原田マハさんの「たゆたえども沈まず」を読んで至福の時間を過ごす
25年以上勤めたお堅い職場を早期退職して、現在、小学生男子を育てながら主婦をしているまめさとです。
最近はたまーにスポットバイトをしつつ、あいかわらず読書三昧の日々をおくっています。
今回手に取ったのは、原田マハさんの「たゆたえども沈まず」。ある番組で芦田愛菜さんと葛飾北斎博士ちゃんこと目黒龍一郎さんが絶賛していたので興味を持ちました。
そんなわけで、内容はほとんど把握せずに読み始めたのですが、パリと絵画好きの私には最高に楽しめた1冊になりました。
舞台は19世紀後半のジャポニズム旋風が吹き荒れるパリの美術界。
画商の林忠正と、助手の重吉、オランダ人画商のテオとその兄で売れない画家のゴッホが出合い、「世界を変える1枚」が生まれるまでの軌跡を描いたフィクションです。
ちなみに、助手の重吉は作者が生み出した架空の人物。
この本はたくさんの魅力にあふれています。
まずは主要登場人物の林忠正の人物像。
流ちょうなフランス語を操り完全にフランスのマナーをものにし、浮世絵や日本の工芸品を狡猾にパリの富裕層に売り込んでいく林。
彼の心情が描かれる場面は少ないのですが、それがかえって林への興味をかき立てます。
重吉の目に映る林は、フランス社会に適合しつつもどこかサムライを思わせる孤高の人物。
実際の林はどんな人だったのだろう。
さらに彼について調べずにはいられないぐらい、魅力的な人物として描かれています。
林忠正という人物の存在を知ることができたのは、大きな収穫でした。
次にテオとゴッホの関係性について。
言うまでもなくあのひまわりの絵で有名なゴッホです。
特別に好きな画家というわけではなかったのですが、アムステルダムのゴッホ美術館に行く機会があり、彼の波乱の人生とすばらしいいくつかの絵に心を揺さぶられました。
それでもなお、弟のテオがなぜあそこまで献身的に経済的にも精神的にも兄のゴッホを支え続けたのか、ずっと不思議に思っていました。
今でこそ絵がとんでもない値段で取引されているゴッホですが、当時は飲んだくれでトラブルメーカーの売れない画家。
死ぬまで日の目を見ることはありませんでした。
いくら兄弟でテオが兄の絵のすばらしさに心酔していたとしても、私には度を越した献身に思え、どうにも引っかかっていたのです。
それがこの本を読んで、そうか、そういうことならあの関係性もありうるのか・・・と腑に落ちる気がしました。
もちろんこの小説は原田マハさんのフィクションなので、本当かどうかなんてわかりません。
それでもこの二人のことが理解できるような、そんな説得力がありました。
最後に、何よりこの小説で最高だったのが、そこかしこに出てくる、絵、人物、建物の描写と、かつて自分が目にし記憶の底に沈んでいた画像を結びつけることができたこと。
ああ、あの人とのかかわりはここでこう生きてくるのか、とか、あの絵に描かれていたのはこういうことだったのか、とか、かつて目にしたゴッホの絵がいろいろな意味をもって思い起こせました。
単なる絵だったものが意味を持ってくる快感。
それとともに、小説を読んでいる間、19世紀のパリの空気をすっているような、至福の時を過ごしました。
蛇足ではありますが、まとまってゴッホの作品を見る機会がある場合は、ぜひぜひ事前・事後にこの小説を読むことをお勧めします。
絵も小説もより深い感動を持って楽しめること、請け合いです。
本日の写真:あせび(ツツジ科)
こんな花が咲くとは知りませんでした。