緊急事態発生
6週間に1回、脳神経外科を受診するために実家に義母を迎えに行き、我が家に泊まった翌日受診して実家に送っていく。週一回金曜日のデイサービスに通い、畑をいじり、地域包括支援センターの方が時々様子を見に来てくれる。夫と姉弟は安否確認にまめに電話をする。この流れが定着し、認知症の進行もそれほど気にならず、まあまあ平穏な日が続いていた。
土曜日の午前中、夫が義母に電話をしたが出ない。「また出ない。あれほどいつも持って歩けって言っているのに。あとでまた電話するわ」
何度言っても携帯不携帯。
「ちょっと畑やるだけだし」
「畑で倒れたらどうするの!」
「なんも、ちょっとだもの。あとは家にいるし」
まぁ「はい分かりました」とは絶対言わないんだな。
午後に私の携帯に包括支援センターの方から電話があり「昨日、デイサービスの方が義母さんが家の前で転んで出来た青痣見て、転んだこと家族の方知ってるかな、って言ってたんです。お義母さんから聞いていました?」
はいはい、最近よくコケて、先週は大きく転んで痣になったと聞いていました、と返答。
「ご存じだったら良かったです。やっぱり足弱くなっていますよね。さっきお義母さんに様子聞こうと電話しても出なかったのでお嫁さんに電話しました」
いつも気にかけていただいてありがとうございますと電話を終えた。
ん?午前中夫がかけても出ない、午後包括支援センターの方がかけても出ない。足痛くて出かけられないし、いくら不携帯でもおかしくないか?
私も電話をしてみる。出ない。
嫌な予感がして、包括支援センターの方に折り返し電話をする。
「午前中から電話に出ないもので、私達もこれから様子見に行きますが、ちょっと見に行ってもらえませんか?」
包括の方は私の嫌な予感を察して、すぐ向かってくれることになった。私と夫も実家に向かった。
程なく包括の方から「ベッド脇の床に寝ていました。意識はあり会話もできますが自力で立てない。顔色も悪い。本人は必要無いって言っていますが、救急搬送要請していいですか?」お願いします、ということで搬送先が決まり次第再度連絡をいただくことにし、実家方面へと急いだ。
次に私の携帯に見知らぬ番号から電話。「◯◯消防署です。これから◯◯病院に搬送します。」ということで、搬送先の病院に向かう。向かいながら義姉にも連絡し、病院で落ち合うことになった。
するとまた私の携帯に見知らぬ番号から着信。「○○警察署の者です。」
え?なぜここで警察官登場?
「玄関入ってすぐのガラス窓が割れ、家の中が散乱していたので、消防から連絡を受けて来ました」
そうか、消防の方は強盗とかそういう可能性があると見たわけだ。
警察官「本人に聞いても言うことが二転三転するので要領を得ないんですが、
現場を確認して包括の方と話した結果、事件性は無いということで、これで引き上げます」
私「お騒がせしました。ありがとうございました」
警察官「ところでこれから救急搬送されるので、家の施錠をします。鍵はどこですか?本人に聞いても要領を得ないので」
義母の説明が要領を得ない。確かに鍵の場所は分かりづらい。
私「居間を出てですね・・・」
夫「何も盗まれるものないから鍵かけなくてもいいって言え!」運転中の夫がイライラと喚く。
私「そういうわけにはいかないでしょうが!」と夫を一喝し、警察官への説明を続ける。無事鍵を見つけてくれて施錠し、包括の方に預けてくれた。
この調子だと救急車より早く病院に着きそうだ。
案の定、病院で救急車の到着を待つ。
義姉からLINE。「無料の駐車場ってどこ?」
知らんわ!母親が救急搬送されている時に無料とか探すな!
そうして救急車は到着。処置室に運ばれ点滴やら検査やらが始まる。
包括の方は、救急車の後を追って搬送先の病院まで来てくれて、この時すでに19時。土曜日で勤務時間外なのに、ここまでいろいろやってもらって本当に感謝しかない。
包括の方が義母から聞いた話をまとめると、金曜日の夕方にデイサービスの車で送られて帰宅。玄関の鉢を片付けようとしたらバランスを崩して転んてガラスにぶつかり割れた。立ち上がれず動けない。しかし、仏様にご飯をあげるために炊飯器のスイッチを入れなければいけない。でも歩けない。
そこで仰向けで廊下を移動し台所に向かった。背泳ぎですな。進行方向が見えないので、あちこちに頭や体をぶつけた。それでも台所に辿り着き炊飯器のスイッチ入れた。
あぁトイレに行きたい、と思った。でも立ち上がれない。
そうして仰向けのままちょっと眠ったりしているうちに夜が明けた。
やっぱり立ち上がれないので、ベッドで寝ようと思い、そこからまた背泳ぎを始めた。あちこちにぶつかりながら移動した。ベッドに辿り着いたけれど、ベッドに上がる力が無く、そのままベッド脇で寝ていたところを発見された。
携帯が何回も鳴っていたけど、携帯は居間にあるから取りに行けないから出られなかった。
義母が背泳ぎで移動した距離は結構なもので、居間に携帯取りに行く距離の何倍にもなる。
なぜ助けを求めるために携帯を取りにいかなかったのか?
なぜその状態で米を炊きに行ったのか?
いろいろツッコミどころがある。
そうなんだ、軽度とはいえ認知症だから。優先順位がわからなくなっちゃうんだなぁ。それは「どうして○○しなかったの!」と叱責したところで病気なんだよなぁ。
包括の方にお礼を述べたところ、
「お嫁さん、この後いろいろ大変だと思うけど、何でも自分でやったらダメだからね。」と涙が出るような言葉を残してお帰りになった。
処置が終わり車椅子に乗せられた義母は、点滴ですっかり元気になって、あーだったこーだったと武勇伝のように笑顔で喋りっぱなし。おいおい。
夫と共に医師の説明を聞く。
「骨折はしていませんし、意識もしっかりしていますので、今日はお帰りになって結構です。肝臓の数値がちょっと高いので、かかりつけ医に相談してください。」
ちょっとちょっと、自力で歩けなくて車椅子で、おむつした状態で肝臓の数値が高いのにお泊まりさせてくれないの?今晩一晩くらい泊めてくれないの?
泊めてくれないんです。
さて、実家に一人で戻すことは出来ないし、義姉も「ごめんね、よろしく」と帰ってしまった。我が家に連れ帰ることになる。
一人では車椅子から我が家の車に移動することも出来ない。一人でトイレにも行けないわけでしょ。
どうする?え?どうするの?暗澹たる気持ちで自宅に向かった。