【書評②】起業のエクイティ・ファイナンス/資本政策を間違ったときの対処法
増島弁護士のベンチャー企業の資金調達方法に関する記事を読んで圧倒的にエクイティに関する知識が足りてないと認識し、この本を手に取ってみました。
内容はちょっと難易度高めなので、本気で起業したい人や融資担当の銀行員やベンチャー支援の士業向けかと。
今回は3章、4章、5章のまとめです。続きはありますが、これ以降をまとめると引用ばかりになりそうなのでここまでにします。
優先株を利用した資金調達
優先株については以下を参照下さい。
一般的には、議決権が制限される代わりに配当や残余財産分配請求権が優遇される株式が優先株です。
しかし、ベンチャーで発行される優先株は議決権は付与されたままで、残余財産分配請求権が普通株式よりも優遇される株式が発行されます。
例えば、会社がMAや解散した場合には、会社財産や売却価格の3億円までは優先株保有の株主に配分され、残りは普通株式保有の株主(経営者・エンジェル等)も含めて保有割合に応じて残余財産の分配を行うというものになります。
これによって、投資家サイドであるベンチャーキャピタル等は損失を被るリスクを一定程度回避することができます。一方、経営者サイドは普通株式を発行して資金調達するよりも高いValuationで資金調達することができますので、自らの持株比率の希薄化を抑えながら資金調達ができるメリットがあり、両者でWin-Winとなります。
予定は未定、コンパーティブルノート
優先株の欠点としてValuationを高く設定し過ぎて、投資家が二の足を踏んでしまうことが挙げられます。
ラウンドが進みプロダクトが完成し、スケールしてるケースではあれば、ある程度高い確度のValuationを算定できますが、アーリー期などの開発フェーズでのValuationはそうもいきません。
そうなると、CVCなどは社内での決裁が下りず、投資を見送ってしまうケールがあります。
上記のような欠点を補うために使われるのがコンパーティブルノート(ボンド)です。
コンパーティブルノートについては以下を参照下さい。
基本は社債なので、会社が倒産しても他の株主よりも優先して債権を回収できますし、株価が行使価格を上回れば株式に転換して売却するという選択が可能です。
さらに本書でのコンパーティブルノートは転換する際の行使価格または交付株式数を次のラウンドで決める事としています。
つまり、現時点では確度の高いValuationは出せないため、次のラウンドでちゃんとValuationを算定してから行使価格又は交付株式数を算出しましょうね、先に出資してくれたから、次ラウンドで出資してくれる人よりもディスカウントのインセンティブ付けますねとすることができるのです。これにより、投資家サイドは高すぎるValuationで出資をするリスクを避けることができます。
ただし、コンパーティブルノートの場合は元金の返済と利息の支払があるため、ベンチャー企業にとっては重い負担となります。
そこでシリコンバレーのイケてる人達が考えたのがコンパーティブルエクイティという資金調達の方法です。ざっくり言えば有償ストックオプションを発行して資金調達ををする方法です。
この方法であればコンパーティブルノートの欠点である、元金や利息の支払は発生しないため、ベンチャー企業の資金調達方法としては優れているのです。
通常の有償ストックオプションとの違いはコンパーティブルノートと同じように、資金調達時点では、普通株式への行使価格や交付株式数の算出はせずに、次ラウンドの資金調達まで延期する点です。
資本政策を誤った際の禁じ手!乙種普通株式の発行
エンジェルラウンドで友人や親戚に応援という形で出資してもらい、その親戚・友人が40%株式を保有してるというようなケースがたまにあります。
このケースですと機動的な意思決定は難しくなります。また、企業価値に一番影響するのは経営陣のモチベーションやコミット力にもかかわらず、経営者へのインセンティブが少なく、うまい設計がなされていないことになります。
従って、このような場合は経営者の議決権を増やしてあげる必要があります。
具体的には、新株を経営者に対して発行することになるのですが、出資するためのキャッシュが経営者にないといけません。それを助けるために、通常の普通株式よりも残余財産分配請求権を劣後させるなど、条件の悪い種類株式を発行することで1株当たりの株価を低く抑えます。
経営者は少ないキャッシュで多くの株式を保有することができ資本政策のやり直しが可能になるのです。
しかしながら、この方法は既存株主の同意が必要になりますし、手間もかかるため、やはり起業前に精度の高い資本政策を作成し、禁じ手を使わずにいけるのがベストです。
まとめ
いかがでしょうか。今回は種類株式を使った、資金調達方法や資本政策のやり直し方などをご紹介しました。
本書では具体的な定款の書き方や、種類株式の条件設定や、税務的なリスクについてまで言及しており、かなり深い考察がされています。
資金調達はエクイティ以外にも銀行借入やクラウドファンディングなどの方法もありますので、これから起業する方はご自身のゴールまでいくら必要なのか、事業計画とともに一度、資本政策を考えてみてはいかがでしょうか。
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