【習作】最悪の夏の終わらせかた
注意:人によっては、というか、どう考えても不快な表現があります。
たとえば、ちょっと道端に咲いてる花を手折って、それを持って帰って活けてみたとか。あるいは、いつも行く食堂でふだん頼まないものを頼んでみるとか。ふだんは素通りしている本屋のコーナーで知らない作者の本を手に取るとか。
そういう種類のことだ。
ちょっとした非日常?
日常に変化をつける?
ちょっとステキな私?
そういうやつだ。
そんなわけで、死にかけのセミを拾って、それでひとつオナニーをしてやろうと思った。
ジジ、ジジジジジ……。
焼けたアスファルトの上でセミが円を描いている。死にかけのセミがそれでもなおも鳴くのはなぜなんだろうか? まだ交尾したいのだろうか? もしかしたら自分の鳴き声に反応したどこかのメスが自分のそばに降りたって、瀕死のセミ陰茎をセミ膣に迎えてくれる可能性に賭けているのだろうか? しかし残念ながら、起こるのはもっと悲惨なことだ。
私はおもむろにその瀕死のセミを拾い上げる。セミはわたしの手の中でジュジジと声をあげた。わたしはズボンの前のホックを外し、前を開けて自らのペニスをつまみ出した。わたしはセミに欲情する性癖はないので、このときの私は勃起状態にはなく、したがってその状態を得るために性的な想像に頼らねばならなかった。具体的な想像の内容は省くが、そのような形でのいわば義務的な勃起はわたしの得意とするところだ。陰茎がある程度の硬さを得た段階で、わたしは半ばずり落ちたズボンのポケットから小型の折りたたみナイフを取り出し、セミの腹部の下端を切り落とした。私はその切断した下端に自らのペニスを当てがい、ぐっと挿入を開始した。
オスのセミの腹部は空洞になっている。もっともその空間はごく狭いもので、要するにそこに人間の男性器を収めるなど無理なことだ。私の陰茎はセミの腹部を破裂させ、容赦なく破壊していく。セミの断末魔が振動として、その先端部を機械にはけして不可能なランダムさをもって刺激する。
私が絶頂に達するころには、すでにセミは原型をとどめていなかった。わたしはその一部始終をスマートフォンで動画撮影していた。いわゆるハメ撮りである。
一息ついて、セミの体液と自身の精液でねばついた手にふと不快感を覚えたとき、携帯が鳴った。
「はい……はい、いま戻ります。はい、すみません」
私は電話を終えた。
それから私はチャットアプリを立ち上げ、会社のグループを開き、そこに先ほど撮ったセミのスナッフセックス動画を貼り付けた。そのグループには先ほどの電話相手である課長も含まれている。
そうこうしている間にベトベトだった左手が乾いてきた。私はその左手をアスファルトにこすりつけ、張り付いた羽根や複眼の残骸をこすり落とした。
わたしはズボンを直し、走り出した。
ポケットにはナイフがある。
わたしは次に会った最初の人間を刺すことに決めた。
夏が終わっていく。