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#4 読書レビュー「夏物語」ー反出生主義について
#夏物語
#川上未映子 さん
いきなりですが、私は反出生主義者です。
私は絶対に産まれてきたくなかったから。
(極めて個人的な自分のみに当てはめている思想なだけで、他者に共感を求めたり、子を持つ選択肢をしている方や世の中の子ども達の存在を否定したりしている訳では決してないです。実母と我が子には打ち明けているけれど。そして認めても理解されてもいないけれど笑)
中学生の頃くらいにこの気持ちをはっきりと自覚してから「今すぐこの世界から消えたい」という気持ちが定期的に押し寄せる。それはもう毎月の生理のように。
それなのに、恋愛・結婚で舞い上がった愚かな私は、子をもうけることは自身の人生設計では既定路線だと一時的に思ってしまった。
そして、我が子が産まれて子育てをしていくうちに、反出生主義的な気持ちがまた年々膨らんでいる。我が子が大切で素晴らしい存在だと感じれば感じるほどに。
なぜなら、日本が、世界が、地球が、どんどん悪くなっているとしか思えないから。私にもっと先見の明があったら、こんな時代に子どもを持つという選択を一時の気の迷いでしなくて済んだのに。
我が子には「こんな世の中に産んでしまってごめんね」といつも思ってしまう。
そして、幸い私とは真逆の性格の我が子は「生まれてきて最高!」と今現在思っているらしい。どうか一生そのままの感覚でいて。この世界の悲惨な面に気付かないまま・対峙することのないままでいて、と必死で願っている。同時に、「大きくなって子を持つか持たないかは、自分の希望ではなく世の中の情勢で決めた方がいいとお母さんは思う。真に我が子の幸せを願うなら」とは伝えている。
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以下、最高にネタバレしているので、本書をこれから読みたいと思われる方は目を通さないようお気を付けください。
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相思相愛の相手がいるのに、事実婚にも満たない「選択的に未婚の母になる」という決断は、主人公の夏子もお相手の逢沢さんも生まれてくる命に全然責任を持っていないと感じた。産む・産まないは個人の自由の範疇だけれど、惹かれあっている二人が結婚せずに子供を作って、今後の家族のあり方はその時その時に考えていこうって...私の古い?考え方では受け入れ難かった。
結果的に離婚とか、結婚前に妊娠してしまって逃げられたとかなら、仕方ないと思うけれど。
本書の中で明確な描写はなかったけれど、夏子は性行為だけではなく、男性と一つ屋根の下で生活することすらも好まないと自覚するに至ったのかな?もしそうであるなら、そこは我慢しないと生まれてくる子供に説明がつかないのでは。
自身がAIDで生まれて思い悩んできたお相手の逢沢さんが、ひとまずそんな家族の在り方に承諾したのも謎。
それはリベラル主義ではなく、身勝手で浅はかな大人じゃないかな?と思った。二人の関係性であれば、産まれてくる子の幸せについて合理的に考えれば、「ちゃんと籍を入れて家族みんなで最初から一緒に暮らす」一択では...
意外と二人とも無責任で想像力が足りない人物だったのか?
確かに主人公の夏子は結構独りよがりで向こう見ずな人物ではあったし、逢沢さんも世間知らずで恵まれた育ちな男性だったしなぁ。
そんな訳で、フェミニストとしてはラストまでは共感の嵐、子を持つ親としてはラストだけは解せない!そんな作品でした。あと主人公の姉の巻子は、決して劣悪な環境から抜け出すことのできない少し頭脳が弱い印象を受ける強烈なキャラクターだけど、全体を通して人間的に優しいお姉さんだなと思った。
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反出生主義を扱った本ではあるけれど、著者は出生主義者なのかなきっと。第二部に入ってからそれに気付き。
反出生主義をどれだけ掘り下げてくださるのかを本書には勝手に期待して読み進めていたので、少し肩透かしをくらった気分でした。
次は、善百合子や仙川さんや紺野さん側の人物が主人公で、その思想を突き詰めた方々がハッピーエンドになる物語を読んでみたい。いや、太宰治の「人間失格」みたいなラストになってもそれはそれでいいかもしれない。この物語の中でとりわけ、反出生主義的な登場人物の発言こそ、ひときわ異彩を放っていたと感じた。
私は、リアルでは話せないことを物語の世界で疑似体験できるところが、読書の醍醐味の一つだと思っている。
相当重たい題材になることは間違いないので、川上未映子さんみたいな女性ならではの機微を巧みに描写できる方に「反出生主義者の女性を主人公とした小説」を是非書ききってみて欲しいです。
現実世界では今のところ誰ともこんな話をできる訳ない、口が裂けても言えない風潮がまだまだあるので。
どの立場で!?というくらい好き勝手に書いてしまいましたが、結論としては、文章も内容もとても好きな部類の文学でした。
ただ、関西人ではない方だと、関西弁の描写が読みづらくて頭に入ってきにくくて仕方ないかも。
そして、テレビでよく表現される関西人もしかり、こんなにコテコテな喋り方をするのはみんながみんな当たり前ではないです。ステレオタイプすぎます。(一関西人として断じておきます。笑)
ちなみに表紙絵は、うつむき加減で前髪を結っている女の子、または後ろむきでポニーテールにしようとしている女の子だそうだけど...何度見てもどちらか分からないような不思議な感覚をおぼえる絵だなと。読みかけの本を閉じるたび、開くたびにいつも数秒見つめてしまっていました。
こちらの1冊を読むのに2ヶ月もかかってしまった。仕事と読書の両立、多読とか1年間で何冊読めた!なんて生活はまだまだ無理だなぁ。そんな生活は老後のお楽しみかな。
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