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【連載小説】明日なき暴走の果てに 第1章 #3
結局2人が温泉に行くことはなかったが、レンタカーを借りて一緒に初日の出を観に行った。
年が明けてしばらくすると遼太郎は図書館にこもるかバイトに行くか家で寝るかのいずれかになり、女性に対する奇異な行動は落ち着いた様子だった。これには正宗もホッと胸を撫で下ろした。
* * *
3年生になると一般教養の授業がほとんどなくなるため、必然と2人一緒に講義を受けることは減ったが、それでも正宗はよく遼太郎を待ち伏せて昼飯に行ったり、互いのバイトが終わる頃に落ち合って互いの部屋で酒を飲みんだりした。
ある日、学食でランチを取りながら正宗は訊いた。
「遼太郎は就活するんか?」
「うん、そのつもり。正宗は?」
「俺は修士に行こう思うとるんや」
そうか、正宗は本当に『勘当』されたわけではないんだな、と遼太郎は思った。遼太郎はもそうだが、彼は仕送りすら手を付けずに奨学金とバイトで賄い、親に頼るのは最低限にしているから、修士に行く金銭的な余裕がないのだった。
早く働いて、早くのし上がってやろう、と考えていた。
「へぇ、すごいな。数理で修士か。将来は教授にでもなるつもりか? 正宗なら学生に好かれるだろうな」
「どうやろな。強引すぎて嫌われるかもしれへんで」
「それはあるかもな」
「こらこらこらーっ」
この頃の2人は穏やかだった。
ただ、正宗の胸の内にはいつかの遼太郎の言葉が尾を引いていた。
『時折自分を抑えられなくなる。何かを壊さないと、自分がぶっ壊れそうになる』
「あいつ…なんか深い悩みがあるんちゃうか…」
正宗は自分の家や家族の愚痴を酒の席でよく遼太郎にこぼした。
そんな時遼太郎は「俺もうよくそんな風に思うよ」と同調してくれたり共感してくれた。
しかし遼太郎の方から進んで自分の話をすることはほとんど無かった。
そこに何か彼の問題があるのではないか、と正宗は考えた。
正宗なりに色々調べたり教授や知り合いの研究生などに聞いたりしたが、下手なことをしても遼太郎の気持ちを逆撫でするだけかもしれない、と思い出来る限り変わらない態度で接することが一番だ、と思うようにした。
* * *
遼太郎の就活が始まると、あっさりと数社の内定を獲得していた。
弁の立つ遼太郎のことだから面接は完璧だろうし、学科内の成績もトップだと聞いていたのでさぞ大きな会社に行くだろうと思っていたのに、内定承諾をした会社名を聞いた正宗は「は、どこやそれ?」とポカンとしたリアクションを返した。
「大きな会社は派閥とか色々面倒くさそうだしな。この会社は規模は確かに大きくはないけれど、面白そうなんだよ。それほど大きくないからこそ、自分たちで会社を動かせそうだっていう実感が持てるんだ」
「そのうち遼太郎が動かすことになったりしてな」
「そうしたいと思ってる」
その言葉には正宗も圧倒され「さすがやな」と心から感嘆の声を挙げた。
「遼太郎らしいな。さすがや。お前ならやってくれるな」
「どうかな。悪い癖もあるしな」
「心配なのはそれだけやな。でも強い優秀なリーダーは優しさだけじゃ務まらんしな。お前の悪い癖も使いようかもしれんよ」
遼太郎は苦笑いをし、正宗はフッと一息吐くと言った。
「ほなこのまま東京で暮らしていくんやな」
「うん。正宗だって修士に進むんだろ? こっちに残るんだろ?」
「そやな…」
ぼんやりと遠くを見た正宗に遼太郎は「実はホームシックになってるんじゃないか?」と冗談っぽく言ったのだが、意外にも正宗はいつものようにおどけることはなかった。
「まぁ近くにおるならちょいちょい呑み行こうや」
やがて大学を卒業し遼太郎が企業へ、正宗が大学院へ進むとやはり時間軸は異なって進んでいく。
新卒研修や社外交流などで忙しい遼太郎とはなかなか会うことが出来ず、6月頃にようやく飲みに行くことが出来たが、既に違う世界の住人になった気がして2人は次第に疎遠になっていった。
第2章#1 へつづく