。僕の中に空いていた穴は埋まらない。埋まらないと同時に、僕自身が埋めたくないということに。愛おしくさえ感じるその穴の縁には新しいぬくもりが芽生えていた。それは彼女がくれた言葉や、そっと寄り添う沈黙の積み重ねがもたらしたものだった。
僕たちが出会ってからおよそ二年が経った頃だった。ある日のオンラインでの会話の中で、僕は彼女に感謝の気持ちを込めて一曲の歌を歌った。その歌には、「もう大丈夫だ」という静かな確信を忍ばせていた。それは、悲しみというものは乗り越えるべき壁ではなく、むしろ抱きしめて共に歩むべき存在だということを、彼女に、そして自分自身に伝えたかったからだ。
その瞬間が、僕の中で何かを変えた。彼女がその歌を聴いてくれたこと、それが僕にとって、シンガーとしての旅の始まりだったのだと、後になって気づいた。歌い終えた後、心の奥底に小さな灯がともったような気がした。その灯は、僕が進むべき道をそっと照らしていた。その灯は、僕自身の中で小さな灯火となり、消えることのない光を放ち続けている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
❤️ この短編小説シリーズは友人の中川麻里さんの投稿に刺激を受け、背中を押されて誕生しました。中川さんに心から感謝いたします。
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