変わっていく中、変わらずにあること
6月25日土曜日。私は国立がん研究センター柏キャンパスに向かいました。ここは夫が最後に通った病院です。
午前中、国立がん研究センター柏キャンパス構内にオープンするホテルや施設を見学する動線で、私は、あの日、夫の病理解剖を担当した先生方が頭を下げて車を見送ってくださったスロープに気付いてしまいました。
新しいホテルの内覧で部屋から見えた景色は、6年前に病室から見たものと同じでした。野球場で甲子園の地区予選をしていたなと思い出しました。
変わっていくことと、今もそこにある光景
いろいろな想いが去来しました。
最後の1ヶ月、私は、柏の葉キャンパス駅前のホテルに滞在しました。
面会時間を終え病院を後にした時、街で見かける家族の笑顔が辛かったことを思い出し、病院と同じ敷地内にあるホテルは、きっと様々な日々を支えていくだろうと思いました。
午後は、国立がん研究センター柏キャンパス30周年記念式典と祝賀会に出席しました。
施設やプロジェクトについての軌跡、これからの展望をうかがいながら、あの時、建築が進んでいく光景を夫はどんな気持ちで見ていたんだろうと思いました。
患者側代表として祝辞を述べた全がん連天野理事長のスピーチの中に『希望』という言葉がありました。『希望の会』という名前にこだわった夫の想いが語られているような気持ちになりました。午前から胸に去来する想いが整理されたように思えました。
視線をあげ会場を見渡すと、夫の病理解剖をしてくださった先生の姿がありました。思わず駆け寄り、
「先生、あれから6年です。七回忌を迎えます」とご挨拶すると、
「轟さんの細胞は今もここで研究を進めているんですよ」
と言ってくださいました。
歴代、柏キャンパスに力を注いできた方々の祝辞は、どれも深い言葉でした。
締めの祝辞での
『どんなに医学が進んでも、救えないものがあることを忘れないで欲しい。
患者や家族は治療を不安に思う気持ちを持っている。
それを置いてきぼりにしない進歩を』というお話には思わず目頭が熱くなりました。
今日1日を振り返りながら帰路につき、自宅のドアを開けようとしてキーホルダーを探すと、6年前からつけていた夫の写真が入っているハートの紐が切れていました。
ここからは振り返るなと言われたように思いました。
今日は暑かった。熱かった。
いい1日だったと思います。