岡田君と少年メリケンサック
今回の日刊かきあつめテーマは「#部活の思い出」である。
高校生ではバスケ部に所属をしていた。この話は高校2年生の時のことである。
映画を頻繁に観るようになったのは大学生になってからで、この頃は年に1,2本観る程度だった。
当時の僕は一人で映画を観に行くことはできなかった。何となく恥ずかしさがあったのかもしれないが、映画を観に行くことは遊びの最上級系で、今の感覚で例えるなら「沖縄旅行に出掛ける」級の特別行事であった。
そんな面倒な時期にどうしても見たかった映画があった。『少年メリケンサック』である。
『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』、『タイガー&ドラゴン』などの当時一世を風靡したドラマシリーズの影響から監督・脚本家の宮藤官九郎、いわゆるクドカンが好きで、しかも宮崎あおいが出ているので観に行きたかったのだ。
しかしストーリーが万人受けするとは思わなかった。
レコード会社から契約を着られる寸前の派遣OL・かんな(宮崎あおい)が、動画サイトで見つけたパンクバンドに望みを託して本人たちに会いに行くが、その動画は25年前のモノで、既に解散&おっさん化してしまった彼らに絶望する。しかしレコード会社のHPでは既に動画を告知してしまい大盛り上がり。契約切れ寸前のかんなは、おっさんたちと起死回生の全国ツアーに挑むが・・・という話。
周りには映画好きもいなければ、パンク好きもいなかった。ジブリや名探偵コナンならまだしも、ニッチな映画を誘える友人が思いつかなかったのだった。
そんなある日。部活が終わって部室で着替えていた時に、ある友人がふと、「真央ってクドカンに似てるよね」と声をかけてきた。
仮にその友人を岡田君としよう。彼は運動部よりも、どちらかというと文化部っぽい雰囲気を持っていて、現に中学の時は文化系の部活に所属していた。
岡田君とはクラスも違い、よく一緒にいるグループも違うため、部室で部活のことを話す程度の中だった。そんな彼に部活以外の話を振られたのは初めてだった。
急なことだったので思わず「クドカン好きなの?」と聞き返してしまった。岡田君は「クドカン好きだよ」と答えてくれた。そこからクドカンがどんなに凄い監督か、池袋ウエストゲートパークやタイガー&ドラゴン、木更津キャッツアイだけでなく、クドカンが所属する大人計画のことまで教えてくれた。
ひとしきり盛り上がった所で、岡田君は「今度クドカンの映画を観に行かないか? 少年メリケンサックってやつなんだけど」と言ってくれたので、食い気味に「行く!」と答えた。
観に行くのは今度の休日と決め、お互い帰路についた。ようやく『少年メリケンサック』が観に行ける喜びを噛みしめながらも、次第にある不安が過るようになってきた。
映画を観に行くといっても、映画を観てすぐ解散となるはずがない。ご飯を食べたり、場合によっては買い物とかをするかもしれない。彼は本気でクドカンが好きだったが、僕はドラマを少しみただけでにわか好きだ。岡田君は僕をクドカン好きと思ってくれているが、はたして休日を仲良く過ごせるだろうか・・・。
今日の会話を思い出して、何か糸口を見つけようと思っていると、あることに気が付いた。
岡田君はクドカンが好き
↓
岡田君目線、僕はクドカンに似ている
↓
岡田君は僕が好き
!!!
岡田君は僕のことが好きであるならば、何も気負う必要はないじゃないか!
意味のわからぬ方程式で強引に自分を納得させ、あれこれと考えることは止めにした。
案の定、心配は杞憂に終わり楽しい休日を過ごした。それ以来、岡田君と仲良くなり部活以外でも遊ぶ仲になった。
***
月日は流れて高校3年生。受験モードにもなりはじめ、岡田君と遊ぶことも少なくなっていった。
うちの文化祭には3年生全員に共通のTシャツを配られ、そこに友人からメッセージをもらう伝統があった。いわゆる寄せ書きのようなものなので、書くメッセージは日頃言えない感謝の言葉や、受験へのエールなどだった。
せっかくだから岡田君にもメッセージをもらいに行った。ある日の部室だった。通っている予備校のテキストを読んでいた彼に声を書けると、僕が持っていたTシャツを見てペンを取り出した。何を書くか少し悩んで一言だけ「少年メリケンサック」とだけ書いた。
もしあの頃、クドカンが『少年メリケンサック』を撮ってくれていなければ、僕と岡田君は仲良くなれなかったかもしれない。
編集:彩音
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