イングリッシュネス溢れる考古学ロマンドラマ『Detectorists』が最高に良い。
遅ればせながら『Detectorists』のクリスマス・スペシャルを視聴。やっぱり好きだわ、このドラマ。『Detectorists』は2014年からBBCで放送されていた、シットコム・コメディ―・ドラマ。主人公の二人、ランス(トビー・ジョーンズ)とアンディ(マッケンジ―・クルック)はその名の通り、メタル・ディクテターで、マッケンジ―・クルックは、脚本・監督も務めている。
とにかく浪漫なのである。フィクションとは言え、歴史や考古学に明るい人なら、観ていてアドレナリンが上がるだろう。金属探知機が反応し、鳴る瞬間、まだ見ぬお宝を掘る作業、すべてがドキドキなのである。とは言え、ここで描かれているのは、お宝発見だけではない。
金属探鉱の合法性、倫理性、影響に関する議論、そして、考古学・遺産部門と趣味としての金属探鉱の間に対立と協力の長い歴史があることも見落としていない。特に、主人公の一人であるアンディ・ストーンは資格を持った考古学者であり、専門的・学術的な過去の追究とアマチュアの趣味の関係性が、これまでの3シリーズに渡る重要なテーマであることは、一目瞭然だ。このテーマは、2021年のネットフリックス・ドラマ『The Dig』にも、アマチュア考古学者であるバジル・ブラウンとケンブリッジ公認のプロ・考古学者チャールズ・フィリップスの対立・見解の相違が赤裸々に描かれているが、当クリスマス・スペシャルでも、見つかったお宝を大英博物館でお披露目するにあたり、当館の歴史家が壇上でウンチクを語るシーンにランスが目をぐるりと廻し、辟易するシーンがある。
しかし、このドラマでは、ランスとアンディの冒険を通して、考古学とは、すべての人のためのものであり、金属探知は人類の過去と関わるための1つの手段として描かれていることを知ることができる(考古学を通じて私たちは過去へと”タイムトラベル”できるのである)。アンディはS1E2で、「まあ、アマチュアから多くを学ぶことができますよ。私たちは最も情熱的な、いわば平民です」と語っている。
そしてこのドラマの溢れるイングリッシュネスが心地よい。撮影場所サフォーク州のランドスケープもそうだが、分かりやすいところでいえば、クラブのミーティングで会長のラッセルの妻シーラが丁寧に入れる紅茶、そして、作業の後の「パブ?」というセリフ。その上ところどころに散りばめられたおタクなイギリス人的な言動、例えば、ケチャップは冷蔵庫か戸棚収納か、とか、スキップ(建築現場などで出た廃棄物を入れる大型容器)を見逃したくないからという理由で大英博物館でのコンファレンスを欠席するとか、子供のアート作品は飾っておいても3週間まで(イングリッシュ・ドライネス)など、とにかくぷぷっ!と笑えるような描写が細かい。
アマチュア探鉱家に対するプロの考古学者という描き方、ローマ時代とアングロサクソン時代という文脈と時代の選択。『Detectorists』は、土とそれを掘る「普通の人々」に根ざした、精神的イギリスらしさを祝っている。『The Dig』と同様に、イングランドの歴史・物語とイングリッシュネスとの関係は、紀元後約千年の遺物を通して遭遇するのだ。そして、大地に宿り、失われた財宝や墓の発見に影響を与える幽霊や精霊が媒介する過去を描いている点(作業中に”ゴオォォ”という地響きのような音が聞こえる)もこのドラマのイギリスらしさなのである。
最後に、大英博物館での発掘したお宝説明会で明らかにされた、驚愕の事実とは...?このエンディングのオチが非常にイギリス的(=このドラマで何度も繰り返されているパンチライン、お宝は思ったより近くに眠っている)なのである。
単なる考古学ロマンでもお宝発見ドラマでもない。『The Dig(時の面影)』を観るべき5つの理由。|近藤麻美 ロンドン在住フリーランスライター|note
【ロンドン発】映画『時の面影』。出土品を見に、大英博物館へ。 – STORY [ストーリィ] オフィシャルサイト (storyweb.jp)