ヴィパッサナー瞑想合宿ポンコツ紀 下
さて、瞑想未経験の無職が果敢に挑む10日間のヴィパッサナー瞑想合宿。ついに「おしゃべり」が解禁されます。
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ヴィパッサナー編 続き
Day10.30分間の神演出
4時起床。朝の自習時間もホールへ。昨日までのストレスか、白髪が一気に増えています。全頭白髪を目指しハイライトを入れていますが、年内は不要ではないかというほどの増殖でした。
そして「聖なる沈黙」つまりおしゃべり禁止は、この日の朝が終わったら解禁となります。私、勘違いしていました。最終日である出発日までしゃべれないと思っていました。瞑想には苦戦しながらも、たまに別のことを考えながらも真面目に取り組み、そして淡々と、おしゃべりが解禁になりました。
女子たち、しゃべるね!
でもまだ修行は続くので、むしろもう何時間もここにいられないので、自習時間もマストのグループ瞑想も、より一層集中して取り組みました。地獄のテープも「それはもう、そういうものだから」とわかっており、昨日ほどの耐え難い苦痛もなく、指導、最後の講話を聞き、
最後の夜の瞑想、テープからは何も流れませんでした。
この30分は、本当に感動してしびれました。もうこの頃には男女とも、新しい生徒もある程度は坐れるようになっていて、衣擦れの音も一切しない。誰かが咳払いをしても、悪い共鳴は起こらない。完全と呼んでいいほどの静寂で、もう指導することはないよと、ゴエンカおじに託されたんだなと、鳥肌が立つほど感動しました。
「それではお休みください」
先生の言葉もいつにも増して簡潔です。
でも休みません、女子たち。ダイニングが解放されているので、おしゃべりしたい人はそこでコミュニケーションを。休みたい人は自由に就寝を。「ここで何日も一緒に歯磨きしたよね」とエモくなったりもしました。コース中は一切のコミュニケーションをとらなくても、一緒にした何かはお互いに認識しています。東京に戻ったら、星を見ながら歯を磨くことなんてないでしょう。私は誘われてダイニングへ顔を出しましたが、眠すぎて途中で自室へ戻ったような?ここで寝る夜も、これが最後です。
Day11.シスターフッド
最終日の時間割はスポットです。4時起床。自習時間だった(つまり寝坊しても深刻な問題にはならかなった)4時半からの瞑想はマストのグループ瞑想になり、「誰一人置いていかねえ」というシスターフッドが発動。誰かが廊下の電気を点けてくれたみたいでした。私は最後のシャワーを浴び、瞑想ホールへ。ヴィパッサナーの指導がある程度佳境を過ぎると、メッター・バーバナーという新しい瞑想法を授けてくれます。これは難しいものでなく、祈り。「生きとし生けるものが幸せでありますように」と祈ります。
最後のメッターを皆で坐り、ここで行われるすべての瞑想修行が終了です。
そして下山
朝食をいただき、バタバタと自室の撤収、設備の大掃除、そして貴重品とスマホの返却。もうすっかり気が合う人もいたりなんかして、「どうしようスマホが怖い、電源を入れる前に割ろうか」と話しながら、俗世へのスイッチを押しました。止まない通知に眩暈がしつつ、パートナーと実家族に変わりがないことがわかり、大きな安堵感もありました。
送迎バスの出発までおしゃべりし、それぞれのバックボーンを聞いたり、SNSを交換したり、写真を撮ったり。あなたを幸せを祈り、下山しました。
さてここからは後記です。
副次効果としての瞑想コース
デジタルデトックス
「ヴィパッサナー瞑想怖くて行きたくない」の正体はこれかな?と思っていたのですが、実際には全く影響ありませんでした。もうスマホという物質の端末を預けてしまえば、一切気になりません。中毒症状のようなものも出ませんでした。ただやっぱり、ひとつに物理的に切り離されること、そして「エマージェンシーには連絡が来る/してもらえる」この安心感がそろってのことです。日本のリトリート施設でも、この2点がセットになったスマホ断食コースがあればよいのになあと思いました。探せばあるのかな。
フィジカルデトックス
コース中は菜食です。乳製品も牛乳とバターだけ。豆乳も用意され、自分で選んだり選ばなかったりで厳格なヴィーガンとして過ごすこともできます。調味料も一通りあり、セルフでカスタムできるようになっています。お料理はどれも本当においしかった。動物性食品を使わずとも、どうしてこんな味が出せるのだろう?と毎食不思議でした。初日は違和感のあった汁物もすっかり慣れて、潔く深い味わいに、毎回居住まいが正される想いでした。
お献立としてだけでなく、コース中の規律としてもアルコールは禁止。でもインスタントコーヒーはありました。意外!カフェインはいいんだ。他にもショウガやネギは多く使われていたりと、禅の精進料理とも異なりました。私はもともとひどいジャンクではないので、劇的な変化はありませんでしたが、帰ったら体重が減ってました。
7月の健診:50.2kg
出発前:49.2kg
下山直後:48.3kg
下山3日後:47.8kg
中年のナチュラル体重減ってすごいんだぜ。仮に、普段肉食ジャンクまみれの人だったら、髪や肌にも大きな変化があるんだと思います。(普段肉食ジャンクまみれの人は、ヴィパッサナー瞑想にたどり着かないのでは?という真理もありますけど)
本当に、レシピ本出してくれないかな。『ダンマーディッチャの瞑想レシピ』どうでしょう!
