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「育業」という言葉に違和感

「育業」とは東京都が提唱した「育児休業」の愛称です。

東京都は、育児は「休み」ではなく「大切な仕事」と考える愛称「育業」の理念を浸透させ、多様な主体と連携して、育業を社会全体で応援する気運醸成に取り組んでいます。

(出典:「「育業」応援プロジェクト募集について」東京都)


しかし、私は働く母親として「育業」という言葉に違和感を覚えます。

「育休」では取得しなくて、「育業」なら取得するのでしょうか。それはなぜでしょうか。

その理由を考えてみました。



育休を取得したい人は89%もいるのに

まず、世の男性は「男性育休」についてどう考えているのでしょうか。

エン・ジャパンが2023年に実施したアンケート調査を見てみました。
「もしこれから子どもが生まれるとしたら、育休取得したいか?」という問いには、89%もの方が「YES」と回答しています。

もしこれからお子さんが生まれるとしたら、育休を取得したいと思いますか?(エン・ジャパン)


しかし、実際に取得した人は何%かというと、たった8%です。

しかも、そんなわずかな育休取得者のうち、74%が1か月未満。なんなら、1~5日未満が最多(43%)なのです。


育休を取得した期間を教えてください(エン・ジャパン)


なぜ育休を取得したいと考えているのに、実際には取得しないのか。

その理由を問うと、一番多かったのが「育休を取得しづらい雰囲気がある」(61%)でした。2位の「職場職場が人手不足」(54%)という回答も見逃せません。

男性育休の取得率が低い理由は何だと思いますか?(複数回答可)(エン・ジャパン)


これは、育休取得日数が短い背景にも繋がっているように思えます。

つまり、「人手不足な中、(取っても取らなくても良い)育休を取得することに抵抗を感じる」ため、育休を取得しない、あるいは取得しても短期間で終わるのだと推測されます。

ここに、私の違和感があるのです。

育休取得をしないのは「取得する側」ではなく「取得させる側(環境)」に問題があるのに、むりやり「育業」という愛称に変えて、さも「取得する側」の問題のようにすり替えられている気がしてならないのです。


「育業」を推進する東京都のWebサイトをご覧ください。ここに出てくるのはみな、これから子育てをする年代の男性たち

ちがうんだって。その人たちの9割は育休とりたいって思ってるんだって。訴求すべきなのは、育休を取りづらくしている、(日本の管理職の88%を占める*1)おじさまたちなんだって。

*1 課長相当以上の女性管理職がいる企業割合は約53%で、管理職に占める女性割合は12%

(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構)



「育業」がなぜ「取得しづらい雰囲気」を打ち破るのか

よしんば「育業」という言葉が男性の育休取得を促進するとして、その理由はなんでしょう。

男性が育休を取得しない理由第1位である、「取得しづらい雰囲気」。これを打ち破る効力が「育業」にあるのでしょうか。

東京都のPR動画に、こんな一節がありました。

育児は「休み」じゃない、大切なしごと

(出典:「育業」東京都)


このフレーズから見えるのは、「しごと」は良くて「やすみ」は悪い、という価値観です。

「育児休業」は「育業」であって、休んでるわけじゃない、「育児」という仕事をしている訳なのですよ。だから、取得しづらい雰囲気はあるけど、仕事ですからね。


これが、世のおじさま方を納得させる論法なのです。


私は、この価値観に息苦しさを感じます。
介護休業は、「介護」という仕事をしているからOK? じゃあ、病気は? 例えば、メンタルに起因する休業は、「休暇」だからダメですか?



「取得しづらい雰囲気」は、人員が足りない中、一歩も踏み外せないギリギリの仕事をしている環境で醸成されます。そういう職場は、疲れる。みんな休みたいと思っているけど、休めない。

これでは、育休や時短勤務、子の看護休暇を取得する社員に対し「育児を盾にラクをしている」という思考になってしまっても仕方がないのではないでしょうか。


私の考える「育休取得」促進

私は常日頃から、「休みたい人が休める」「働く時間は自分で決める」社会になればいいなぁと感じています。

それは、私の男性の同僚と、JTC勤務の夫とを比べて感じるフルフレックス制度の利点からです。

私はフルフレックス(勤務開始・終了時間を自分で決める)、コアタイムなしの会社で働いています。
男親であっても、子どもの試合や三者面談に参加したり、家族の誕生日に休暇を取るのが当たり前です。

かたやJTC勤務の夫は、もちろん子の誕生日で休みなんかとりませんし、2017年度も2021年度も育休は取得しませんでした(退院日だけは休んでくれました、これが該当するって言うならブチ切れます笑)。

これは、「だれでも休んでもいいよ」という雰囲気の有無に左右されるからだと思います。
「育児」だけに限らず、介護や家族の問題、自分の趣味、なんでも良いから、必要な時に仕事以外の時間をとれること。

「しごと」も良いし「やすみ」も良い、という価値観です。

という訳で、育休取得を促進するためには、まずは全社員が月1回は休みを取ることからはじめてみてはいかがでしょうか。なんてね。


ちなみに、「育児」は育休後も続くからね

「育業=育児をすること=仕事」と解釈するならば、育児は、親の手が離れるまで続きます。

肌感覚としては、中学校に進学する頃まででしょうか。
その間、子の病欠、登校渋り、家庭学習のケアは、誰がやるんでしょうね?

「しごと」と言うなら、本業(会社の仕事)と育児のリソース配分をする必要があります。それは父親も母親も、です。

現状、母親の方が半ば理不尽に、一方的に育児にリソースを投下しています。「しごと」なら、「妻にやってもらえばいいや」と思考停止するのではなく、同時並行で、結果にフルコミットしてもらいたいですね(半ば愚痴)。

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