「運送業許可」は更新が必要?
高いレベルで求められる要件をなんとかクリアし、膨大な量の書類提出と登録免許税を納付して、ようやく念願の運送業許可を取得。したとしても、自動車免許のように数年後にまた更新手続きとお金が必要になるんじゃないのか。人間だれしも”その後”が気になるものです。今回はそんな疑問にお答えします。
運送業許可は一度取ったら更新は不要です。
いきなり出オチのような結論ですが、運送業許可は一度取得すれば、取り消されない限り更新はいりません。ただし、貸切バスなどの一般貸切旅客運送事業のみ、5年ごとに更新が必要です。こちらのブログでは、運送業許可を、貨物運送の場合に読み替えてお伝えしますのでその点ご留意ください。
同じ許可でも建設業許可や産業廃棄物許可は5年の有効期限があり、その期限以降も事業を続ける場合は、更新申請が必要ですが、運送業許可に関してはこの有効期限というものがありませんのでご安心ください。
取り消される場合ってどんなとき?
では「取り消される場合」ってどんな時でしょうか。そもそも、本来行政行為でいう「許可」とは、「禁止されている行為を特定の場合にのみ解除し、することができる権利を与える」という行政処分(行政行為)です。そのため、その特定の場合に該当しなくなったとき、一度与えられた許可でも取り消されることになると考えておく必要があります。
では、どんなときに取り消されるのでしょうか。
許可取得後の報告義務(事業報告書・事業実績報告書)
取り消しの話をする前に、まずは許可取得後の行政機関との関わりについて整理しておく必要があります。運送業許可取得後は、許可事業者は地方運輸局(または国土交通省)の管轄下により、事業を行うことができます。そのため、問題なく事業運営していますよ、という報告を、毎年指定の様式で所轄の行政機関にしなければなりません。報告は以下2種類。
・提出物その1:事業報告書
まずは事業報告書。その年の経営状況を報告するもので、売上がいくらで費用がどれぐらいかかって人件費ではどういう内訳なの?というものを各運輸局の書式に入力し、自社の損益計算書と貸借対照表とともに提出します。当該事業年度の終了後100日以内に管轄の運輸局(運輸支局経由も可能)に提出が必要です。
・提出物その2:事業実績報告書
もう一つが似たような名前で事業実績報告書と呼ばれるものです。この辺がもうちょっとましな名前なかったのかしらね?と思わずにはおれませんがそれはおいといて。事業報告書は経営状況でしたが、こちらは、どれぐらいの車両数で何キロぐらい運んだの?という具体的な運行実績を報告するものです。事業報告書は総括なので損益計算書などでしまってからでも調べることができますが、こちらの事業実績報告書はいわば運行の”明細”なので日々の運行状況を記載しておかないと年度が終わってからではとてもかけません。
以上の2つを毎年提出する必要がありますが、もしこの2つを提出しないと実態が見えないとしてこの後説明する監査の対象となりえ、悪質性が高い場合は最悪取り消し処分を受ける可能性も出てきますので、まずはこの提出をしっかり実行していくことが大切です。
「巡回指導」と「監査」ー許可取得後の行政監督ー
さて、許可取得後の行政とのもう一つの関わりがこの「巡回指導」と「監査」です。どちらも言葉の威力が強い、聞いただけでなんだか憂鬱な気持ちになりますよね。笑
ほんとこのあたり、ネーミングを事業者目線で作れるような行政があってもいいように思うのは私だけでしょうか?
・巡回指導
まずは巡回指導。こちらは許可がおりた後数か月のうちに1回、それ以降問題なく運行されていると判断された(AからEの5段階で評価されます)あとは2~3年ごとに定期的に行われます。さきほど”行政との”と記載しましたが、巡回指導は、民間事業者である『公益社団法人全日本トラック協会』から委託を受けている「全国貨物自動車適正化事業実施機関」によって行われますので正確には行政ではありません。ただしその巡回指導の内容は行政側に報告され、大きな問題がある(DやEなどの評価)とされた場合は、今度は運輸局が行う監査につながってしまうため、間接的には行政との関わりである、といえます。
・監査
こちらは本家本元、行政である管轄元の各地方運輸局によって行われます。最もやっかいだとされるのが、不定期かつ予定が事前にはわからない、というところです。例えば巡回指導でD判定やE判定の評価を受けた場合はまだ予想がつきますが、それ以外でも、法令違反が疑わしいというどこかからの通報や重大な事故を起こした場合から、しばらく監査を実施していないから、というなんともアバウトな理由までさまざまであり、事前に連絡がある場合もあれば突然監査官が来訪することもあります。
巡回指導は事前にトラック協会から調査日の連絡と用意するもの、チェックシートなどが送られてくるので事前準備と対策をたてることができますが、監査の場合はそれがないのでたとえ事前に来訪がわかったとしても対策の立てようがない、ということになります。
逆に、監査の場合は(「しばらく監査を実施していない」以外)すでになんらかの違反や重大な業務上の非実施などが疑われる状況となって実施されるので、その結果としてなんらかの行政処分や最悪許可取り消し処分をうける可能性もかなり高まっている状況です。ゆえに監査はそれ自体が発生しないようにすることがまず取るべき対策ともいえますね。
「巡回指導」を活用すべき!
前の段落最後に記載したように、多くの場合「監査」は、「巡回指導」の(悪い)結果として実施されること、違反や事故を起こさないようにするために事業適正化を目的として実施されるのが「巡回指導」であること(それ自体が予防的行為であること)、さらに、「巡回指導」はチェック項目の確認や事前の対策をたてることができること、などを総合的に考えると、事業者としてやるべきは「巡回指導」を徹底的に活用するのが一番有益なのではないかと考えます。
せっかく苦労して長い方だと1年以上かかって取った許可です。かつ、更新不要は事業に集中できる最大の許可メリットですので、不注意や対策不足で不本意な行政処分、ひいては取り消し処分を受けることのないよう、専門家にも協力を仰ぎながら前向きに取り組んでいく姿勢こそが一番の予防対策だといえるのではないでしょうか。