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”あるものを進化させるから、無いものをつくる”、インフォバーン・京都支社長、井登友一(いのぼりゆういち)さん

武蔵野美術大学大学院・クリエイティブリーダーシップ特論II、第7回井登友一さん、2020年6月29日@武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス(via Zoom)by 木越純

今日は、デジタルによって企業のイノベーションを支援するデザイン・ストラテジスト、インフォバーンの井登さんを講師にお迎えしました。お仕事の傍ら、京都大京都大学の経営管理大学院博士後期課程で、サービスイノベーション&デザインを研究されている学徒でもあります。

最近企業から依頼されるテーマが、「今あるものを進化させる」から「まだないものを考える・つくる」へと変わってきているとのことです。テクノロジーや情報が世の中に行き渡り、大方のモノやサービスは機能や質で差別化ができなくなっています。デザインコンサルタントの分野でも、デザインリサーチやインタフェース、あるいはUXデザインの手法を用いて、これまであったものを如何に良くできるかという段階から、今はない未来の姿を見つけることに焦点が移っているのです。

どうしてこのような変移が起こるのか、B.J.パインとJ H.ギルモアが提唱した「経験経済」で読み解きます。経済価値は、競争条件のステージに従って上がるという理論です。差別化度合いの低い「コモディティ」では、コストでしか差別化を図れないので価格は低くなります。それから機能による差別化を図る「製品」、感情による差別化を図る「サービス」、経験による差別化を図る「経験」と難易度と価格のステージが上がってゆきます。その「経験」の先にあるのが第5ステージの「変身」です。顧客の気づいていない願望や無意識のうちに諦めていた「経験」を形にして提供し顧客自身が変わることができるとき、顧客は最も高い価格を払います。

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そのような良質な経験とは、必ずしも便利で効率的で快適な経験ではありませんん。鮨のレジェンド「すきやばし次郎」の例では、愛想一つなく無言で握られ差し出される鮨を黙々と食して退散する緊張感漂う30分間に対して、お客は感激し数万円を喜んで払います。特殊な環境下とはいえ、良質な体験(サービス)は高級になればなるほど一般に言う「サービス」度合いが減ってくることがあるのです。

では顧客の本質的なニーズをどう見抜くのでしょうか。クレイトン・クリステンセンの「ジョブ理論(Jobs-to-be-done )」では、ある特定のシチュエーションで顧客が成し遂げたい進歩を「ジョブ」と呼びます。「ジョブ」を進める手段として特定の製品やサービスを消費する行為を「雇う」(消費するではなく)と呼びます。どういった製品やサービスが「雇われる」かは状況次第ですが、今の時代に求められる「ジョブ」には、機能面でのニーズを満たすというより、顧客が潜在的に持っている「こうありたいこうしたい」という問いを見つけ出して提供することが求められているのです。

この世界は問題の解決だけでは足りない、これからのデザインに求められることは、問題の解決から新たな意味の提案であると展開します。ご紹介いただいたロベルト・ベルガンティの「突破するデザイン」には、愛される商品・サービスにはこれまでの常識の枠を突破したアイデアがあると幾つもの例が示されています。これからのデザインの果たす役割は、顧客が愛することができる「意味」を「価値」と「文脈」の中から紡ぎ出して未来のあたりまえをつくることなのです。

講義の最後に、日本のどのような企業が「今あるものを進化させる」から「まだないものを考える・つくる」へと問いかけを進化させているかと、井登さんに質問しました。オンラインサービス、自動車、家電、住宅など様々な業界から相談が来ているとのことですが、金融業界からまだない、これまでのサービスの改善に留まっているのではとのことでした。ここに今の金融業界の悩みがあると思いました。(了)


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