グッドバイブレーション
最初に上総一ノ宮駅で話しかけてくれた人が、実は同じ高校の先輩(しかも在校時期も1年だけかぶってる)だったことがわかり、「永い縁になるだろうな」と思うような出来事も。ヴィパッサナーで知り合った人は、前からの縁だそうです。すぐに感じが良いと思った人は前から共鳴していたし、一方で話してないのになんかむかつく、と感じた人は、例えば戦争の敵対国で、ここで仲直りするために巡り合ったりするんだそう。そういうスピリチュアルな説も、「まあ、そうやろね」と素直に思えるバイブレーションがありました。同じく初日に「大丈夫大丈夫できるできる」と何度も語りかけてくれた人はインド在住で、いつか彼女のいるアシュラムへ訪れるという楽しみもできました。
雑記、本音、いろいろ
持ち物凡ミスその1.デンタルフロス
動物性食品を一切使わないということは、出汁の役割としてのきのこが多用されるだろうなと頭ではわかっていたのに、デンタルフロスを忘れました。えのき、めっちゃ出ます。だいたいのお料理がえのがかってますので、フロス必須です。
持ち物凡ミスその2.瞑想用ウェア
胡坐の予習すらしてこなかったものですから、「瞑想用に」と持ち込んだジョガパンが血流的にあかんことが初日でわかり、急所パジャマのおズボンで代用しました。他の参加者がヨガパンツや瞑想用のサルエルで決めている中、無課金の最強キャラみたいになっていたと思います。コースの参加を考えている人は、1時間坐ってみて具合の良いウェアを用意しましょう。
持ち物凡ミスその3.リラックスグッズ
修行だもんな、と思い、癒しグッズを一切持ち込まなかったのですが、前述の通りアディッターナは相当の集中力を要するので、つまりその時間に集中できる自分でいるために、毎日ちゃんと癒したほうがいいです。身体を痛めつけることがコースの目的ではないですからね。香り物はルール上、不可なのですが、ツボ押し棒とか無香料のオイルなどは全然持ち込んで、常に最上のコンディションでいることのほうが、長い目で見たらよかったんだよね、と今は後悔しています。
そしてタトゥーを入れていてよかった!と心から思えました。リラックスして自分のアイデンティティを戻せるものが、自分の身体に刻まれているのが、私にとっては救いになりました。こんなところも無課金の最強キャラ。どういうことなの、本当に・・。
すべての森羅万象が起こる場所
4時起床。星空も月も、ありえないくらいきれい。その日の早朝の天気で洗濯しようかを決める。ある朝には一面霧で「それってどんな?」と困惑したり。雷は雷でなく閃光と雷鳴で、本当に轟く。雨はさっと降って、風も一瞬だけ強く吹く。虹は出なかったけど、今までここに来た人のバイブレーションが全部残っているんだなと思える場所でもありました。
Q.先生ってどんな人なんですか?
A.目がやべえの人です。
コース中何度か、古い生徒と新しい生徒に分かれ、先生が様子をうかがい、そのあと数分、ダンマシートの近くで一緒に坐る時間があります。このときは目を合わせていいし、もちろんしゃべっていい。(その他パーソナルな質問時間もとってくれますけどね)黒目の深みがどこまでかわからなくて、でも澄んでる。白目はFFFFFくらい純白で、どれだけアイエステに課金してもこうはならないだろうという、本当に特別な目の人でした。
「少し一緒に坐りましょう」
先生がこうおっしゃると、「坐る坐るぅ!」と思えたものです(バカかよ)
でも「一緒に坐りましょう」って、すごく良くないですか?それともグループ瞑想をしたことがある人だけの、高まりでしょうか。私はこの「一緒に坐りましょう」がすごく気に入りました。
実際に解脱はできたのか?
たった10日間のコースでは「解脱」は無理です。私は正直、少しのサンカーラ(かたまり)も出てきませんでした。何かが自分から溶け出し、滅されていく感覚は程遠く。世界中に知り合いができ、ちょっと痩せて姿勢が良くなって帰ってきた。それだけです。
ただ、「ヴィパッサナー瞑想怖くて行きたくない」の正体がスマホ断食や情報の遮断、自分の存在の世間からの消滅とかではないな?とすぐにわかり、なんだろうなんだろうと考え、特別に不安になったある夜にいろんな妄想が駆け巡りました。
エマージェンシーの連絡先をパートナーにしたけど、その本人になにかあったら、誰か連絡してくれるだろうか。なにかあったらどうしよう。この人にもあの人にも、状況を説明しておけばよかった。
姉にはここの電話番号を教えてたけど、姉本人に不慮があり、義兄も私に連絡がとれなくて、孤独になった甥が独りで泣いていたらどうしよう。そんなの甥の心の傷になってしまう。
「コースを終えて下山したとき、親愛の誰かがすでに、荼毘に付していたら」これが私の恐怖の根源でした。(どうしてこんな思考になったというんだ・・)人の死をずっと嘆き悲しみ続け、平静さを失うことは、アニッチャー、すなわち無常を正しく理解していません。私はこのコースを「ヴィパッサナー瞑想を取り入れる人生の、最初の厳しい10日間」と捉えています。そして、取り入れてみようとも思っています。
世界各国の言語に囲まれ、参加者それぞれにバックボーンがあり、多様な人生観の同期と共に過ごした10日間。まるで海外旅行のようでした。この記事を「紀行」としたのは、東京へ戻る電車の中で「海外旅行から帰ってきたみたいだ」と感じていたからです。とにもかくにもポンコツは無事に帰ってきました。不思議で壮大な現象も、悟りも解脱も見えなかったけど、こんな半端な心持ちで参加して、こんな感じで帰ってきましたよという、完全なるノンフィクションです。今の私なら、あらゆる人へこう言うでしょう。
「ヴィパッサナー瞑想、よかったよ。行ってきなよ!」
この記事は広く読んでほしいため、ダンマーディッチャと同じくドネーションスタイルにしてみました。もし良いね!と思ってくださいましたら、ぜひサポートをよろしくお願いします。