身近な地獄と涅槃|酒と肴 その十五
物事には大抵、二面性があります。
個人的にはヤンキーが捨て猫を助けるなんてよりも、真面目な青年がコアな性癖に悩む(最終的にはズブズブに嵌まる)というシチュエーションが好みです。
ところで在宅勤務にも二面性がありまして、終業と同時に冷蔵庫を開けてRTDをキメられる夢みたいな制度でもありますが、仕事が終わるまでお酒を飲めないという厳しい現実でもあります。酒呑みにとっては天国×地獄なこの制度、どうせなら上手に活用したくておでんを煮ることにしました。
ちなみに「深夜食堂」を読んでから、おでんの具は「牛すじと大根、ゆで玉子」の三つに絞っています。
まずは牛すじの下茹で。この時Aviciiのプレイリストをかけるのは、肉塊から大量にアクが出る絵面がさながら地獄のようだから。ちなみに性嗜好によっては衆合地獄、お酒の飲み方によっては叫喚地獄に落ちるそうなので、興味のある方はWikiで「十六小地獄」を調べてみてください。私は既に片道切符を2枚手に入れていました。
ゆでこぼした牛すじは一度洗って食べやすい大きさに切った後、ネギの青いとこと生姜を入れて午前の間中ゆで続けます。仕事はダイニングキッチンでやっています。
気づけば昼休み。朝の残りでさっと昼メシを済ませ、ゆで大根とゆで玉子の準備。ところで大根は面取りするとランクアップする気がしませんか?1点加算して大根ではなく太根と呼びます。なんだか字面も響きもあれなので止めます。
テレビから聞こえるNHKのサラメシに時々気を取られながらも準備が完了、下拵えした牛すじと合わせ、醤油と砂糖で煮込み始めます。
午後も引き続きキッチンでお仕事。鍋の様子を見に行ったタイミングで職場から電話がかかってきて慌てます。念のためWEB会議がオフになっているか確認します。
換気扇が回っているので少し冷えますが、ふんわり漂う甘じょっぱい香りに仕事も頑張れるというもの。冷蔵庫からお酒を取り出しては冷え具合を確認し、ぐっと堪えて戻します。煮ている時に流すのはニルヴァーナ、すっかり駄洒落を楽しめる大人です。
で、作ったのがこちら。
17時、地区の防災無線から赤とんぼのメロディが流れると同時にパソコンをシャットダウン。いそいそと支度をして冷蔵庫に鬼ころしを迎えに行きます。なぜかこのタイプのおでんは安い日本酒ほど良く合うから不思議です。
半日煮込んですっかり柔らかくなった牛すじに辛子をつけ、鬼ころしをチュッとキメると最短距離で入滅、涅槃に辿りつけました。
仕事中の酒を我慢した分、その味わいはまさに天の美禄。二面性もいいものです。
メニューと材料
おでん(牛すじ、大根、玉子、醤油、みりん、砂糖、酒)
酒と肴|その十四 夢と現実の割合