"Made in Local", 3.11復興の石巻と世界を結ぶ建築家、芦沢啓治(あしざわけいじ)さん
武蔵野美術大学大学院・クリエイティブリーダーシップ特論II、第11回芦沢啓治さん、2020年7月27日@武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス(via Zoom)by 木越純
今日は芦沢啓治建築設計事務所代表の芹沢さんをお迎えしました。芹沢さんは、本業は建築家ですが、一般家屋やホテル、商業施設などの設計建築をする傍ら、インテリア、家具やプロダクトのデザインと領域を広げ、工房運営や展示会デレクションまで行っています。お見受けするところ左利き、もしかしたらレオナルド・ダ・ビンチの様な多才な方なのかも知れません。
今日はご本業の建築家としてのお仕事のご紹介はそこそこに、3.11東北大震災の折にお仲間と応援に乗り込んだ石巻で始めた「石巻工房」と、そこから発展し世界に広がっている”Made in Local"の輪についてお話しいただきました。
3.11東北大震災の直後に、それ以前に改装を手掛けた商店のチェックと修復のため乗り込んだ石巻に、その後も定期的に訪れ復旧をお手伝いをするようになったとのことです。その中で、手仕事でできる木工程度のことが結構役にたつということに気づき、地元の方々が自分で必要な家具などを自由に作れる公共工房「石巻工房」を立ち上げました。仮設住宅などで便利に使えるシンプルで誰でも作れるベンチなどをデザインし、参加者に作り方を指導して、ご自分で作ってもらう仕組みです。そのうち噂を聞きつけ県外はもとより海外からも見学者がやってくるようになったとのことです。
当初はボランティアで運営していましたが、手弁当では長続きしません。そこでビジネスとして回る仕掛けを考えます。定番商品として人気を博しているAスツール(タイトル写真)は、地元で手に入る木材を使ったシンプルな設計のスツールです。震災復興にまつわるインパクトのあるストーリー性と優れたデザイン性でブランド化を図りつつ、国内外に販売してゆきます。石巻のサイトでは、工房だけでなくカフェなど様々なサービスを地元に提供する場ともなっています。石巻工房は、今では6名の従業員を雇用するビジネスになっているとのことです。
そうこうするうちにロンドンの家具屋から引き合いが来ます。最初は石巻から輸出していたのですがポンド下落で売れなくなり、それならばと現地パートナーにライセンス生産を許すことにします。Aスツールを現地パートナーが現地で調達できる素材を使って製作し販売する、Made in Localの始まりです。石巻工房はこれによりライセンス料収入の得るようになります。
その後ライセンス先は、ドイツ、スカンジナビア、フィリピン、インド、アメリカ(デトロイト)と世界に広がって行きます。また国内でも木工家具最大手のカリモクとライセンス契約を結びました。それぞれのパートナーの得意分野や現地のユーザーの要望を入れて、サイズにバリエーションができたり、無垢材だけでなく鮮やかに塗装されたものまで、Aスツールは日々進化しているとのことです。
震災復興支援のボランティア活動として始まったプロジェクト「石巻工房」が、今やインパクトのあるストーリーとシンプルなデザインと機能性を持つ家具のブランドとなり、共感者を得て世界各地展開するビジネスに育ってきていることは驚きでした。芦沢さんのマルチタレントと海外に広がるネットワークがその秘訣ではないかと思います。来年2021年の震災10周年には、「石巻工房」本をスイスの出版社と組んで出されるそうです。これからも目が離せません。(了)