ヒースロー空港で赤面
(2)月子さんとノブちゃんへ
以前話したことがあるけど、自分はそろそろ50歳に手が届きそうなくせして、これまで海外旅行といえばハワイと韓国にしか行ったことがないのです。韓国は仕事の出張、ハワイは婚前旅行(結局、結婚しなかったけど)。ヨーロッパは今回が初体験だったので驚きの連続です。
まず、第一の発見は日本からマヨルカ島へは直行便がないことです。それすら知らなかったのです。日本からはひとまずヨーロッパの都市に飛び、そこからマヨルカ島のパルマ・デ・マヨルカに行くのです。自分は成田からロンドンに12時間かけて飛び(窮屈なエコノミー席に閉じ込められながら)、ロンドンで待つこと約7時間、便を乗り継いで2時間半かけて、はるばるパルマに着いたのは真夜中過ぎでした。
ロンドンのヒースロー空港では見事に迷子になりました。1時間半ぐらいあっちに行ったり、こっちに行ったりしたあげく、便を乗り継ぐためには再度手荷物検査のセキュリティを通らなければならないことがやっとわかったのです。
列に並び、前の人を真似して荷物をトレイに乗せ、腕時計、ポケットの小銭入れ、ベルトや鍵などもそこに入れました。無事、セキュリティを通り抜けたかと思いきや、安堵したのもつかの間、頭にターバンを巻いた、髭がもじゃもじゃな係員のオジサンに英語でぶつぶつと注意され、異議申し立てをする余裕も与えられず、手荷物の中にあった洗顔クリーム、ヘアクリーム、それにシーブリーズが没収され、問答無用、ゴミ箱に投げ捨てされてしまいました。
どうやら100ミリ以上はダメだとターバンのオジサンは言っているようです。「ああ、しまった! スーツケースに入れておけば良かった」と、口惜しかったのですが、すでに後の祭りです。
ターバンのオジサンはポーチの中をさらに漁り、液体が入っているチューブを取り出します。それが「Luve Jelly」。ローマ字とカタカナで「リューブゼリー」と書いてあります。ターバンのオジサンが、これは何だと言わんばかりにしげしげと見つめています。何ミリ入っているのか調べているのです。どうやら「Luve」は、「Love」ではないかという連想が働いたらしく、その用途がばれたのか口元にニャといういやらしい薄笑いを浮かべています。自分は恥ずかしいというか、赤面する余裕すらありません。目線をそらし、床を見つめながら心の中で「神様、仏様、それだけはお許しを……」と、つぶやきました。
すると同情してくれたのか、それともこのターバンのオジサンもローションを使っているのか、「Luve Jelly」をポーチの中にしまいました。55グラムなので許してくれたのでしょう。
旅の恥はかき捨てとよく言いますが、これは自分には耐えられない屈辱でした。愛用しているローションを真昼間から公然わいせつ罪の疑いがあるかのように人前にさらされたのです。
早く、一刻も早く、マヨルカ島で美味しいレアなワインが飲みたいです。
(続く)