グラス・アニマルズの「Heat Waves」がSpotifyのグローバル・チャートで英バンド史上初の1位を獲得。成功した理由とその背景。
すごい、こういう事もあるのね。しかも曲を作った本人すら売れることを確信していなかったというから、これは驚き。
英ガーディアン紙で見つけた記事。グラス・アニマルズがSpotifyのグローバル・チャートで英バンド史上初の1位を獲得した理由とその背景。興味があったので訳してみた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ソロ・アーティストがチャートを独占する昨今、バンドが上位に食い込んでいくのは至難の業とも思えるが、グラス・アニマルズはそれを意図せずやってのけたようだ。先日、英オックスフォード出身の4人組のシンセ・ポップ「Heat Waves」がSpotifyのグローバル・チャートで1位を獲得したのだ。このチャートで英国のバンドが1位に輝くのは史上初の快挙となる。
1日に426万回再生されているという同曲だが、昨年だけでも、アメリカで4位、オーストラリアで1位、世界中で10億回以上ストリーミングされたという。
ロックダウン中、東ロンドンのハックニーで撮影されたミュージック・ビデオ。最後の空のコンサートホールはHackney Earth。
過去に大ヒットがあったわけでもないバンドがこのような快挙を遂げるというのも稀なのだが、実はこのシングルがリリースされたのは2020年6月。当初はUKトップ40、USビルボード・ホット100にも入ることができなかったのだが、その後徐々にゆっくりとチャートを上昇し、現在ではUK4位、オーストラリア1位、US3位につけている。しかも、アメリカではリリースからトップ5まで上昇するのに最も長い時間を費やしたシングルとして記録を更新した。
とは言っても、バンドは困惑しているわけではない。2014年の「Gooey」はチャートに食い込むことは出来なかったが、アメリカでプラチナムを獲得していたし、2016年のアルバム『 How to Be a Human Being』はマーキュリー・プライズにノミネートされている。
フロントマンかつソングライターでもあるデイヴ・ベイリーが「Heat Waves」を書いたのは2019年春、一人でロンドンのレコーディング・スタジオにいた時だった。作業が終わりに近づくころ、ふと振り返るとそこにはジョニー・デップが。じっと彼のことを見ていたと言う。残念ながらジョニーは終始無言で、「何のリアクションもなかったよ。まるで誰か屁でもこいたのか、と言わんばかりだった。奇妙な空間があって、何となく無視されたというか。もちろんお褒めの言葉もなかった」とベイリーは振り返る。事実彼自身、この曲を彼自らがプレイすることに違和感を感じていた。つまり、誰かほかの人に譲るべき曲だったのではないかと。大ヒットとなった今でも、誰かほかの人がボーカルをとってもらった方が良かったのではないかと思っている。というのも、曲のテーマがパーソナル過ぎて、自分で歌うと泣けてくるから。ビタースウィートでノスタルジックなコード進行が彼の亡くなった友人を思い出させてしまうのだ。そんなこともあって、ベイリーは歌詞を少し曖昧にして、もっと多くの人の共感が得られるよう“恋人関係”につながるようにした。
バンドはその頃、大変な時期からちょうど抜け出そうとしているところだった。実は、前年にドラマ―のジョー・シーワードが自転車でトラックと衝突し、頭部を激しく損傷。再び話したり、歩いたりすることが可能になるのかが分からない時期だったのだ。幸運にもシーワードが回復し、まさに3枚目のアルバム『 Dreamland 』の制作中、パンデミックが襲った。「ずいぶん落ち込んだよ」とベイリーは振り返る。「みんな昔の音楽ばかり聴いて、そこに安心を求めていた。世間は新しい音楽を必要としていないんじゃないかって感じたんだ。部屋着のままで一歩も出れず、2週間もふさぎ込んでいた。マネージャーからとにかくレコードを出せ。このままじゃ負け犬同然だ。曲を書けといわれたんだ」。
とは言え、地味にこつこつとプロモートする以外はーー東ロンドン、ハックニーの道端でこの曲を即興で演奏中、警察にやんわりと注意されたーー「Heat Waves」のヒットの秘訣というものは全くなかった。彼らのレコードレーベル、ポリドールのマーケティング・マネージャー、ヘレン・フレミングはオーディエンスとの関わり方が成功のカギだと語る。「ファンが作成したコンテンツが音楽を広める、これがますます常識となっています」。 TikTokユーザーが「Heat Waves」を、大事な人を失ったことを表現するビデオのサウンドトラックとして使用したのも大きく貢献した。その後は、Fifa 21 のサウンドトラックやビデオゲームMinecraft、テレビやラジオのプロモーションも相まって「ブレイクする準備が十分にできていた」のだそうだ。
ソーシャルメディアやゲーム、TV、ラジオなどの貢献を肯定しつつも、「Heat Waves」が人気を博したのには、グラス・アニマルズが長期にわたるアメリカツアーを行い、地道にファンベースを獲得していったことがあったからとフレミングは続ける。オーストラリアも例にもれず重要だ。昨年、同国で最も影響力のあるラジオ局Triple Jの年間ヒットチャートで1位に輝くと、ベイリーは、公言した通り、オーストラリアの国を形どった(初!)タトゥーを臀部に入れたーーー正直、1位になるとは思ってなかったようだ(笑)。
現在、ポップやエレクトロ、ラップが主な人気を占めている中、バンドがシングルでチャートを獲得するというのは非常に稀な事例だと英ローリング・ストーン紙のエディター、ハナ・ユアンズは語る。しかしながら、グラス・アニマルズが成功した起因はじつはそこにあったともいえる。「彼らの音楽はいわゆるギター・ミュージックもしくは ‘バンド’ミュージックとは多少違っています。Spotify-coreと呼ばれる、つまりエレクトロニック、キャッチ―、ミッド・テンポ、控えめで物思いにふけるサウンドでありながら、ムード的にはあくまでもニュートラルです。このような無害かつ不快感を与えないサウンドはプレイリストに入りやすいのです」。
現在バンドは来月に控えたブリット・アワード(ソング・オブ・ザ・イヤーとベスト・ロック・アクトにノミネート)と、グラミー賞(ベスト・ニュー・アーティストにノミネート)を待っているところだが、ベイリーは、ソロプロジェクトとして Jae5(ラッパー J Hus のプロデューサーとして有名)と共作しているほか、現段階では名前は明かせないが女性アーティスト(ベイリーは、自分たちの世代で大好きなソングライターの一人と述べている)とのコラボレーションを同時進行で行っている。ベイリーは、「コラボレーションは、学ぶためにはベストの方法だよ。他のアーティストの作品を見てトリックを盗むのさ」と語るが、「Heat Waves」が大成功した今、(逆に盗まれないように)ガードを固くしておく必要があるかもしれない。
と記事は締めくくられている。
パンデミック前に書かれた曲にも関わらず、その歌詞が、コロナで愛する人を失った、もしくは会いたい人に会えない、行きたいところにも行けない、哀しみ、モヤモヤ、ジレンマを代弁し、キャッチ―でペンシヴなシンセポップが人々の心に心地よく入っていくという思いがけず時代を象徴するような作品に仕上がったのが、功を奏したというか。ベイリー本人は現在でも、他のアーティストのヴォーカルの方が良い作品に仕上がるのではないかと感じているらしいが、これだけヒットしたことにより、もしかすると、すぐにでもカバーバージョンが出るかもしれない。それを聴くのも楽しみだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?