亡き父の呪詛
私の父は自慢だが、とても素晴らしい父親だった。
時に厳しく、時に優しい。
そして色んな経験をさせてくれる、色んな事を教えてくれる、色んな事を一緒に考えてくれる、色んな事を一緒に想像してくれる。
おまけに長身の大沢たかお系の男前だった。
家族全員、父が大好きで悪い所を探す方が難しかった。
クソ音痴だった。位しか思いつかない。
神様はわがままだから、素晴らしい人間ほど側に置きたがる性質があるようだ。
父は平均寿命の半分も生きられなかった。
父は、私にとある試合(結構マイナー競技かも。だが出場自体難しい。全国大会は一応テレビでも中継はされる)の全国大会に出て欲しいと言って亡くなった。
兄には、私と母の事を頼む。と遺した。
私は父の遺言通り、その競技の全国大会に出た。
二回戦で負けてしまったけど、物凄い達成感だった。
だがその後、私は何をしていいかわからなくなってしまった。
人生の目標がなくなってしまったのだ。
兄は、「俺の家族はお前(私)とお母さんだけだ」
と言って新しく自分の家族を作る事を一切考えず、未だ独り身で私と母の面倒を見ている。
私は一応独り立ちしているが、何かと気にかけてくれている様子である。
父は素晴らしい人物だった。
尊敬していて大好きだったからこそ、父から発せられた言葉に縛られてしまっている。
憎いとは思わない。
父はきっと、そこから先の人生は自分達で考えて切り開けと思っていたのではないかと思う。
だが、私はそこからの道が見えなくなってしまった。
同じく、父親を早くに亡くした同級生がいた。
彼の父の遺言は「良い大学に行ってくれ。」だった。
彼はクラスでも下の方の順位だったが、がむしゃらに勉強し、偏差値の高い事で有名な国立大学に入学した。
彼はその大学を卒業後、鬱になってしまったと聞いた。
彼の人生の目標が、父親の遺言である“良い大学に入る事”になってしまったからだと思った。
大学を卒業したらその後の道筋が見えなくなってしまったのだろう。
尊敬していたから、大好きだったから、
そして、今まで人生の道筋を示してくれてた父の言葉だから、そこが終着点になってしまったのではないか。
もし、私や同級生の父親が「幸せになって欲しい」みたいな、ふんわりした遺言を遺してくれていたなら、人生かわっていたのかな?
と、何となく考える事がある。
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