美味しいパン(1)山口県周南市鹿野「子たぬきのパン」
田舎にあるパン屋さんに憧れる。
日本でもヨーロッパでも、旅をすると、田舎の美味いパンを欲してしまう。
特に山あいは空気もきれいで、地元食材へのこだわり(尊敬)があると、心が沸き立つ。
自著「山口県パン豆本」(2021年4月発刊)で取材した「子たぬきのパン」(山口県周南市鹿野)はまさに、そんな一軒だ。
実家がパン店の私は、これまでに、相当な数の美味いパンを食べて来た。
焼きたてのパンをその場で、しかも、渋い古民家の軒先で味わえる、そんな幸せはそうそうない。
一日置いた方が美味いパンもあるが、猫舌知らずの私は焼きたてを好む。
この「子たぬきのパン」には、パン通をうならせる名店物語がいくつもある。
一、山口県産小麦を研究する山口大学農学部教授との出合い。
一、福岡で元カレー屋さんだったという経歴
一、パン工房のお隣りでは、親御さんがカフェを営む。
店主さんは語る。
「山口県産小麦の良さが多くの方に伝わると嬉しいです。山口県の農家さんも自分たちの作った小麦がパンになる姿を見る機会はそれほど多くないみたいで、、、」
山あいの鹿野に足を運び、あのパンをかじると、きっとまた行きたくなる。
美味いパンには、職人の遊び心も感じ取れる。
「街から遠い」とかは関係ない。
パン職人は客が来ても来なくても、天気がよくてもわるくても、私ごとで何があろうが、夜明け前から、粉に向かい合う。
「人は他人にはなれないから、いつだって自分自分を生きる。自分らしくあることが、誰にも負けることない強みだと思って生きようと思っています」(「子たぬきのパン」店主)
そう。店主が全身全霊、人生を懸けて作るパンはひと味もふた味も違うのだ。
窯で使う薪も地元産。
『名店中の名店』であると自信を持って推せる。
取材歴30年を越えた私。新聞、雑誌、食品会社広報、大学広報と年とともに、それなりに職歴は積み重ねてきたが、まだまだ、すべてが足りない。
パンを語るなら、たった一回の取材だけでは、到底無理。
その店の、その店主のよさを十分に引き出すことはできない。
自戒を込めて、あらためて思う。