酒と本、家族の思い出
6缶パックのビールを抱え、にこやかに休日出勤する若き日の父。
そんな後ろ姿を見て育った訳ですから、そりゃまあ酒呑みになりますよね。
立派に成長した息子として、家やお店は当たり前。路上に川辺、夢の国、果ては電車に飛行機と、舞台を選ばす嗜んでいるうちに、図書館でビールを呑みたいと願うようになりました。知を求めて集まる人たちの静かな熱気を感じながら、キン冷えした奴をゴクリとやりたいのです。
そうは言ってもいい大人ですから、分別はわきまえております。棚の死角に身を潜め、350ml缶を秒でやっつけるような真似は致しません。それは本とお酒、どちらにも失礼ってもんです。
ですからこの度、埼玉県は川口市に「ビールが呑める大人の図書室」をコンセプトにしたお店を作りました。
豆料理を肴に軽く一杯やれる、古書を中心にした本屋さん。そんなお店です。
おかげさまで先日、正式に開店致しました。
会社勤めをしながらの、週に1〜2日の不定期営業ですから、大きな売り上げは見込めません。それに5坪ばっかしの小さなお店です。
だもんで多くは求めず、末永く続けられることを第一に、無理のない運営スタイルを心掛けていきます。本好き、ビール好きのみなさまに通って頂ける、まずはそんなお店づくりを目指します。
それにしても酒好きは当然として、本好きになったのも、父の影響によるところが多くあります。
ありがたいことに親父殿の方針で、本は自由に買える環境で育ちました。
中学を卒業し、集団就職で新潟から出てきた父。本当は上の学校に行きたかったけれど、兄弟の中でひとり、事情によって断念せざるを得なかったと聞きました。本が好きなのに読む時間も取れず、だから子供たちには、本人が望むなら本も勉強も諦めさせたくなかったそうです。
おかげで勉強の方はともかく、小さな頃から本には親しんできました。
小学校から帰ってきたら、後輪の横に折りたたみ式のカゴがついた6段変則の昭和な自転車をかっ飛ばし、本屋さんに行くのがホント楽しみでした。
休日、父について行く本屋も(今ではみんな閉店してしまいましたが)、大切な親子のコミュニケーションの時間だったと思うのです。
そんな風にして大人になり、副業とは言え本屋を開業するなんて、父も私も想像していなかった未来が訪れました。
さて、引退後にようやく読書の時間が取れるようになった父は、まさに晴耕雨読の暮らし。畑仕事の合間に図書館で借りた本を読んでいます。
実家に顔を出すたび、歴史小説に紛れて艶笑小噺の本が置いてあるあたりに、親子の絆を感じるのであります。
傘寿を過ぎて、この頃はもう前ほど呑めなくなったのは寂しくありますが、何故だか母は、若い頃より呑めるようになりました。
どちらもいい歳ですから、近いうちに二人をお店に招待し、兄も招いて、家族で本にまつわる思い出を語り合えたらと思います。
夜の図書室#1