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インティメート・ボランティア

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親切心ではじめたボランティアが、いつの間にか自分の空虚の穴をうめるものになっていた。
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#ボランティア

インティメート・ボランティア 5

「もう私、32歳ですよ。残念ながら若いという商標をつかえない年代になっていますよ」

そう言いながら志穂は、今の自分には、若さをとったら他に何が残っているのだろうとぼんやり考えた。

若さをどんどんと失いながら、他の人たちは、確実に何かを手にいれているように感じる。そして、ときどき沸き上がるような焦燥感を無視できなくなる。

自然の法則のなかではギブアンドテイクはない。志穂は、今までただただ若さに

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インティメート・ボランティア 4

星野は、訪問先のなかで一番若い40代なかばぐらいだ。

数年前に交通事故で背中にウィルスが入り、下半身が自由に動かなくなっていた。それにも関わらず、星野は前向きに生きていた。自宅でパソコンを使ったビジネスをやっているようで、一人暮らしだが自立して暮らしている。

星野は、世田谷の住宅街に住んでいた。駅から歩いて4分、真っ白い壁、真っ青のベランダルーフがすがすがしい印象を与えるマンションだ。

部屋

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インティメート・ボランティア 3

志穂がボランティアを始めるきっかけになったのは、派遣の仕事を始めて1カ月後の、ある週末だった。

区の知らせでボランティア募集の記事が目に入り、志穂は、以前だったら気にもしなかっただろう記事に目をとめた。

それは、隅っこに小さな囲みで、こう書いてあった。

ボランティア募集、経験、年齢不問。親切な方尚可そしてひっそりと下にボランティア団体の住所と電話番号があった。  

そのとき、志穂の頭のなか

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