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悲しき熱帯魚(小説)

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人魚姫をベースにしたせつない話です。
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2016年7月の記事一覧

悲しき熱帯魚 2章

 男の名は、井沢龍太郎といった。家が裕福な商いを行っていたので、金には幼いころから不自由したことがなかった。仲間に連れられて、早い時期から遊郭通いをするようになった。

 財力があるだけでなく龍太郎は、いつも流行の柄をぞろりと着流しており、歌舞伎役者なら必ず看板役者になれるぐらいの人の目を引くような男前だった。すっきりとした鼻筋に切れ長の目。龍太郎が通ると、振り返る女たちは多かった。

 龍太郎は

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悲しき熱帯魚 1章

悲しき熱帯魚 1章

 まるでそこは、深海で鮮やかな熱帯魚が乱舞しているように、色彩に溢れている。ひらひらと女たちが手を振り客引きをするようすは、熱帯魚たちが自由を謳歌しながら泳ぎ回っているように見える。

 女たちは深紅、青、紫など艶やかな色にくっきりとした花や鳥などが描かれている着物を、襟足を大きく開いて気崩している。襟足から覗く白いうなじからは、ふくよかな女の色香が放たれている。

 鳥籠のなかの女たちは、ゆらり

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