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”アフターデジタル", ビービット社コンサルタント、藤井保文(ふじいやすふみ)さん

武蔵野美術大学大学院・クリエイティブリーダーシップ特論II、第13回藤井保文さん、2020年8月10日@武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス(via Zoom)by 木越純

今日は昨年出版されベストセラーとなった「アフターデジタル」の著者で、UX/DXコンサルタントの藤井保文さんをお迎えしました。藤井さんは、1984年生まれ。東京大学大学院 情報学環・学際情報学府 修士課程修了の後、2011年ビービットにコンサルタントとして入社。2014年に台北支社、2017年から上海支社に勤務し、現在は現地の日系クライアントに対し、UX志向のデジタルトランスフォーメーションを支援する「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティング」をされています。

導入は藤井さんの上海での見聞からです。中国、特に上海を筆頭とする大都市でのデジタル化の進展は目を見張るものがあります、Cash利用比率が3%を切っており、買い物から外食、デリバリーから、タクシーや自転車シェアリングなど、果ては物乞いの賽銭まで、生活のありとあらゆる分野で決済のデジタル化が進んでおり、人の行動がデジタルデータとなって利用可能な社会になっています。

日本のメディアでは、ビッグデータで人々が管理されているデストピア的な中国像がよく取り上げられますが、デジタルデータを上手に活用して利用者の利用体験を向上させ、満足度を上げビジネスの拡大に繋げている企業がいくつも出てきています。それまでは一つのサービス、一つの製品の提供を通じてしか分からなかった消費者の嗜好やニーズが、連続した様々な体験や行動の一部として把握することができるようになり、体験全体を提供することができるようになったからです。これからの成功企業は、OMO(Online Merges with Offline)にどう取り組むか、オンとオフを分けるのではなく一体として捉え、課題を克服した企業です。

また、これまでの中国社会が抱えていた社会課題に、アフターデジタルの仕組みが解決策を提供するような事例も出てきています。一つは決済プラットフォームを提供するアリババの信用スコアです。中国には銀行口座もクレジットカードも持たない人々がまだ何億人もいます。彼らは従来の金融の枠組みの外にあって、事業を起こすにしても日々の活動をするにしても金融のサポートは得られませんでした。しかしアリババにアカウントを開き日々の支払いを済ませてゆくうちに、個人の決済データーが蓄積されて信用スコアが付与されます。スコアが良ければ、クレジットカードなしでもホテルでデポジットを免除されたり、小商の原資を借りられたりするのです。

またタクシードライバーの評価システムでは、最新のモニタリング・テクノロジーとUXに基づくフィードバックプログラムに依って、品行方正かつ安全運転を続ければ続けるほどタクシードライバーの給与が上がる仕組みを作り上げ、これまで幾度もキャンペーンを張りながら一向に改善しなかったタクシードライバーのマナーが格段に改善したとのことです。人々の行動に変化をもたらす力として、「法」「規範」「市場」「アーキテクチャー」の4つがあると言われます。アフターデジタルの世界では、デジタルデータを握る企業が4つ目の「アーキテクチャー」を作り出して世の中を変えてしまう力も持ったということでもあります。ここに、これまでになかった企業の自律と倫理の問題が起こってきます。

さらにアフターデジタルの世界では産業構造が大きく変わります。物作りに長けた質の良い製品を生み出す企業ではなく、データを制し決済を握るプラットフォーマーと言われる企業が産業構造の頂点に立ちます。上位のプラットフォーマーのポジションは、中国ではアリババとテンセントが二分しています。アメリカではGAFAがこれに当たります。中位は、顧客に直接繋がっており顧客データを持つサービサーになります。そして下位は、商品を提供するメーカーなどが入ります。従来の産業構造ではヒエラルキーをトップに君臨していた大手自動車会社も、自らのポジショニングを変えずに自動車製造業の枠組みに止まれば、最下層に下請に甘んじる可能性があるのです。

中国で起こったことは特殊なことではない、必ずしも全く同じことが起こるわけではないが、日本でもこれから起こってくることだと藤井さんは警鐘を鳴らします。特に日本企業は、デジタルトランスフォーメーションというとついデータとその収集に目が行ってしまい、それをどう活用するかのUXの視点が抜けてしまいがちと言われます。なまじ物作りが得意でおもてなしの伝統があるので、アフターデジタルへの発想の転換が苦手なのかも知れません。(了)

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