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夢で飲むビールはいつもぬるめ|日々の雑記#31

水着と音楽、それとビール。

最後に「海に行きたい」と思ったのはいつのことだろう。音楽を聴きながら浜辺で飲むビールが好きだったはずなのに、思い出せない。

日常は容易く失われる、または諦めを受け入れるようになる。ジョッキをぶつける機会が消えて、テイクアウトと缶ビールの週末も当たり前になった。夢に出てくる生ビールはいつもぬるくて、口を付けた途端に目が覚める。泡の感触が妙に生々しく、エロい夢を見た時よりも遣る瀬ない。

自宅の、かつてレコードプレーヤーを載せていたシェルフには、今ではテレワーク用のPCが置かれている。集めたレコードは人の手に渡り、もう一枚も残っていない。聴きたい曲は配信サービスで大概見つかってしまう。

人生で一番音楽を聴いていた二十歳の前後。世界中の楽曲が聴き放題になる未来も、部下たちへ画面越しに指示を出す未来も想像することなく、ぼんやりとレコードを聴いていたなんでもない日々。

目に見えぬ責任が増えて、心の火を鎮めることが上手くなった。だけど火が消えた訳ではなく、灰の中で熱を持っていると気づいた先週のこと。

前から気になっていたアーティストの個展が開催されていることを知り、会社を抜け出し乗った中央線。ギャラリーに並ぶ作品を前に、胸が躍る、騒ぐ。

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検索してカートに入れる暮らしは便利に過ぎて、親切なことに「好み」まで決めてもらえる中、久しぶりにジャケ買いする楽しさを味わった。

ふと、そんな風に手に入れたレコードを持ちより、部室代わりの倉庫に集まっていた大学生の頃を思い出す。新しいジャンルの曲を知り、そこからまた次の発見や出会いが生まれた。アナログな広がり方だったけど、その時に聴いていた音楽が今でも自分を支えている

過去を懐かしむものではないし、変化を否定するのものでもない。ただ、レコードを持つ彼女たちに会って、このところの混乱の中で、自分の感じたものから目を逸らしていたことに気づいてしまった。だけどもう心の中、静かに燃える熾火を知っている。

これから夏がはじまる。水着と音楽は手に入れた、あとは生ビールか。

さくらいはじめ 個展『HIP&SQUARE』
2021年6月17日(木)〜6月27日(日)
営業時間 13:00-19:00
月曜定休 / 入場無料
VOID >>> http://void2014.jp

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