音楽を聴かない私が音楽を聴けるようになった日
音楽を聴かない私が音楽を聴けるようになった日
私は、普段音楽をほとんど聴きません
家の中は常に無音だし、外でイヤホンを持ち歩くこともありません
SNSやテレビ、街中などで聴くので流行りの音楽はなんとなくわかるくらい
私は音楽を聴くと、自分の頭で何かを考えるということができなくなってしまうんです
歌詞やメロディーが頭の中に流れ込み、頭の中はそれだけになってしまう
私の思考はどこかにいってしまう
思うこと、考えること、が大好きな私にとっては、好ましい状態ではありません
それが苦手です
高校時代はほぼ毎日通学路で音楽を聴いていました
プレイリストにお気に入りの曲を何曲も入れて、ずっと聴いていました
生まれ育った町で、毎日同じ道を歩いて、同じ景色を見る
私は、新しい思考を生み出そうとしていませんでした
このままでいい、この町でいい、このままの私でいい
生活に、自分に、安心しきっていました
毎日同じ生活をすること、それでいい
音楽を聴いていました
考えたくなくて、歌詞とメロディーを私の中に流れ込ませて、なるべく自分の思考と対話しないようにして学校に、家に歩いていました
高校を卒業し、上京し、一人暮らしを始めてから
全てが新しくなりました
知らない町、知らない道、知らない景色、知らない音
私は、生活と自分を一体化させることに必死になりました
新しいものを、すべて自分に取り込もうとしました
そんな日々に、音楽は私の中に入り込めませんでした
そして、思考するようになりました
私は、文章を書いて生きていきたい大学生
作家は、自分の中で自分の言葉を作り出していかなければならない
夢が明確になった今、世界を言葉にし続けることが私の夢につながることだと認識し、毎日ひたすら頭の中で言葉を使って、自分の思考と対話し続けています
高校を卒業して三年と少し経った今日、久しぶりにイヤホンを取り出しました
なんとなく、音楽を聴きながら歩きたくなったのです
スマホを変えてからインストールされていなかったSpotifyをインストールし、高校時代がまるごと残されたプレイリストを開きます
RADWIMPS、ONE OK ROCK、あいみょん、乃木坂46
高校生の時、一人で学校に向かって歩いていた時間
そう、あの時私は一人だった
一人で音楽を聴いていた
保育園を通り過ぎてトンネルを抜けて、小さな神社の横を通ると大きな通りに出て、右手にはウエルシアが見えて、高校生が増えてきて、顔見知りの姿を見つけて、校門をくぐって、始業5分前に席に着く
うん、そうだった
そして、ここは、今は、私は
東京の町
私が住んでいる町
私は家族の元を離れて、一人暮らしをしている
この町ででできた友人とごはんを食べるために、歩いている
三年前、知らない町だったこの町は、知っている町になっていました
この道からは星空が綺麗に見える
今日はあの子の家で餃子を食べるんだ
新しく取り入れられるものが少なくなった町
私はこの町で安心して暮らせるようになったんだ
ここでいい、このままでいい
音楽は、私の中に入り込みます
歌詞とメロディが私を充たしていきます
ようやく生活と一体化できたという安堵と、貪欲に新しさを取り入れようとした日々の鮮烈さを失った寂しさを感じ、私はスマホの音量を上げました