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遠くの街に犬の吠える

自分の好きな音って何か考えてみた。考えるとありきたりなものしか思い浮かばんけど、1番好きな音は体育館に響くシューズのキュッって音かもしれない。今はもう殆ど聞くことはないけど、きっとまたその音を聞いたらあの日のあの時に戻れるような気がする。

あとは好きな人の声もいいかもしれない。声も音の一つであって何かを想うにはいいものだと思う。

過去の音や声はどこかに残るのか。何かに染み入るのか。匂いや風景が人間の記憶に残るように音も同じように記憶に残るはずだと思う。

吉田篤弘の『遠くの街に犬の吠える』

切ない恋愛小説でもあり、素敵な描写や言葉が散りばめられた小説でもある。

嘘の奥にある淡い恋心をしたためる手紙たち。手紙こそがとてつもなく遠い距離、長い時間を越えていく声である事に気づく。今は便利になって手紙を書くよりLINEやメールになっている。だけど誰かに強い想いの丈を伝えたい時、伝えて欲しい時には、一生懸命書いた文字を感じたいし感じて欲しいなと思う。普段見れない人の文字はとても心掴まれるもので記憶に残るものやと思う。

あとこの小説の中で好きなところがあって、夕方とは昼でも夜でもなくこの時間だけの空気がある。というような事が書かれてるのだけど、私は物心ついた時から一日の中で一番好きな時間は夕方だった。何でかわからんけど今でもそれは変わらない。感覚的にどの季節であっても夕方は透き通ってるような、気持ちが軽くなる何かに包まれてるような気がしてた。私にとって『とても前向き時間』と言える程気持ちがすっきりと出来るハッピータイム。

この私の感覚に似たような描写があって、とても嬉しくなってしまった。読書の快感とはこういうことやなぁと一人でにやけた。その快感を感じてしまったから、それからはこの小説も何度も読みたい本リストに加わって、また時をおいて読んでまたにやけての繰り返し。そんな事をしてる私の日常も捨てたもんじゃ無いな。

今も気まぐれにつらつら纏まらない文章をここに書いてるけど、こうして書いた私の声も色々な物を飛び越えて誰かの記憶に少しばかり残れば、そんな光栄な事はないなぁと思う。

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