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サステナビリティ経営と資本コスト経営

伊藤レポートが一貫して要請してきたこと

2014年、経産省が伊藤レポート(伊藤邦雄 一橋大学大学院商学研究科教授(当時)を座長とするプロジェクトの成果)を公表しました。そこでは、日本企業がイノベーション創出力を持ちながらも持続的低収益に陥っているという問題提起がなされました。そして日本企業に対し、資本効率性の向上(市場が期待する収益率である資本コストを上回るROEの達成)を要請しました。

この要請は、その後の伊藤レポート2.0(2017年公表。無形資産への投資及びESG(環境・社会・ガバナンス)への対応を踏まえた企業価値創造ストーリーの重要性を訴求)だけでなく、最新の伊藤レポート3.0(8月31日公表。企業にサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を要求)にも引き継がれています。

日本企業の経常利益は上昇傾向にあるものの、持続的低収益性の問題は未解決のままであり、伊藤レポート3.0では以下のように警鐘を鳴らしています。

資本コストと資本効率性を意識した経営への転換は、日本ではまだ緒についたばかりであり、長期的な競争優位の向上・強化や企業価値向上に向けた取組は、依然として大きな課題である。

持続的な企業価値創造における無形資産の活用

一般的に事業遂行に必要な経営資源は、お金(財務資本)や設備(製造資本)といった財務諸表に掲載される有形資産と、人材(人的資本)やノウハウ(知的資本)、社会的ネットワーク(社会・関係資本)及び天然資源(自然資本)といった金銭換算が難しい無形資産で構成されます。

企業は、これらの有形資産と無形資産をインプットとして事業活動に投入し、アウトプットとなる製品・サービス等に変換します。

そして、事業活動とアウトプットを通してアウトカムとしての価値創造(利益創出、人材育成、知財獲得、顧客基盤の拡大、ブランド向上、バリューチェーンでの人権尊重、脱炭素・循環型社会への貢献など)に繋げます。

更に、創造された価値を再投資に振り向けることで持続的な企業価値向上を目指します。

近年、IoTやAI等による技術革新の進展に伴い、持続的な企業価値創造における無形資産の重要性が高まっています。米Ocean Tomo社の調査によると、米国企業(S&P500)では、市場価値に占める無形資産の割合が、1975年の17%から2020年には90%まで拡大しています。一方、日本企業(NIKKEI225)は2020年でも32%に留まっています。

サステナビリティ経営と資本コスト経営

日本企業が持続的な企業価値創造を目指すためには、無形資産を積極的に活用したサステナビリティ経営が求められます。

サステナビリティ経営とは、自社の価値観(企業理念、パーパス等)に基づき、あるべき未来を構想・デザインし、そこからバックキャスティングする長期志向の経営のことです。

マテリアリティ(重要な社会課題)の特定、長期ビジョンの設定、社会価値と経済価値の同時実限を目指すビジネスモデルの構築、投資家を始めとするステークホルダーへの情報開示と対話・エンゲージメントなどの取組が基本となります。

無形資産を活用したサステナビリティ経営においても、新規事業・イノベーション創出に向けた安定的な投資原資の確保・創出のための財務基盤の強化が必要であり、伊藤レポートが一貫して要請している資本コストと資本効率性を意識した経営(資本コスト経営)への転換の必要性は変わりません

資本コスト経営はサステナビリティ経営の基盤として位置付けることができます。

まとめ

不確実性や社会のサステナビリティ要請が高まり、経営環境が益々厳しさを増してきています。その中でも、持続的な企業価値向上を実現していくためには、資本効率性の向上(資本コストを上回るROEの達成等)が鍵を握ります。

企業は、資本コストの的確な把握、収益計画や資本政策の方針策定、収益力・資本効率等に関する目標設定などに戦略的に取り組むことが必要です。

そして、目標実現に向けた事業ポートフォリオの見直しや、知的資本(研究開発、知的財産等)・人的資本など無形資産への投資を始めとする経営資源の配分などに関し、具体的に何をどのように実行するのかについて、投資家を始めとするステークホルダーに分かり易く説明することが益々重要になります。

日本企業には、自社の価値観(パーパス、企業理念等)に基づき、資本コスト経営を基盤とする、長期視点のサステナビリティ経営の実践を通した持続的な企業価値向上が求められています。

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