指先の絶望(秋鮭のムニエル)|酒と肴 その四十一
秋です。物悲しいですね。
何が悲しいかって、排水口に絡む抜け毛が増えているからです。生え際の、特に分け目のところが気になるんですよね。そこに白髪も増えてきましたし。
涼しい風が吹き抜ける度、気温と毛量、どちらに原因があるのか気になって胸が騒ぎます。最近は「騒ぐ」か「苦しい」ことが多い胸なので、焦がしたり傷めたりしていた頃が懐かしいかぎり。
それにしても鮭ですら生まれた川に帰ってくるというのに、私の髪の毛は何をやっているのでしょうか。下水道から海に出て、そろそろ立派になって帰ってきてもいいはずですが、まるで音沙汰ありません。川沿いを歩きながら思い浮かべるのは、もずくのように黒々とした毛の群れが遡上してくる様。まあ、親が親ですから、寄り道して、ちょっと一杯やっているんでしょうね。ため息をつく日々にも疲れました。
現実逃避をしても状況は変わりませんので、今できる対策を取ります。髪の成長を促すビタミンB6が豊富な、旬の秋鮭を料理します。
人生初のムニエルに挑戦しました。付け合わせはきのこのソテーと茹でた青大豆です。
お値段控えめな薄い切り身を選んだせいか、火が通り過ぎてしまったのは次回の反省としましょう。それでもバターでパリパリになった皮身の味わいと、ガリバタ醤油なキノコとの組み合わせは全くもってお酒泥棒です。選んだビールは噂のマルエフ、幸運の不死鳥に髪の毛の復活を重ねます。
酔いがまわっていい具合になってきました。のんびりした気持ちでスマホをいじります。試みにきのこと大豆、どちらも「髪の毛」と組み合わせて検索してみると、育毛に効果があることが分かりご満悦。
単純なので「明日は鮭ときのこの炊き込みご飯作ろう」なんて思いましたが、ふと他の食材(じゃがいも、きゅうり等)で調べても、大概は効果があることが判明。テンション急降下です。
結局のところ、ひとつの食材ばかり摂取するのではなく、バランスの良い食事が大事と言うことですね。普段から食生活には気をつけている方なので、今さらビタミンB6を摂ってもあまり効果は無さそうです。
インターネットの発達は私たちに希望と絶望をもたらしました。それでも指先のホムンクルスが「AGA」と検索するのを止められず、秋の夜は更けていきます。
メニューと材料
・秋鮭のムニエル(鮭、バター、小麦粉、塩)
・きのこのソテー(舞茸、しめじ、バター、ニンニク、醤油)
・茹で青大豆(青ばた豆)